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距離感

「ルルド様、もうお体の調子はよろしいのですか」


武術の練習相手を頼みに来たルルドに向かってフォンはそう尋ねた


「もう大丈夫だ、腹に湧いた虫を下す薬を医師が多く処方した為、腹痛を起こしただけだ」

「体の大きさが人の二倍だからと言って薬も二倍飲む必要はないというのに…」


ルルドは恰幅の良い大男であった

頑丈な体つきと、繊細な顔立ちがアンバランスな印象を与える


この離宮には武術の組手において身長が二メートル近いルルドの相手ができるものがいなかった


ルルドよりは二十センチほど背が低いが筋肉質で俊敏なフォンはルルドの良い練習相手となった


ルルドはこの地方の豪族の息子ではあるがが、正妻の子ではないので家督は継がない


スオミ北部のプラントを経営するニレ家の家督は10歳年下のロレンが継ぐ


自身の妊娠に気づいたニレ家の家政婦がキリムに嫁いでくる予定の花嫁に遠慮してガイナ西部の実家に戻ってルルドを産み育てていたのだが、何年経っても本妻に男子が生まれずそのため養子という形でニレ家がルルドを引き取ったが、その後すぐ本妻に男子が生まれた


そのためルルドは15歳のとき離宮の武官として出仕したのだが、その賢さと落ち着いた性質が即位する前のハアンに気に入られユアンの側近に抜擢された




少し難しいところのあるユアン王子に寄り添うルルドは常識的な重みのある人物だとフォンは感じていた


たまに皮肉めいたことを言うのが、かえって、ああ、ルルド様にも感情があるのだと安心させる


ルルドが有能であることは間違いないがどこか少し陰を感じる

生い立ちのせいだろうか



「フォン、手加減するなよ」

「お前はすぐ私に花をもたせうとするから」


「承知しました」


フォンはそうは言ったが手加減しなかったら怪我をさせてしまう

、と思った

ルルド様は力は強いが少し機敏さに欠ける

戦術に工夫がない


力で獣人に勝てる人間などいないのだ


離宮の庭の西の土を固めた武術場でルルドとフォンの戦いが始まった




そこにリュウジュ主催のお茶会がお開きになり、城から出てきた女たちが組手の見学に訪れた


メンバーの中にはルルドの妻、スバルの妻と二人の娘もいる


西口から建物を出た時、なにやら声が聞こえたので皆でやってきた

本当はこの国では女が格闘技を見るのははしたないとされているのだが


ルルドの妻とスオミ知事のスバルの妻はルルドを応援したが、スバルの二人の娘、二十歳のカレンと18歳のフラウはフォンを応援した


大声を出すわけにもいかなかったので心の中で




フォンがこの離宮にやってきたばかりの頃はみなフォンを気味悪がった


得体の知れない化物にしか見えない


何かの機会で同席する際には本当に不快に思った


特に婦人たちはフォンの持つ筋肉や毛深さに恐怖を覚え側に近づくのも嫌だった


けれどいつもリュウジュに寄り添うその献身的な態度と、あまり口を開くことはないが、たまに発する気の利いた言葉にその性格と賢さが滲み出て、いつしか獣を見るよう目の人たちは一人ずつ減り、一人の人間としてフォンを見るようになっていった


特にフラウはフォンが大好きになった


エトロとフオンが仲良く花の植え替えをしているところを見ると嫉妬するほどに


フラウがそこまでフォンを好きになったある出来事があった




フラウはリュウジュの許可を得て、刺繍の図案集の貸出を受けた


三階の図書室から本を持ち建物の東側の階段を下りているところつまずき、とっさに手すりをつかんだので自分は落ちずに済んだのだか、借りた本は大理石の階段を滑り落ち、バラバラになってしまった


どうしよう貴重な本をと泣きべそをかいてるとき音を聞きつけたフォンがやってきて慰めた


フォンは離宮の下僕の定例会が終わりリュウジュの元に戻る途中だった


「大丈夫ですよ、リュウジュさまはフラウ様が無事だったことを何より喜ばれるでしょう」


そう言って散らばったページと表紙を拾って二人で従者の控え室に行き製本し直し、それを持ってリュウジュの元に戻った


本を落としてしまったことを詫びるフラウの側にフォンは黙って付き添っていた


「ごめんなさいフラウ、こんな重い本をあなたに持たせたりして…」

「私の気配りが足りませんでした」


「本当にあなたが無事で良かった」


「フォン、本を持ってフラウを馬車まで送ってあげて」



リュウジュの部屋を出たあと、フォンは無言でフラウに、ね?と言うようにほほえみかけた



妹からその話を聞いたカレンもフォンが好きになった


今では二人ともフォンの大ファンだ



フォンは離宮を出入りする人びとに徐々に人間として認められていき、特に若い娘の間で人気が出た


さて、そうなると…


気になることがある


リュウジュとフォンの距離感である


今までは二人寄り添う姿を見ても異国の姫さまが大きな獣を馴らしているようにしか見えなかったのだが


人としてフォンを見た時、少しリュウジュ様と親密過ぎやしないだろうかと思う人々も現れた


そしてそれは人の口の端にのぼりフォンの若い娘からの人気とともにユアンの耳にも届くのだった




リュウジュとフォンの距離が近いのは、リュウジュにとってナリを出るまではフォンが世界の全てだったからだろう


しかし第三部隊将軍の娘、人見知りの激しいマリナまでががフォンに懐いているとは…








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