欠け
「リュウジュ、私には子供を作る能力がない」
「そういう体で生まれてきた」
「女と交わる力がない」
「ガイナ王家にはなぜかそういう体に欠けがある者が何代おきにか生まれてくる」
「これは一子相伝の秘密だ」
「そういう者が生まれてきたとき、妃にナリの姫を迎える」
「それなりにナリは地理的に重要なのだ、ガイナにとって」
「縁は結んでおきたい」
「そしてそれを近隣諸国に知らしめたい」
「ガイナでは正式な妃から生まれた者しか王子としては認められない」
「他国に嫁いだナリの娘が獣人を産んだことがあるという記録もある」
「もしナリの姫から万が一にも獣人のような者が生まれてきては困る」
「ガイナは過去の教訓から第一王子が国を継ぐ」
「これは絶対なのだ」
「獣人をガイナの王にするわけにはいかない」
「ナリのものにとっては貴重な獣人も他国の者にとっては化物なのだ」
「そこで我が国では第一王子に生殖能力のないものが生まれてきた時にのみナリの姫を妃として迎えてきた」
「だから私がこの体で生まれてきた時点でナリの姫を娶ることは決まっていたのだ」
「リュウジュが美しかろうと美しくなかろうと」
そういう…わけだったのか…
私が世間から隠れて暮らしたことが実を結びガイナに輿入れしたわけではなかった
交わる力がない…
と、いうことは…
ユアン王子は誰のものにもならない
誰にも取られない…
薄明かりの中リュウジュの瞳が小さく左右に揺れたのをユアンは見て取った
「このことを知っているのは今は父王と私を取り上げた王家専属の産婆だけだ」
「リュウジュ、不義はしても子は宿すな」
「父上にはそれが私の子でないことがわかる」
「第一王子が王位に就くのは揺るぎなきことなのだが、私は自分の欠けを人に知られたくない」
「好奇の目で見られたくないし同情もされたくない」
「なにより国民からのガイナ王家に対する畏怖の念に傷をつけたくない」
「抵抗されるだろうが私にはやりたいことがる」
「人々には完璧な人間だと思わせておきたい」
「今宵話したことは他言無用だ」
「フォンにもだ」
不義はしても子を宿すなという言葉のあとリュウジュはぼーっとしてしまった
あまりにも酷い物言いに
そのためそれ以降の受け答えは本人の記憶にない
「ユアン様、何も言わなくてもフォンはきっといずれ察してしまいます」
「それでも、黙っていろ」
「他の者に気づかれないように、これからもリュウジュを寝所に呼ぶが、その時は自分で時間を見計らって帰れ」
フォンは王子の寝室の前の廊下で立って待っていた
クシナに控えの部屋に戻っていろと言われたのだが
部屋を出てきたリュウジュの顔色を見ていったい何があった、と思った
頬を紅潮させて部屋に入っていたのに真っ青になって出てきた
リュウジュが出ていった部屋でユアンはしばらくそのまま寝台に腰掛けて宙を見ていた
リュウジュ、お前は私の不幸を喜んだな
私はお前が余計な物煩いをしなくて済むように話したのだが…