6話
「……どうも。楽しんでおりますでしょうか?」
家を出ようとした、マサとレイの前。
そこにすう、と現れた男がいた。
山羊の被り物を被った男(?)だ。
「えっと、田中さん、だったっけ?」
異世界創造を名乗る怪しげな会社の営業マン風の相手だ。
この世界に来る前に、マサをルール説明をした者である。
尾崎のセリフから察するに、他の参加者も同様に彼からルール説明を受けていたようだった。
その田中が、軽く一礼して答える。
「はい。お久しぶりでございます」
「久しぶりって……まだ半日も経ってないぞ」
この戦いがはじまっていまだ数時間。
この営業マンと別れてから半日も経っていないのだ。
「……何か用でも?」
その田中に、レイが訊ねる。
この不気味な男を前にしても、まるで物怖じる様子はなかった。
毅然と接している。
「はい。 ……真龍寺様は現状、二個以上の生命の石を所有しておりますため、石を使用しての二回戦への進出が可能となっております。ちなみに、現状で二回戦へと進出している方は合計で4649人となっております」
「ってことは、約2万5000の枠が残っているってことか」
マサがレイに代わって答える。
二回戦に進出できるのは確か3万人だったはずだ。
「はい。左様でございます。二回戦への進出を希望されるのでしたら、消費する生命の石を持って『二回戦に進む』と強く念じてください。そうすれば、その生命の石は消滅して次の世界へと飛ばされます。いかがなさいますか?」
「いえ、まだ二回戦にはいきません。一回戦を続行します」
レイは即答した。
「もう少し石を集めてから、次に進むことにします。貴方もそれでよろしいですね?」
す、とこちらを少しだけ見つめる。
「あ、ああ……」
主導権は完全にレイ側にあるのだ。
マサは反論できるはずがない。
一応、同意を求めてくれるだけマシというものだろう。
「左様ですか。では、御用があればいつでも及びください。もっとも私共は中立の立場です故、助言はできませんが」
「ですが、ルールに関する事を尋ねるのであれば問題はありませんね?」
「むろんです」
田中が頷く。
「では、現時点での一回戦の突破人数に関してなのですが、これはいつ尋ねても問題はありませんね?」
「はい、問題はありません。お呼びくだされば、いつでもお答え致します」
「分かりました」
レイが軽く頷いた。
「他に何かご質問等があれば」
「いえ、これ以上は不要です」
田中の言葉をレイが遮って言った。
が、それに気を悪くした様子もなく、田中は軽く一礼してから言った。
「左様ですか。それでは私はこれで」
直後、すう、と田中の姿が消えた。
「……良かったのか?」
マサはレイに聞いてみることにした。
「何がですか?」
「いや、ここは確実に二回戦に進んでおいたほうがいいんじゃないかと思って……」
先ほどはレイに同意しておきながらもつい言ってしまった。
慎重策をとりたがるマサにとって、確実にできた二回戦への進出を見送るという選択をしたレイに対して不満があったのだ。
「なぜです?」
だが、心の底から不思議そうな目で聞き返される。
「いや、だから……」
じっと見つめられ、マサは視線をそらした。
「そ、その。今なら確実に次に進めるんだし、もったいないと思って……」
「確かに二回戦に進む事はできます」
ですが、とレイは話を続ける。
「その場合は生命の石を大量に手に入れるチャンスはなくなります」
「生命の石を?」
「はい。今後、生命の石を手に入れる機会はあるでしょう。しかし、生命の石を”大量に”手に入れる機会、というのは一回戦にしかありえません」
大量に、という部分をレイは強調して言った。
「どういう事だ?」
だが、レイの言っている意味が理解できずにマサは聞き返した。
「そうですね。簡単に説明すると」
すっ、と彼自身の懐から生命の石を取り出し、それを机の上に置いた。
「一回戦のうちはろくにルールも把握できない間抜けが大量にいます」
ぐさり、とその言葉が突き刺さってくるようだった。
マサ自身がそのルールを理解せずに石を失った間抜けなのだ。
レイが意図してなのか、それとも悪意なしで言ったのかはわからないが。
「ですが、二回戦以降ともなればそれなりに頭の回る者が増えるでしょう。三回戦以降ともなればなおさらです」
なので、とレイは言葉を続ける。
「今なおルールを理解していない輩は、まだまだいるはずです。 ……彼らから、狩りつくすとしましょう」
ぎらり、とその幼い顔からは想像もできないほど獰猛な色がレイの瞳に浮かぶ。
……やっぱり、格が違う。
改めてそう思い知らされる。
ルールをろくに理解することなくすぐに石を失った自分とは違う。
彼――あるいは彼女――は、すぐにルールを理解して適応してみせた。
そして今もまた、自分の考えで行動できる判断力を見せた。
「……」
「どうかしましたか? 行きますよ、時間は有限ですからね」
「あ、ああ」
レイにひかれるようにマサも動き出した。
新たな獲物を狩るために。