ナリでは
ナリにいた頃、リュウジュとフォンは、よく夜の庭を二人で散歩した
リュウジュの暮らす離れの周りには、リュウジュだけの庭があった
庭には小さいながらも池があり、可愛い橋が架かっていて二人はそこから寄り添いながら池に映る月を眺めた
リュウジュは夜しかこの庭に出ることを許されていなかったので昼の光の中でこの庭の草花を眺めたいと望んでいたのだがとうとう叶わないままナリを出た
今こうしてスオミの離宮の庭を日の光の中、フォンと二人で歩るけることにリュウジュは幸せを感じる
あ、またやっているとフォンは思った
リュウジュにはどうしても直せない癖があった
手悪戯である
散歩の途中無意識に葉っぱや花びらをちぎって親指と人差し指の腹で撚る
そのため指先をよごすことがあった
刺繍の糸くずなども撚って丸める
お行儀が悪いですよ、とフォンもナリにいた頃は注意したことがあったが…
今はこれは姫さまの心の鎮め方なのではないかと思い、見逃している
庭を歩く時は靴を履いていたが、リュウジュは風の舞を美しく舞うための日常的な訓練として、いつも裸足でつま先立ちして離宮の中を歩いていた
長い服の裾のせいでそれは人目につかなかったが、ユアンとフォンはそれに気づいていた
ユアンの父、ハアンは美しい者を好み身の回りの世話をする者達は美女を揃えている
それが近隣諸国に美女百姫が集まるガイナの王宮と称される所以である
リュウジュの父王のも、そこに目をつけ自分の娘を絶世の美女という噂を流しガイナの王の気を引こうとした
ハアン王が美女を好むのは好色というわけではなく、造形物として美しい娘を愛しているからだ
事実ハアンは十五年前に亡くなった妻を今も愛し、再婚もしていなかなったし、愛妾も持たずにいた
逆にユアンは自分の身の回りの世話をする者に妙齢の娘は置かなかった
若い13歳の元気の良い少し田舎臭い感じのするエトロと五十を過ぎたクシナを侍女としている
クシナはもともとユアンの母親の侍女だったのだが、母親の死後ユアンに仕えるようになった
そして今は必要なときにはリュウジュの侍女としての仕事もする
エトロの父親は庭師として離宮て庭園を手入れする者である
それゆえエトロも植物に関する知識が深く、花を愛するフォンとも仲が良い
リュウジュがこの離宮に暮して半年が過ぎた頃、初めてユアンの寝所に呼ばれた
年の瀬が迫るその夜リュウジュとフォンは月明かりの中、中庭の池の橋の上にいた
フォンが小さな横笛を吹き、リュウジュがそれに合わせて橋の上で踊っている
そこにクシナが呼びに来た
不快だ、
王に見せた風の舞をあの獣のために踊るとは何事だ
クシナにはリュウジュが練習で踊っているのではなく、フォンに披露するために踊っているのだということがわかった
風神信仰のクシナは二人の姿にひどく苛ついた