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別れの時

4月、ガイナの軍隊に五年に一度の配置替えの時が来た


西部に駐留していた第四部隊の半数が離宮のあるこの北部にやってきた

その到着と同時に、北部に駐留していた第三部隊の半数が東部に移動する


第三部隊の先陣が東部に旅立つのを見送ったマリナは、ああ、いよいよこの離宮と、別れの時がきたと思った


第四部隊のもう半数が到着したら私もお父様とこの土地を離れなければならない


マリナは二十歳になっていた


親友のフラウが結婚してからの二ヶ月はあまり城に出入りしなくなっていた


フラウは結婚してからは城に飾るタペストリーの刺繍をする暇があるのなら、自分の夫のブラウスを少しでも丁寧に仕立てたいと思っていた


また家事全般を自分でやるので時間的余裕もない


フラウがいないとなんとなく心細くて、マリナもあまり城に足を運ぶ気がしなかった


いよいよ東部への出発が迫る今になってそれを後悔する

いやがおうにもみんなと会えなくなるというのに




マリナは自分の遅い初恋はフォンだと思っていた


けれど…


本当はユアン様だったのではないだろうかと思う


最近やけに初めて城に呼ばれユアンの手を必死にかじった時のことや、その後廊下ですれ違う時のユアンの眼差しを思いだす


君主に心をかけてもらっているというありがたさはマリナの心を温め続けてきた


あの日私をからかったユアン様

あんなユアン様の一面を知っている方は他にいるのだろうか…


誰もいないような気がした


リュウジュ様でさえご存知ないのではないかと思う


園遊会の日、リュウジュに迫るユアンを見て心に刺さった小さな棘は今になって痛みだし、ほんの少しの恋心をマリナに気づかせた


カランとの約束が無ければどれだけ切ない気持ちでこの地を去らなければならなかっただろう


マリナは再会したカランと手紙のやり取りの中で、友情以上のものを育んでいた


両親の許しを得たら私は西部のカランのもとに嫁ぐことになるだろう


最後にとフラウと一緒に離宮の庭を散歩しながら、娘時代をこの美しい離宮で過ごせたことは本当に幸せなことだったなと思い、マリナは庭中の小道を歩き、その場その場の花々や木々をを眺め今までの思い出を振り返るのだった


もちろん、園遊会の日、「食い気が勝るのか」とユアンに怒られたことと、その後の眼差しも






この地を去る日の前日、マリナにユアンから小さな箱が届いた


掌に収まる白い箱にはピンクのリボンがかかっていた

手紙などはついていない


リボンを解いて中を見ると、色とりどりの小さな粒の砂糖菓子が入っていた


思わず笑みが溢れる


昨日リュウジュ様のお部屋に挨拶に伺った時に頂いたものと限りなく似ている


リュウジュ様に頂いたもののほうが箱が少し大きかった

リュウジュ様のほうが気前がいいなぁ


笑顔のマリナの頬を一筋涙が伝う


別れの寂しさや切なさのせいではない


それは人がその成長の歩みを止めることを決して許さない、時の流れへの抗議の涙だった





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