女ったらし
「フォン、お前はユリナと恋仲なのか」
「は?」
ルルドがそう尋ねたのにはわけがある
ルルドの腹違いの妹ユリナにニレ家の内輪の会食にフォンを誘って欲しいと頼まれたのだ
フォンはリュウジュの従者としてだけではなく、離宮の衛兵隊の一員としても席を置いていたので、兵士としての身分も持つ
過去に何人か衛兵隊の兵士を会食に呼んだこともあるのでフォンも呼べないこともない
「お前の女ったらしぶりは知っていたが、ユリナにまで手を出していたとは…」
上から下までフォンを眺めたあと、ルルドは軽く睨んだ
とんだ濡れ衣だとフォンは思った
「いえ、ユリナ様はいつも取り巻きの方に囲まれていて、私はお話をしたことがございませんが…」
「ふうん…そうか」
「ニレ家の会食にフォンを招待したい」
「お前が承諾してくれれば、リュウジュ様には私から許可をいただく」
「ありがたいお申し出ですが、ご遠慮申し上げます」
「他の方からのご招待も、お断りいたしておりますので、ニレ家だけに参るわけには行きません」
「ほう、皆、女絡みか」
どんな風に見られているのだ…
「ルルド様、なにか誤解されている気がします」
「私は特別な感情を持ってご婦人達に接したことはありません」
「…まあいい」
「ユリナががっかりするだろうが…」
それにしても、フォンは不思議な存在だ
こいつはこの容姿でも自然に女の心を惹きつけてしまう
いや、女だけではないな
ユアン様もこいつには甘い
… なぜ自分の妻との行き過ぎた密着を見逃しておられるのだろうか
フォンはルルドのような淡々とした男も、妹は可愛いのだなと思った
ユリナはスオミの名花と呼ばれる19歳の大変美しい娘だ
緑色の瞳にひどく人を引き付ける力がある
ハアン王はユアンの弟のリクトの嫁にと望んだが、ニレ家は早いうちから辞退していた
両親はとてもこのスオミの土地からユリナを出す気にはなれなかったのだ
ユリナには婿をとって自分たちの手元に一生置いておくつもりだった
そんな話をフォンはエトロから聞いていた
何回か見かけた時に確かに美しい娘だなと思ってはいたのだけれど…
ニレ家のユリナは一目見た時からフォンが好きだった
リュウジュがこの城に着いて、挨拶をした広間に、噂の美しいお姫様を見たくて父親と同席させてもらっていた
その時、リュウジュの側で気をみなぎらせて守っているフォンをとても素敵だと思った
何とも言えない清廉な空気をまとっている
森の奥深くの苔むした大地に太く、高くそびえる木のようだ
みんなは醜い、不気味だと言いあっていたけれど
ユリナは今まで誰にも感じたことのないときめきを感じた
だからエトロなんかよりよっぽど早く私はフォンの魅力に気づいたのに…
将軍家のマリナや知事の娘のフラウなどは親しくフォンと庭を歩いたりしているのに…
私は一度も口をきいたことがないし、家への招待も断られてしまった
ユリナは離宮の兄の詰める部屋から帰る途中、廊下でバッタリフォンに出会った
フォンは花の入った籠を持っていた
リュウジュが押し花を作って栞にしたいと言うので色のさめない花を選びリュウジュに届けるところだった
ユリナはなんとなく体裁が悪くて、うつむきがちに通り過ぎようとしたのだけれど、フォンに呼び止められた
立ち止まったユリナの大きく高い位置に結った金色の髪にフォンはヒョイヒョイと籠から選んだ青い花を挿し、少しユリナの様子を眺め
「お似合いです」
と言って去って行った
その時のことを後からユリナの付き人に聞いたルルドは、やはりフォンは生粋の女ったらしだな思った




