ナリからの便り
リュウジュもフォンもナリ国に手紙を出すことを許されていなった
またナリからの便りも直接渡されることはない
ガイナの機密が他国に漏れることを嫌らってのユアンの判断だった
ただフォンは故郷の村への送金が許されている
それだけでもフォンは有り難い
フォンの生まれ育った村はとても貧しかったので
ハルイ王からはユアン王子に対しての手紙だけが届く
その手紙が届くたびにユアンは
「お前たちの家族に変わりはない」
とリュウジュとフォンに一言伝えるだけだったのだが、今回届いた手紙を読んだ後のユアンの様子は違った
何回か手紙を読み返ししばらく考えこんだ
その後リュウジュの部屋に向い
「リュウジュ、南部に行って叔父上と市民にお前の顔見せをする」
「明日出発する、今すぐ支度をしろ」
と伝えた
「その前に父王に手紙を書け」
「手紙…をでございますか?」
リュウジュは訝しく思ったがユアンに言われるままペンを走らせた
内容はガイナからナリ国に長持ち三百棹を贈る
ただそれだけである
王子はその手紙を持って部屋を出て行き、リュウジュとフォンは慌しく数日間の旅支度をした
南部…
一番宗教の対立が激しいと言っていた南部の市民に顔見せ
なぜ今?
リュウジュは書かされた手紙の内容にも疑問を覚えた
けれどそれをユアンに質問できなかった
クシナは南部に嫌な思い出があったので、今回の旅に同行したがらなかった
クシナの代わりにユアンはエトロを連れて行くことにした
あまり物々しい印象を与えないように警備する近衛隊も精鋭を選りすぐって人数を抑えている
北部を出発して三日目の昼過ぎ、南部の入り口の宿泊所で、ユアンはリュウジュに着替えを命じた
「リュウジュ、ここからは幌のない馬車で行く」
「叔父上の屋敷に向かう途中のリュウジュの姿を人々に披露する形にする」
「髪を綺麗に結い直し、黄金のリースをつけてこい」
「日が暮れる前に屋敷に着きたい、急げ」
そう言いユアンはその場で自分も着替え始めた
勢い良く上着を脱いだユアンに驚きリュウジュは慌てて部屋を出た
リュウジュはエトロに手伝ってもらいいつもより大きく髪を結い月桂樹を模した黄金のリースを付けた
ユアン王子の母親の形見のリースである
ドレスもユアンの指示で上半身に飾りのない袖だけが膨らんでいる淡いクリーム色のものに着替える
ロウドでの婚礼パレードの際には純白で襟に大きなフリルのついたドレスを着て髪にはダイヤのついたプラチナのティアラを付けていた
ユアン様の指示された今日の装いの方がリュウジュ様に似合っている、とフォンは思った
茶色の髪と黄金のリース、クリーム色のドレス全てが調和し、リュウジュの持つ柔らかだけれど芯の通った性格を表現しているように見える
身支度を終え控えの部屋から出てきたリュウジュを一目見て
「美しいな」
とユアンは言った
その言葉にリュウジュもフォンも驚いた
特にリュウジュはその後に何か嫌みめいたことを言われるのでないかと、身構えた
結果ひどく厳しい表情をユアンに向けることになった
その時のユアンに他意はなくただ美しいと感じたから言葉にしただけだった




