表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/81

マトハ再来

二月の末、マトハが一年ぶりにスオミを訪れた


ユアンに依頼された各国で集めた、いろいろな種類の紙を持って


ユアンはマトハに離宮に逗留するように勧めたが、マトハはそれを辞退した


ヒシ家の看板を背負い各国を商いのため飛び回るマトハである

自身はガイナの国民ではあるが、一つの国家中枢と近づきすぎるのは他国での商売に支障が出る


今回のユアンの依頼も一商人として引き受けたことである


そんなわけでマトハは前回泊まった宿に逗留した


この間マトハの連れてきたキャラバンはスオミの川べりにキャンプを張り、西の国々の織物などを仲買人に売り歩く


マトハ自身も旅の途中はこのキャラバンと野営する


今回のように身なりを整えなければならない場合のみ宿屋に宿泊する




「ユアン王子、私が集められる限りの種類の紙をお持ちいたしました」


「マトハ、ご苦労だった」


そう言い、ユアンはマトハが持ち込んだ大量の紙を広間に並べさせ、その紙の特性の説明をさせた


その説明を聞くのはユアン、ルルド、スバル、主税局の責任者のムラキである


正直、ルルドやスバルたちはなぜユアンがマトハに紙を集めさせたのかがわからなかった


確かにガイナの紙は厚くそのため本などにした時重くはなるが…


だが皆質問を許さないユアンの空気を感じ取っていた


マトハもそのへんは心得ていて、ユアンに紙の収集を依頼された時も、それを持ち込んだ今も、ユアンがなんの意図を持っているのかを尋ねなかった


マトハの説明を聞いているうち、一枚の紙がユアンの興味を引いた


飛び抜けて薄い


「その紙は大陸の西の島国より取り寄せたものですございます」

「千年その質を変えないと言われております」


「千年…」

「ガイナの紙は五十年も経つともろくなってしまうが…」


「確かに」

「私ども商会も古い帳簿や資料の保存に苦労いたします

 紙に信用性があれば長い期間の契約も臆せずにできるのですが」


「お持ちいたしましたその紙はとても高価なのです」

「またその島国も紙の製法を秘密にしております」


ユアンはその薄い紙を手に何か考え込んでいる


「マトハ、下がって良い」

「リュウジュとフォンがマトハの訪問を楽しみにしているであろう」


「晩餐の時間までリュウジュの部屋でくつろぐが良い」


そう言うと、ユアンはルルドたちにも退出を命じ、一人広間に残った




マトハを迎え入れたリュウジュとフォンは再会に大喜びである


エトロも


マトハの小間使いのカヘイは、マトハがユアンに謁見している間、エトロたち城の使用人の控室で過ごした


休憩時間をそこで過ごしていた若い城の使用人たちはカヘイを取り囲み、カヘイが話す珍しい異国の話に聞き入っていた


ガイナ王家は特別な理由のない限りの国民の移動を禁止している


これは、北からの風神信仰の移民をスオミに受け入れたことにより各宗教間の紛争を激しくしてしまったのを反省してのことである


なので商用で旅を許されたカヘイの話は物珍しく、皆の心を掴んだ


カヘイが皆に異国の風習や、どの地域に美女が多いかなど、質問攻めにあっているところにフォンが呼びに来た


「カヘイ、マトハ殿のユアン王子への謁見は終わった」

「今はリュウジュ様の部屋にいらしている

 カヘイも来るようにとのことだ」


あ、カヘイが行ってしまう…


今日はリュウジュ様のお側にクシナが付いている


私もユアン王子の許に戻らなくては

そう思い椅子から腰を浮かしかけたエトロにフォンは声をかけた


「エトロにも来るようにと、リュウジュ様からのご命令だ」

「ユアン様の許にはクシナが向かった」


かすかに、カヘイの顔に笑みがこぼれた


エトロはそれには気付かなかったが、ああ、リュウジュ様はいろいろなことがお分かりになる方だなと思い、少し照れるような思いをするのだった






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ