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南部4

ユアンの学友の一人として選ばれた従兄妹のナツキはユアンに気質の似た少し冷めたところのある娘だった

ナツキの兄のシタンは逆に華やかで賑やかな一本気な性格だったが


ハアンはユアンの学友を選ぶに当ってユアンになるべくストレスを与えないであろうメンバーを揃えた


妹の娘であるナツキはユアンに性格が似ているような気がする


ユアンは将来ナリの姫を娶らなければならない

年頃になった時恋が芽生えては困る

ナツキなら自分の立場をわきまえ、もし将来ユアンに特別な感情を持ったとしても抑えることができるだろうとハアンとカノンは判断した


もっとも、そんな心配は無用だったのだが


この二人はお互いのことをゆるく嫌悪していた

もちろん一度も態度にも言葉にも出したことはない


だがユアンはナツキのなかに自分の欠点を見出していたし、ナツキはユアンのなかに自分の弱点を見出していた


そのくらい二人は似ていた




この南部に来て二人は久しぶりに会った

ユアンの叔母のマアルの希望でわずかな時間親戚で昼食を一緒に取ることになったのだ


この地方の豪族に嫁いでいたナツキも呼ばれた


タズナとマアル、シタンにナツキ、ユアンとリュウジュの六人の食事会だった


「政治の話はなしにしましょう」


というマアル言葉に、お互いの家族、子供の話になった


シタンにもナツキにもそれぞれ男女の子供がいる


「リュウジュ様にもすぐにお子様が生まれますよ」

「ほんとうにガイナの妃は恵まれています」


「正妃以外から生まれた子供には王位継承権がないので、夫が側室を迎え入れてもゆったりと構えていられます」


とマアルはリュウジュに向かって話しかけた


リュウジュは少し戸惑いながらも笑顔を作った

が続く


「ユアン王子は女性には奥手な方、手練の女性の一人や2人迎えたえたほうが、かえってリュウジュ様にもお子が生まれやすくなるかも知れません」


という言葉には血相を変えた


「母上様、品のない」


とナツキはたしなめたのだがマアルは言葉を続けた


「いいえ、正妃以外の子に王位継承権がないということは裏を返せば妃は必ず子を生まなければならないということなのです」

「そのための努力や我慢を惜しんではなりません」


この手の話を嫌うユアンである


ナツキはユアンが不快に思っているのではないかと気になった

と同時に母の無作法を止めない父にも軽く失望する


ユアンを見るとなにか考え事をしている様子

母の言葉は耳に入っていないのかもしれない


「叔母上様」


というリュウジュの呼びかけにナツキは意識をリュウジュに向けた


「私はユアン王子に側室を迎えることを許すつもりはありません

「弟君のカイト王子にすでに男子がおります」

「もし私に子ができなければササラが国を継げばよいのです」


この言葉には一同が驚いた

そしてひどく不快に思った


ユアンに側室を持つことを許さないとはなんという言い様なのだ

おとなしそうに見えてなんと思い上がった女なのだろう

ナリごとき小国の姫が


ずっと視線を落とし考え事をしていたユアンが顔を上げた


「リュウジュ、叔母上に向かってその口のききかたはなんだ」

「謝れ」


その言葉を聞きリュウジュは黙って席を立ち一人部屋を出ていった


「失礼」と言ってユアンはリュウジュの後を追った


部屋に残された一同はあっけにとられてしまった


リュウジュの不敬にも腹が立ったが何よりそれを本気で怒る様子がユアンになかったことに


ナツキは不思議に思った


誰よりも自分の感情を害する者を許さないユアンである

そのユアンが今の言葉や態度を不快に思った節がない


ナツキの目にはユアンが骨抜きになるほどナリの姫を愛しているようにも見えなかった


なにかおかしい…



ほんの数分ほどでリュウジュはユアンに連れられて部屋に帰ってきた


そして深々と頭を下げ思わず感情的になってしまった不敬を一同に詫びた


「私も無神経でした、まだお若いリュウジュ様に対して」


「さあ、気を取り直して食事を済ましてしましょう」

「男たちにはこの後大きな仕事が待っているのですから」


そう言って華やかにマアルは笑った


が、内心怒りは収まらず、その夜兄のハアン王に向けて今日の出来事を手紙に書いた

リュウジュに対する怒りと、そんな妻を許している風のユアンの不甲斐なさに対する怒りの


後日、マアルの元に届いたハアンからの返事には、リュウジュには私からきつく叱っておくと書いてあったが、リュウジュにハアンからの咎めは一切なかった


ハアンにはわかったのだ

リュウジュがユアンの秘密を知ったこととその秘密を守ろうとしたことが


この先、リュウジュとの間に子供が出来なくてもユアンが側室を持たないのはひどくヤキモチ焼きの妻のせいだと皆に思わせるようにして




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