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寝所

フォンは橋の上で、踊るリュウジュを見ながらはじめて会った日のことを思い出していた



「フォン、お前にはこれからリュウジュ姫の従者となってもらう」とハルイ王に言われたのはフォンが16歳の時だ


「リュウジュが侍女の廃止を申し出たので全ての面倒を生涯お前が見る」

「よいか、姫がナリ国にいる間は命をかけて守れ、その身も、秘密も」


…ナリ国にいる間は


フォンはその言葉に違和感を覚えた


ナリの国王は民衆からの人気が高い

他国の王に比べ国民を押さえつけず、ひどい税の徴収も行わず慎ましく暮らしながらも、国としてのナリを守るハルイ王をフォンは尊敬していた


が、国民に見せる慈悲深い一面とは違うものをこの時、感じた


この方にとって姫は国を守るための重要なカードの一枚にすぎない

娘を思う父親なら一生守れと言うはずだ…


フォンは何とも言えない気持ちになった

リュウジュ姫がとても気の毒だ


王妃様も五人の弟君の世話で忙しくあまり姫のもとにはいらっしゃらないと聞く


王妃様は本当に美しい姫が生まれてくれば、リュウジュ様が自由になれると思いお子様を産み続けたが、王子様しか生まれて来なかった


皮肉なことに姫を思う気持ちが王妃の忙しさを生み、かえって姫を孤独にする結果になってしまった


姫は、何も持ってらっしゃらない

恐ろしく美しいと言う噂と、重い責任以外は


この時フォンはまだ見ぬ姫を一生命を賭けて守って生きていこうと決めた


この後初めて見た12歳のリュウジュ姫はフォンにとって充分可愛らしい姫だった


フォンは王に連れられてリュウジュの住む離れに入った


ああ、地味ながらかわいい顔立ちをしている

栗色の髪と瞳が知的に見えるなと思った


リュウジュはフォンの前に進み出て


「はじめましてフォン、これからどうぞよろしくお願いします」


と言いった


そしてフォンの姿に怖気づくことなく


「フォンの髪はキラキラしていて素敵」

「…触ってもいいですか?」


と聞いてきた


フォンは思った、この姫は命をかけて守るに値する






「こんなところにいらっしゃいましたかリュウジュ様」


「ユアン王子が寝所にお呼びです」



それを聞きリュウジュはあわてた


あわててユアンの寝所に向かおうとしたのだが、クシナに呼び止められた


「リュウジュ様!その汚れた足でユアン様のもとに行かれるつもりですか」


リュウジュは裸足だった

裸足で風の舞を踊っていたので


走り出した際、ドレスの裾が翻りクシナに見咎められてしまった


「一度お部屋に戻り、身支度をなさいませ」


厳しいクシナの物言いに少し怯るむ


リュウジュは焦った


早く、早く行かなければ

王子の気が変わらないうちに


女としての愛はいらない

お前がさっき抱いた子が私の次の王になる


はっきり拒否されていたからすっかり気を抜いていた

諦めていた


リュウジュは戸惑いと安堵と恥じらいの交錯する気持ちを押さえて冷静に振る舞おうとするが…


リュウジュの脳裏にユアンの顔が浮かぶ


額から鼻筋、唇、顎までの美しいライン

その作り物の様な整った顔にかすかに人間味を与えている、右と左の二重の巾の違う目


自然、早足になってユアンの部屋に向かう



リュウジュの部屋は居間と寝室がつながっているが、ユアンの寝室は独立した部屋になっている


寝台はその部屋の西の壁の真ん中に置かれていて、大きく取り囲む帷のなかにある



リュウジュが寝室に入ると蜉蝣の羽のような薄い布でできた帷の中、ベッドにユアンが腰掛けていた


枕元の飾り台の上においてあるカンテラの光の中ユアンの姿が透けているように見える


体の輪郭がかすかに薄闇の中浮き出ている


ユアンは息を切らせて天蓋をくぐり入ってきたリュウジュに視線で寝台の足元にある背もたれのない椅子に座れと促す


初めて見るユアンの夜着姿


肩に少しひだを寄せた薄い襟のないシャツのようなものを着ている

こんなゆったりした服を着ながらもこの王子の持つ独特な緊張感は失われていない


北に窓のあるせいか、それともこの部屋の主人の雰囲気なのかリュウジュには空気がひんやり冷たく感じる



しばらくの沈黙の末ユアンは話し始めた


「迷ったが、リュウジュには話しておくことにする」

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