従者フォン
従者フォンは一見、人なのか獣なのかわからない容姿をしていた
毛深い
まるで獅子が立って歩いているようだった
獣人と呼ばれる者である
ナリ国では稀に獣人と呼ばれるものが生まれてくる
それは特に限られた物同士の間にではなく、ごく普通の人間の間に生まれてくる
そしてその継続性はない
この獣人は力も強いが知恵もある
家系に獣人が生まれるとその家はその働きによって栄えると言われている
硬い皮膚が刀を通さず武人として優れていた
フォンは獣人にしては小柄であった
歳は二十四
このエン国に入国する際、リュウジュ姫は侍女のふりをして徒歩で入り、フォンは姫のふりをして輿に乗って入った
そのためエンはこの一行に獣人がいる事に気づかず、死体に獣人がないことも当然不審におもわなかった
噂ほどの美しい娘がいなかった事をおかしく思ったが、リュウジュ姫に関しては実はそんなに美しくないのだ、と言う噂もあったので後者の噂が真実だったかと理解した
リュウジュ姫はこの婚礼が決まった時心底困惑した
恐ろしく美しいと言う虚像の自分と、真実のすがたの隔たりが一番わかっているのは私なのだ
私はこの真実の姿に美しいと言う噂を携え、美女百姫が集まるというガイナの王宮に嫁がなければならない
どんな顔をしてガイナの王や王子に会えばいいのだ
国のことを思えば私はこの平凡な容姿で、王の信頼を、王子の愛を勝ち取らなければならない
真実の姿を見せ、落胆させた後に
なんという重い責任を背負わされてしまったのだろう
ナリ国は半月のような形をしている
東の直線に近い堺はすべてエン国に接している
半月の上部にあたる北にトヨ国、半月の一番膨らんでいる西部をウル国、半月下部の南ネム国に接している
ナリ国は四つの国に囲まれた小国なのだ
この四つの国に常に狙われながらも国として存続して来れたのは、大国ガイナ王家との婚姻が何代おきにかあり、ゆるくガイナの庇護をちらつかせることができたからだ
ガイナとナリは信仰する神が同じだった
龍神や大地の神を信仰する国々が多い中、ガイナとナリは西から吹く風の神を信仰していた
そんな縁でガイナはナリ国から王族の花嫁に姫を迎えることがあった
しかしナリから迎えた姫たちは子を生むことが無かったので、その縁が濃くなることはなかった
ナリ国にとってリュウジュ姫の輿入れは久々のガイナ国との結びつきを強くするものだった
ナリを取り囲む、トヨ国、ウル国、ネム国に統合の動きが出始めている
常に争っていたこの三国が同盟を結ぶことになれば次にすることは…
三国によるナリの侵略だ
地形的にナリ国をガイナに取られるとガイナ、エン、ナリと陸続きになり、その結果として自国にガイナとの国境ができてしまう
三国はそれを恐れていた
そしてガイナにとってはナリ国と周辺三国の統合はさせたくないことだった
この大陸に大国はガイナだけでいい
痩せた土地のナリ国だがその土質に不思議なものがある
場所によって土が食べられるのである
その土地の土を食べるからナリの者は長寿なのだとか、獣人のような不思議な者が生まれてくるのだと周りの国々は推測した
なぜ獣人が生まれてくるのかはわからないが、ナリの者が長寿なのは他の諸国に比べて税の取り立てがゆるく、心理的圧迫がないのも一因であろう