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ルルドの妻

皆、リュウジュ様を初めて見た時、美しくないがっかりしたと言ったけれど私にはとても美しい人に見えた


せめて髪が金色だったらもう少し華やかな印象になるのにと言う人もいる


でもリュウジュ様にはあの落ち着いた髪の色が似合っている


少し厚めの唇も人柄の温かさを感じさせる


ユアン様の家臣の妻たちが集まる刺繍の会が私には苦痛でならなかった


皆でひとつの大きな布に刺繍を施し城の広間やダイニングの壁を飾るタペストリーを作る会


この会には豪族の妻や身分の高い娘たちも参加する


リュウジュ様がいらっしゃるまではニレ家の奥方が仕切られていた


ニレ家の使用人であった私にとっては奥方様と同席するのは気が引ける


この会に参加なされるようになったリュウジュ様は、誰にでも平等にお声をかけて下さった


私にも…

それが奥方様には面白くなかったようだ


それを察してからはリュウジュ様は奥方様の前では私に声をかけることがなくなった


けれど奥方様がいらっしゃらない時にはよく声をかけてくださる

お若いお姫様なのに色々な事情を察するきめ細やかな神経をお持ちだ


私はリュウジュ様がいらしてから城に来るのが前ほど苦痛ではなくなった

何か少し心強くなった気がする




それにしても…

今だにわからない

ルルド様はなぜ私を妻に選んだのだろう


ルルド様の本当のお母様も元はニレ家の使用人だったので、使用人好きはご当主のキリム様譲りだ、血は争えないなどとと陰口を言う人もいた


二年前ルルド様が私と結婚したいと言った時には周りからいつの間に情を通じていたのだという目で見られた


私は豪族の息子をたぶらかしたやり手の女のように言われている


けれど洗濯女の私は突然結婚を申し込まれるまでルルド様と口を聞いたことすらなかった

私の仲間には私よりずっと器量も気立ても良い娘たちがいた


リオンはルルドに結婚を申し込まれた日のことを思い出す




「お断りいたします」


「…なぜだ、他に好きな男でもいるのか」


「いえ、おりません」

「が、私はルルド様と結婚する理由がありません」


「そうか、だが私にはリオンと結婚する理由がある」


「私は誰とも結婚したくありません」


「私は捨て子でした」

「私を拾って育ててくれた両親の間には私より一つ年上の子がいました」


「とても貧しい家でした」

「でも両親は実子と分け隔てることなく私を育ててくれました」


「飢饉のときなどは僅かな食事を姉と分け合いました」

「もともと体が丈夫ではなかった姉は12歳の時風邪をこじらせ夭折しました」


「私がいなければ…」

「もっと栄養が取れ、風邪なんかで亡くなることもなかった」

「きっと」


「その後育ててくれた両親も気落ちし、早くに病気でなくなりました」


「私は…不幸を背負って生まれ、それを拾ってくれた両親や姉にも背負わせてしまったような気がいたします」


「だから、結婚などしてしまったら夫になる人も不幸にしてしまうような気がして怖いのです」


「構わない、住む家は城の近くに見つけてある」

「今日からそこに住む」


「結婚式はするつもりはないが、ユアン王子には挨拶に行かなければならない」


「今から仕立屋行ってドレスを何着か作る」

「そしてそのまま新しい家に行く」


「さあ、職場の仲間に別れを告げてこい」



本当に強引だった


私は腕をつかまれ引きずられるようにして広いけれど古い、塔のある家に連れて行かれた


なんとなくだけれど、私を選んだのは使用人のなかで私だけが身寄りのないものだったからではないだろうか


それは私を哀れに思ってのことではなく何かご自分の都合で…


良家の子女との縁談も多かっただろうに

ニレ家を出たかったのには違いない…



キリム様はルルド様と私の結婚を許さずルルド様は戸籍を外されることになった


それによりニレ家の財産、所有している権利の一切を相続することはできなくなった


キリム様がそれでもルルド様を息子として扱うのはユアン王子の側近としての揺るがぬ地位があるからだろう


育ちの違う私には良家の奥様たちとの付き合いが本当に辛い

だからといって昔の仲間と付き合うわけにもいかないし…


どこにも所属できない

私はいつも一人だ

特にルルド様にも愛されている気もしない


なぜ常識的なルルド様が結婚に関してはこんな外れたことしたのだろう


お父様への反感から?


ニレ家を継がせなかった…

ううん、ルルド様にはそんな欲もないような気がする


そういえば…

あれはどういう意味だろう


初めて二人でユアン様に結婚のご挨拶に伺った時のあの言葉…


ユアン様ははっきりルルド様にお尋ねになった



「ルルド、なぜリオンを妻に選んだ」

「親への反抗心か」


「…いえ」

「最初からこの者しか私には与えらていなかったのです」



…最初からこの者しか与えられていなかったとは?


私にはルルド様のお心が少しもわならない

ルルド様と結婚してからは日々孤独を感じている


けれど…

不思議


なぜかリュウジュ様のそばにいると心が安らぐ

誰よりも近い存在に感じる


リュウジュ様はスオミで、いえ、この国て一番身分の高い女性だというのに…


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