茶色
また雀が布団に入ってきた…
雀が布団に入って来るとユアンは熟睡できない
寝返りで潰してしまわないだろうかと気になって
仕方ないから自分はソファーに移る
すると雀もソファーにやってくる
結局寝れない
雀には居心地の良い手づくりの寝床を作って与えてある
少し厚めのフエルトで筒を作ったものと
箱に止まり木を通し自由に出入りできるものと
鳥籠に閉じ込めると次の日の機嫌が悪くなる
糞をそこらへんに撒き散らす
この雀はもう自由に飛べる
体も大きくなった
雀はこの部屋で暮らすのが幸せなのだろうか
たったひとりで仲間と語り合うこともなく
空に帰りたければ帰ればいい
ユアンは窓を開けてみた
雀は飛んできて窓枠に停まって外を見ていたがしばらくすると自分の寝床の止まり木に戻っていった
ああ、この雀はずっと私といるつもりなのだな…
園遊会の翌日の朝、リュウジュはユアンの私室に呼ばれたが、お互いあの木陰での出来事には触れずにいた
ともにクシナの淹れたお茶を飲みリュウジュに昨日の労いの言葉をかけた後、ユアンの目つきが鋭くなった
「リュウジュ、靴を履け」
やはりユアン様も気づいたのだな、リュウジュ様の不調に
私もリュウジュ様に体が冷えるからどうか今日は靴を履いて下さいとお願いしたのだが聞き入れて下さらなかった
そして今のユアン様の言葉にも従うつもりはないようだ
ふっ
頑固な…
リュウジュがユアンの部屋を去るとき、ぽそり茶色いなとユアンは呟いた
それを聞き取ったフォンはなんのことだろう、髪の色?いまさら…と思った
その後リュウジュは熱があるともだるいとも言わずに、ニレ家キリム夫人ミナエの訪問を受け、その日の行事を滞りなくこなした
前日の疲れでその日マリナは寝坊した
疲れていなくても寝坊は良くする
両親が甘いので怒られることはない
呆れられることはあるが
昼近くに起きて寝巻のまま居間に行ったら母親がカランを接待していた
こっちを見て
「相変わらずだなあ、マリナ」とカランが笑っている
あ、昔のカランだ
なんだか少し嬉しくなる
慌てて部屋に戻り着替えて再び居間に戻ったマリナにカランは話しかけた
「明日西に帰るのだけど、その前におば様に挨拶に来たんだ」
「マリナにもちょっと頼みがあって」
「頼み?」
「うん、昨日一緒にいた娘さんを紹介してくれない?」
え…
あ…
いいけど…
そう思ったが返事が言葉にならなかった
カランは言葉を続ける
「スミ家のリアンがマリナの友達にお茶の招待を断られてしまったんだ」
「けれど、どうしてももう一度話してみたいらしい」
「良かったら彼女を誘って一緒にリアンの宿に行ってくれないかな」
あーそうだったんだとマリナはなぜかほっとする
スミ家は西部では由緒ある家柄だ
金山の権利の一部も持っている
もしスミ家の息子に見初められたとしたらフラウ、玉の輿だわ
でも…
「本人に確認してみなきゃ…」
とのマリナの返事に
「マリナ、じゃあカランと一緒に馬車でスバル様のお宅に伺ったら?」
「フラウが承諾したらそのままスミ家の逗留先に行けばいいわ」
と母親は言った
フラウの家に向かう馬車の中でカランはどうして二人は獣人に抱えられていたの?と尋ねた
自分たちが見たことは言わないほうがいいような気がする
ユアン様とリュウジュ様のことは
二人で隠れてお菓子を食べているところをユアン様に見つかって、せっかく貴公子を大勢招待してあるのにと怒られてしまって…
無理やりフォンが貴公子の輪の中に私達を連れて行ったのだと答えた
「マリナ、やっぱり変わってないな」
と言ってカランは声を出して笑った
ユアンの執務室ではスバルや主要な役職者との打ち合わせの後いつものようにルルドだけが部屋に残った
「ユアン様、とても良い園遊会だったと皆から好評でした」
「やはり女主人がいると違うと」
「リュウジュは差配することに長けているな」
「生まれ持った能力なのだろう」
「リュウジュ様には私たち夫婦にまで気を使って頂いて…」
「お陰様でリオンの機嫌をとることができました」
「機嫌をとる?」
「お前が?」
「…」
「装飾品などを贈っても喜ばない女の扱いは面倒です」
「なにか自分の不満を口に出さず、不機嫌を持って夫を責めるような」
「昨日は久々に妻からの圧を感じませんでした」
「圧…」
「父親の談なのですがどんな従順な妻も圧を持って夫を苦しめるのだと」
「妻というのは夫を苦しめるために存在すると言うのが父の持論なのです」
ユアンはこの男がこんな私的な話をするのは珍しいなと思った
少し間を開けてから
「西からの招待客は主に誰が取り持っていたかを教えろ、ルルド」
と言った
「はい」
ルルドの観察の報告が始まった




