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紅茶

リュウジュとマトハが驚く間もなく、部屋にユアンが侍女二人を伴って入ってきた


襟から前立てにかけて金糸銀糸の刺繍の施された白い上着を着、

普段外出の際付けている長剣は差さず短い守り刀のみを腰に付けている


マトハはユアン王子を見てまるで白銀の龍のようだと思った

華麗で優しげな姿を突き破って内側の怜悧な精神性が表れている


侍女たちは銀の盆に王室の紋の入った茶器と、暑いお湯の入ったケトルを持っていた


クシナはケトルを貴賓室のストーブの上に置いた




ユアンは驚いて立ち上がったマトハを前にそのまま椅子に座るよう勧め、自分もリュウジュが退いた応接セットの上座についた


マトハの小間使いのカヘイなどは何が起きているのか、自分はどんな態度をとったら良いのかわからず、部屋の隅に退いてただひれ伏していた


「マトハ、エン国ではリュウジュが世話になった」


「礼を言う」


「とんでもでございません」


「私はただ当たり前のことをしただけでございます」


「王子様のご訪問、心からありがたく存じます」



「マトハに礼がしたい」


「だがヒシ家の人間に多少の金銀を与えてはかえって失礼になるだろう」


「思い上がりを笑われることを恐れずに言えば、私は何でも上手なのだ」


「リュウジュが馳走になった粥の礼に私がマトハにお茶を入れよう」


その言葉にマトハもリュウジュも、は?と呆けた顔をした



それには気を止めずユアンはストーブでしゅんしゅんに沸いたお湯でワゴンの上で紅茶を入れ始めた

予めお湯を張ったカップの湯を捨てティーポットのお茶を注ぐ


ガイナ王家の紋章の入ったカップは五つ用意されていた


マトハの小間使いとフォンの分もあった


エトロが部屋の隅のテーブルにカヘイとフォンの分を運ぶ

これにはフォンも驚いた

カヘイはさらに驚いた

いったい自分の身に何が起きているのかがわからなかった


マトハには王子自らが運んだ


マトハは恐縮しながらも日に焼けた手大きな手でカップを持ちそれを口にする


これは…

金より高価と言われているシネン茶だ…


匂いですぐわかる

兄の家で何回か飲んだことがある

しかしこのお茶の味は別物だ


美味い…


この王子は…


ユアンは部屋の隅でがたがた震えているカヘイにも飲むように声をかけた


「ユアン王子…私は何度かシネン茶を飲んだことがありますがこんなにおいしいしお茶を飲んだのは初めてでございます」


「素晴らしいお点前でございます」


「道端で作ったお粥がとんでもないものに化けました」


「これだから旅はやめられません」


「ふふ、マトハ、これをシネン茶と思ったか」


「え?」


「これはシネン茶ではない、なん種類かの茶葉をブレンドしてシネン茶の匂いを再現した」


「さらに正直に言えばこのお茶がうまいのは私の手柄ではなくこの土地の柔らかい水のせいだ」


マトハは衝撃をうけた

このお茶がシネン茶ではないとすれば、これをブレンドした王子の嗅覚は並外れたものがある


見事に騙された


「…これだから」

「旅は止められません」


そう言ってマト八は嬉しそうに笑った



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