ほぞを噛む
細長いエン国の中程のバアツ地方を管理する大使はこの知らせを聞いてほぞをかんだ
なんと、ナリの姫を取り逃がしていたとは
しかも往来の人の多い中、堂々と自分の身分を名乗り、保護を求められたからにはこれ以上の手出しはできない
なにせ姫を連れてきたのはガイナきっての豪商ヒシ家三兄弟の一人マトハだ
貴重な獣人を連れている以上偽物扱いもできぬ
大使公邸に迎え入れられたリュウジュ姫は湯に入り、温かい寝床、滋養の強い食事を与えられて三日間を過ごした
フォンは姫と同じ部屋で過した
片時も離れず
大使は決してナリの姫に直接会おうとしなかった
その間、ナリ国の姫一行を襲った盗賊は捉えられ即刻処刑された
その者たちは姫を襲った盗賊ではなく、前もって他の罪で捉えられていた者たちだった
大使はエン国の王族で元首の弟だった
兄の指図でリュウジュ姫の殺害を実行したが…
入国管理の役人の手落ちで、人数を間違え、皆殺しにしたと思い込んでいた
念のため翌日も蓮畑周辺を探り近くの農民にも見慣れぬ娘を発見した者には報奨金を与えると触れをだしていたのだが…
失敗してしまった以上、ガイナに対してもナリに対しても体裁を整えなくてはならない
保護して四日目の朝、大使はリュウジュに伝令の者をよこした
「私どもの監督不行届で姫様にはとんでもなく危険な目に合わせてしまいました」
「お詫びにエン国から従者五十人をつけ、ガイナに姫様をお送りいたしましょう」
それに対してリュウジュは
「五十人の従者では足りません」
「実際ナリの五十人は盗賊にあっと言う間にやられてしまったのです」
「100人…いえ、150人の従者をお貸しください」
「そうでなければ私は安心して旅ができません」
と答えた
この要求はリュウジュなりの復讐だった
ナリの49人を殺したエン国に対しての
この言葉に大使ははらわた煮えくり返った
ナリの小娘が…すべてを理解した上で私を脅迫しおって
しかし…
あの姫が産む子が将来ガイナの王になる可能性がある
「わかりました、姫の不安を払拭するためにご要求の倍の三百人の従者をお貸ししましょう」
「二度と不埒な輩に襲われずにすむように」
との伝言が姫のもとに届けられた
お前が要求した150人などエンにとって痛くも痒くもないわ…と言わんばかりに
小国ナリのリュウジュ姫は三百人の従者を連れてガイナに入国した
リュウジュ姫は夫となるユアン王子にガイナ中部のスオミ離宮で初めて会った時、ナリ国を出た時に着ていたものより、よほど美しいエン国のドレスを着ていたのだった
ユアン王子は姫を見た時やはり恐ろしく美しいというのは作られた噂であったかと思った
少し面倒なことになるな…
それにしてもこの姫のやり手ぶりが気になる
三百人もの者を従えて華々しく入城してきた
自分を襲ったエン国を脅して
さて、この姫を妻に迎えるのは、私にとって吉と出るか凶と出るか…




