商売人
翌日、マトハはガイナからロウドに向け旅立った
ユアンに集めた紙の料金の支払いを受けて
ユアンに数日スオミに逗留するよう勧められたのだが、キャラバンを連れている
マトハのキャラバンはスオミで一番大きい川の辺りでキャンプを張っていた
各国で紙を集めるついでに、その地方の珍しい装飾品や毛織物の染色に使うミョウバンなどを仕入れてきた
暮らしの安定しているロウドに持ち込めば喜ばれるであろう
無駄に逗留すればその分人件費が増す
リュウジュとゆっくり語り合って過ごしたい気もしたが…
やはりマトハは商売人であった
無駄に経費を使うのを良しとしなかった
スオミで売れる商品を仕入れ、必ずまた来ますとリュウジュたちに挨拶をして離宮を去って行った
城の城壁を出てしばらく進んでからマトハは城を振り返る
今回の訪問で感じた違和感…
ユアン王子に忠告すべきか迷ったが、自分が気づくようなことはユアン王子も気が付かれているであろうと口にはしなかった
カヘイもエトロに別れを告げるときに何とも言えない寂しさを感じたが、それを口にしなかったし、態度にも出さなかった
いたずらに若い娘の心に期待を持たせてはいけない
なんの約束もできない自分である
カヘイは自分の主人が旅と商売を愛し、それを優先させて生きてきたように私もそういう生き方をするのだろうと予感していた
人足としてキャラバンに参加していた頃は特に目標など持たないカヘイだったが、小間使いとしてマトハと行動を共にするようになってからは、旅と商売の面白さに目覚めた
資金を貯めていつか自分の商会を立ち上げたいという夢もある
その時はお茶を扱いたいと思っていた
カヘイは去年ユアンにいれてもらったお茶の美味しさが忘れられなかった
お茶を飲む習慣のない土地にもお茶を売り歩きたい
そのためにはまずその土地の水の質を調査することが必要だろう
そんな夢やら計画やらが寂しさを感じるカヘイの心を奮い立たせる
が…
マトハが城を振り返った時、カヘイも切ない気持ちで城を仰ぎ見たのだった
ユアンは早速ナリのハルイ王に依頼の手紙を書いた
後日、その承諾の手紙を持ってきたのは、ナリの紙漉き技術を持った職人とその弟子であった
その職人はスオミに着くと紙の原材料になる植物を求めて川辺や野山を歩いた
職人はガイナの水の豊かさに喜んだ
水は紙漉きに欠かせない
離宮の周りには高い山はない
が低い山はいくつかあった
その山に紙の原料になるミツマタなどの植物も自生していた
ナリにいた頃よりずっと良い条件で紙作りができる
山から下る途中、職人はガイナの領地を眺めてその緑豊かな美しさを楽しんだ
そして神がナリの土地を一色の絵の具の濃淡で描かれたとするならばならば、ここはあらゆる色の絵具を使い描かれた絵のようだと思った




