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ナリの紙

「ハルイ王から来る書状等は、ガイナの紙と何ら変わりないが」


訝しげにユアンはリュウジュに問いただす


「薄い紙の製法がナリにもあるのか」

「それはナリの秘密ではないのか?」


いいえ、とリュウジュは首をふる


「特に秘密になどしておりません」


「ナリは納めさせる税が少ないのです、その代わりに国民に国のための労働をさせるのです」


「各役人もその仕事で禄をもらっておりません」

「一部の軍人と王宮に勤める者だけに国から給金が支給されます」


「ナリの記録を残す役人も普段は織物などで生計を立てております」


「その一族が薄い紙を作る技術を持っております」


「ナリでは長く残す家系図のような物のみに薄い紙を使用致します」

「その製法が広がらないのは他に需要がないからでございましょう」


「またナリでは水が少く、輸出するほどの量は作れないのです」


「そして各国への書状に厚い紙を使用しているのは、薄い紙の存在を秘密にしたいと言うより、薄い紙がみすぼらしく重みのないもののような印象を与えると考えての事だと思います」


ユアンもマトハもこれには少々面食らった


ガイナはこの大陸、各国の秘密を集めていた


ナリの紙の情報がユアンの許に届かなかったのは、それを意図して秘密にはしてなかったからだろう




「リュウジュ、その紙を作る技術を持った者を呼び寄せることができるか」


とのユアンの問いにリュウジュは


「ユアン王子なら呼び寄せることができると思います」

「ナリの危機を救ったユアン王子になら」


と、答えた


ここで我慢しきれずスバルが質問した


「ユアン様、お聞かせ願えませんか?」

「その丈夫な薄い紙に何の記録を残そうとしているのか」


一同はユアンに注目する


「各人が納めた税だ」

とユアンはさらりと答えた


「詳しいことは…」

「長く保つ薄い紙が出来上がってから話す」


そう言ってユアンは各人に食事を進めるように促した




主税局のムラキは皆と一緒に羊の肉を頬張り、マトハの旅の話に耳を傾けるふりをしながらも、先ほどのユアンの言葉が気になってしかたなかった


紙が出来上がってから話されるであろうその内容が


…ユアン様が税を上げるつもりであるのは間違いない気がする


スオミは市民に無駄な余裕をもたせ争いのための武器の購入などに当てないようにするために、すでに他の地域より税率が高い


これ以上税を取り立てては市民の不満が爆発するのではないか…


税の高さを嫌ってスオミを出ることも市民には許されていない


ユアン様に西部の秀才リアンを預けられた時から、なにかなさる気だということを感じていたが…


今後自分に与えられるであろう試練の重さを予想してムラキは憂鬱になった


ふと見るとスバルも眉間にシワがよっている


多分私と同じことを考えておられるのではないか…


マトハも楽しげに話してはいるが…


彼もまた、集めた紙の中にナリの薄い紙が漏れていたことに忸怩たる思いがあるに違いない




この場で華やかな顔をしているのは自分の求めていたものが手に入ると確信を得たユアンと、ユアンに有益な情報を与えることができたリュウジュだけだった




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