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害虫

ユリナは兄に頼みこんで、無理やりフォンへの用事を言付かるようになった


あまり寄ることのなかったルルドの控室に頻繁に出入りするようになった


そしてたいした用件でもない言付けを伝えるためにフォンを探し回る

取り巻きから逃れて


その言付けの手紙を受け取る度にフォンはルルド様も妹には甘いな、と思う


ユリナ様は美しい

ユリナ様に限らず、スオミの娘たちは皆肌がきれいだ

この土地の潤いを含んだ空気のせいだろうか


フォンはユリナの差し出すルルドからの手紙を持つきれいな指に見とれてしまうことがある




ある日の手紙に一言「説教してくれ」と書いてあった


フォンは笑ってしまった


しかし…

ユリナ様は少し怠け癖のあるマリナ様や暢気なフラウ様などと違って生真面目な性格

少しリュウジュ様に似ている気がする

どんな注意の仕方をすればいいのだろう


少し考えた後こう話しかけた


「ユリナ様、あまりお兄様にご迷惑をかけてはいけませんよ?」


見る見るユリナの顔が赤くなった

きれいな翡翠色の瞳にうっすら涙が浮かんできた


その涙にフォンは動揺した


「私に御用のときは…」


「どうぞまっすぐ私のところにお越しください」


と、言ったあと

しまった、ルルド様にまた女ったらしと言われてしまうと思った




青年将校、出世の早い若い役人、豪族の息子達の怒りは頂点に達していた


フォンに対してである


ニレ家がユリナに婿を取るつもりなのは知れ渡っている

自分こそユリナの夫となるのに相応しいと気負うものは多かった


ニレ家の令嬢ということを抜きにしてもユリナは魅力的だ


そのユリナが最近フォンとよく歩いている



フォンは衛兵としての身分も持つが普段はリュウジュ様の付き人としての仕事をしている


リュウジュ様はフォンに甘く、フォンが気ままにこの離宮の中をぶらつくことを許していて、それをいいことに城に出入りする乙女達とよく遊んでいる


男たちにはそんな風にフォンが見えた


とうとうユリナ様にまで手を出してきたと男たちは思った


最初は獣のように感じていたフォンだったが、今は自分たちのライバルとして認識していた


そのフォンへの不満を持った男たちの胸をすく出来事が起きる




四月、衛兵隊と第三部隊の兵士たちの親善の武術大会があった


選抜された六人の兵士同士が璃宮の西の土を固めた武闘場で試合をする

年に一度の余興のようなものだ


フォンは選抜に選ばれず、その試合を見学していた


フォンをメンバーに入れたら一人勝ちが目に見えている

男たちはフォンに名誉を与えたくなかった


終わりが近くなった頃、ふらりユアンがルルドを伴って現れた


そして


「フォン、見ているだけではつまらないだろう」


「お前も参加するか?」


と声をかけてきた


「いえ、対戦する相手がおりませんので…」


「では私が相手になろう」


そのやり取りを聞き周りの者がニヤニヤし始めた


ユアン王子が?

フォンは上から下までユアンを改めて見た


細い…

身長は私と同じぐらいだが腕の太さなど半分以下だ

ルルドさまは鍛錬なさっているが、ユアン王子が武道の練習をしているところを見たことがない


困った


助けを求めるようにフォンはルルドを見たが知らんふりをしている


ユアンは上着を脱ぎすでに武闘場に上がっている


仕方ない…


フォンも武闘場に上がった


怪我をさせるわけにはいかない…しかしあまりに露骨に負けてもユアン王子の怒りを買うだろう

わざとらしくなくユアン王子に花を持たせるには…

と考えているうちに試合開始の笛がなった


途端、ユアンに両の二の腕の外側を掴まれた

それを払おうとしてユアンの腕の内側をくぐりフォンの手がユアンの二の腕をとらえた時、あっ!と思った


これは!と思った次の瞬間フォンは空を見ていた

音をたて地面にひっくり返って


フォンはわけがわからずそのまま空を見ていた


フォンはユアンの腕を掴んだ瞬間その腕が見た目よりずっと経があること、筋肉質であることに気づいたのだ


一瞬怯んだところを胸を寄せられ膝の裏に足をかけられ後ろにひっくり返った


押された感覚もなく膝裏を支点に体がくるりと宙に舞った感覚だった


丸い背中を強く打ち体が痺れて動けない


それよりも人に負けたというショックが大きい


強さには自信があった

蓮畑で襲われた時、二十人ほどの盗賊相手なら勝てる、と思った

だが戦わなかったのはエン国が後ろに付いていると思ったからだ


一対一で戦って負けた…


フォンは恥ずかしかった

どうやってユアン王子に負けようかと思ったその自分の思い上がりが


フォンは倒れたまま空を見続けた


その様子に兵士たちは大笑いした


フォンは手加減して負けたのではなく、本当に負けたのだということがよくわかる


比較的フォンと仲の良い兵士がフォンを起こしに来た


「油断したなフォン、ユアン様は幼い頃からあらゆる英才教育を受けておいでだ」

「どんなことにも秀でておられるのだ」


もう一度兵士たちから笑いが起きた

自分たちの主君に対する喝采も


男たちにはユアン王子が花につく悪い害虫を退治してくれたように思えた


皆ここにスオミの娘たちがいないのが残念だと思った


ああ、このフォンの無様な姿を見せたかった!


湧き上がる喝采の中ユアンは握った手を口にあて何か考え事をしている


何か小さくつぶやいた後城に一人戻ろうとするフォンの後姿に声をかけた


「フォン、お前、メスだな」


「百年に一人しか生まれて来ないという獣人の」




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