第九話「くずぱーと」
アオのキャラとしては正しいけど、ちょっと閲覧注意 一応飛ばしても話的にはジョブ
*
「やってしまった」
全身の汗を拭き、すこしだけ気持ちよくなった体を、恥辱からちぢこませる。
何をされたのか、一言で言うと、全身くまなくやってもらったのだ。
本当に、全身をである。
全裸になって、本当にどこもかしこも丹念に拭いてもらった。俺は調子に乗って、本当にくまなく洗ってもらったのだ。
たぶん、俺は最低の屑だ。そして早い。
「……おかえり」
「……臭い」
ちょっとしかめっ面で、フランが洗面所から帰ってきた。
「まだ口がへんな味する」
「飛んでったモノは仕方ない」
口を閉じていなかったのが運のつきだろう。
「変りに、フランが風邪になったら、俺が看病するから」
「いらない」
即答される。いやごめんなさい。
にしても俺も情けないものだ。こんなんだから、誰からもいい目を見られないのかもしれない。
自業自得という言葉があるが、俺はたぶんその類だろう。
周りが俺を見る目は、限りなく正しいのだ。
「まわいいわ。もう寝て。寝るのが一番だから」
「そういわれても」
一度寝て起きると、次に眠るのってけっこう難しい。
そんな時、暇だからと本を読んでいると、母親が仮病を疑うのはやめてほしい。風邪って、自分が他人に気を使うときあるよね。
「やっぱり、そうよね」
「そうだな」
「だから、持ってきた」
フランが、一枚のカードを取り出す。
「それは?」
「スピーのカードよ。弱っていたり力の無い子供を眠らせることが出来る。本来は動物の捕獲用だけど、自分で自分にかける際だけ、相手を選ばない」
フランが、大砲のスロットを開ける。それで俺に打つつもりだ。
「まてまてまて」
「なに?」
「いつも思うんだが、その大砲ってちょっと怖いんだ」
なんというか、攻撃も防御も同じエフェクトだから、安全とはいえ、いつもひやひや物なのだ。精神的に良くない。
「……わかったわ」
「お、おう」
フランが手を止めて、カードを前に掲げる。たぶん、呪文を打つつもりなのだろう。
「スピー」
フランが唱える。
カードは消滅して、なんと言えばいいか、頭がとても気だるい感じだ。抵抗できなくはないが、確かに弱っていたらこのまま眠ってしまうだろう。睡眠剤程度の効果ということか。
こんな俺にカードまで使ってくれるとは、感謝の思いをこめて、フランを見ると、
「あぁっ! どうした!」
倒れていた。ちょっと慌てて、ベッドから身を乗り出す。
眠気と戦いながら、必死でフランに近づく。
「す~」
フランの口から、寝息がした。よく見ると小さい肩を上下させて、手足を力なく床に落としている。
「あれ、寝てる?」
どして? 魔法?
フランは、俺に向かってスピーを放ったはずだ。本来なら、寝るのは俺の役割のはずじゃなかろうか。
「もしかして、フランは大砲がないとここまで駄目なのか」
たしか、フランが大砲を使う理由は、通常よりも魔法管が広すぎるからと聞いた。それがこの弊害なのだろうか。
でも、それを知っていてフランが使うだろうか。使わない。
これが精神の不安定さが魔法に来るという奴だろうか。
今日のフランは、落ち着いているようでかなり慌てていた。
だからなのか、博士がフランの精神を安定させたいのは。確かに大砲がなければ困らないが、誰でも出来ることができないのは、孤立にとても近しいものだ。
日本だって、絵が上手に書けたって、人と交友できなきゃ好かれない。出る杭は嫌われる。
「才能の弊害か」
魔法に限って言えば、俺も同じだ。レアが使えても、コンボが出来ない。
あの博士が、俺に何を期待しているのかちょっとだけわかった。
「まあ、それはいい」
驚きと思考が入り混じったせいか、スピーの魔法で眠ることが出来なかった。
とはいえ、フランが魔法の暴発で寝てしまった。
「……大丈夫だよな、心臓止まってたりとかしてないよな」
ほらあれだ、睡眠薬の飲みすぎで倒れるみたいな。
「調べる必要があるな」
そっと、フランの無い胸に手を当ててみる。一応起こさないように。
ふにっとした感触が左掌に広がる。トクトクと小さな鼓動が伝わってくる。
そう、これは医療行為だ。
「……わかりにくいな」
服を脱がして、裸にして触った方がいいのかもしれない。
「このままでは、命にかわ……はっ!」
がちゃりと、ドアの開く音がした。
扉の隙間から、博士の半身がこちらを覗いている。俺は急いでベッドに飛び込んだ。
怖い、怖いよ。
*