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第六十六話「やくわり いりぐち」


 その夜、孤児院に戻ったあと、ロボを覗いた三人で集まった。

 成果報告だ。


「まずあたしっ!」


 別に誰でもいいのに、元気よくラミィが手を上げる。

 俺もフランも反対しない。次の言葉を黙って待つ。


「一応クラスの子とはちょっとだけ話をしたよっ! あっ、でもなんだか感じの悪い子がいてね、明日魔法を使った演習で一騎打ちをすることになったんだ。レイカって言ってね、なんだかあたしの事が気に入らないみたいでっ、皆もそのせいで私に距離を置いているみたい」

「そういうのはいいよ」


 初日から飛ばしてんなこいつは、たぶんその決闘に勝てば一躍クラスの人気者になるぞ。

 フランはその手の話にあまり興味なさそう。つまらなそうに指で絵を描いてる。


「証の精霊の情報は?」

「……えっと」


 ラミィは俺たちの反応が薄いことにちょっとガッカリしたみたいだ。ただ、次の瞬間には強く頷いて立ち直る。ころころ表情が変わるな。


「あんまり期待できるのはないかも。一応クラスの人たちでも仲良くなれた二人の子がいるんだけどね、その子と今日話をしてみたんだ。噂としては残っているみたいだけど、二十年前、実際に会った人は卒業しちゃったせいで、ほとんど話題にならないんだって。ただ、何度か教室で証の精霊の声を聞いたって人がいるらしいから、明日時間が空いたら聞いてみるねっ」

「お、おう」


 やはりラミィはこういうとき有能だ。なんだかんだ言って情報は得てくる。しかも証の精霊と話したかもしれない在学生がいるのかよ。


「どうやって証の精霊と話すんだ?」

「なんでも、紙に書かれた文字を読み取るとか」

「……こっくりさん?」

「アオくん?」

「あ、いやたぶん違うと思いたい」


 まだ初日だ。そこまで期待したらいけない。

 とりあえず、俺が得た情報も言っておくか。


「俺はラミィとは違って資料質にあった精霊の本を漁ってみた」

「うんうん、それで?」

「証の精霊ってのは、龍動乱の時に、戦いの記録をとるために顕現した精霊らしい。で、見た目は人とほとんど同じ姿だって書いてあった、が」

「……が?」

「なんでも、精霊はその限りじゃないらしいんだ」

「アオ、精霊は時と共に姿を変える」

「え、アオくん知らなかったの?」

「知らないの俺だけだったのかよ」


 精霊は人とコンタクトをとる為に形を持っているが、その姿は常に一緒じゃない。

 なんでも、時がたてばたつほど、人から離れた姿に変わっていくらしい。どうして最初は人の姿をしているのかは書いていなかった。


 だから、精霊はとしよりほど異形の姿になる。資料によると龍動乱は千年前の話だ。それだけ経てば証の精霊は姿を変えているだろう。


「ちなみに、二十年前の戦争で姿を現したときは、本だったらしい。ただ出会ったのはほんの数人だと」


 先程テレサにも聞いてみたが、出会った人間はイノレードには残っていないらしい。


「本?」

「ああ、でもそれくらいしか記述がなかったから、俺にもよくわからん。本つっても色々あるからな、でかいのに小さいのに」


 精霊の本だから、マリオパーティみたいに人を潰せるくらいの本かもしれないし。


「……パパが昔、そんな話をしてたかも」


 フランは顎に手を当てて、ふと呟く。

 そうか、二十年前の戦争の中心人物だもんな。知っていてもおかしくない。四人の英雄は会ったのかも。


「で、どんなんだった?」

「おっきいって」

「おっきいか……」


 でもそうなると、探すのはそんなに難しいはずないんだけどな。学長辺りが隠してるとかか? いやそんなんだったら二十年前まで存在が危ぶまれたりしないだろうし。


「まあいいや、まだ一日目だし、何でも気になったら報告な」

「うんっ、頑張るよ!」

「……」


 フランはむっとしてこちらを見る。わかるけど、気まずい。


「ふ、フランは何をしているんだ」

「アオと一緒に行きたい」

「そうじゃなくてな」

「……ロボを使って、テレサに魔法を教わってる。パパほどじゃないけど、知らない見方とか色々教えてもらった」

「フランちゃん、ロボを使ってって……」


 ラミィの珍しい苦笑いだ。まあロボは物じゃないけど。

 にしても、最近なんだかフランの様子がおかしいな。ちょっと前までしっかりとしてきたと思ってたんだが、またもとのフランに戻ってる気がする。依存度が高いというか。

 フランが不安定というよりも、あれか、御年頃なのか。


 何にしてもこういうのは注意しておかないと、ふとしたきっかけで爆発しかねないし。


「フラン」

「なに?」

「今回は連れて行けないだけで、フランは十分に戦力として考えている。当面はロボにこの秘密を隠し通すってがフランの役割だからな」

「無理矢理、あてがってる」

「ぐっ、でも必要だろ」


 フランは不機嫌だ。わかってる、フランはフランだからこそ出来る仕事をしたいのだろう。

 でも今はそれがない。わかっていても不安なのだ、ここに自分がいてもいいのか。


 俺の小学時代、飯ごう炊飯で、自分の役割の食材がなかなか届かない中、周りの班員を見ている気分と似ている。別に役割はちゃんとあるのに、周りからしたらサボっているような雰囲気のあれだ。

 かなり遅れて、教師まで俺に届けるの忘れやがって。ろくに準備が出来てない事態になったんだよな。


「……わかった」

「すまないな」

「なんでアオが謝るの」


 何か、フランに自信を持たせられる出来事を考えておくべきかもしれない。

 下を向くフランの顔が、ちょっとだけ昔の自分の姿とダブった。



 翌日、学校で調べ物をしていた。

 授業にも出ずに、図書室で調べ物をする。あと大百科のある本棚をちょいちょい漁っていた。


 大きい本を探す。そういわれてもこれくらいしかやることがない。

 証の精霊を探すためにはどうしたらいいのか。今は手探りだ。

 今日探すのは、この図書室にしかなくて、大きい本。


「これだけ、だよなぁ……」


 手にしたのは卒業アルバムだ。学校で作るから大体その本校にしか残ってない。つか、卒業アルバムなんてふざけたものが異世界にもあるとは。印刷どうしてるんだろ。

 図書室にある卒業アルバムは親近感が沸くな、特に後ろのフリースペースが白紙なところとか。


 手にしたのは一、二年前くらいの新しい奴だ。載っているわけないのに、ロボがこの学校で無事卒業できたらと仮定した年号を選んでいる。

 単純作業だ。適当に卒業者欄を眺めていく。パシャリの魔法で映した記念の写真が結構ある。やっぱこの世界って、印刷とかも魔法で済ませてんのかな。

 つかなんだよこれ、アルバムなのに学校の見取り図とか載ってるぞ。パシャリの節約かこれ。


「……あ」


 何冊目か忘れたが、卒業アルバムに知っている奴の名前を見つける。


「ジルだ」


 確かロボとジルは知り合いだったよな、同い年の可能性が高い。つまりはこの辺りに――


「あ、そこにいたんだな君!」


 とそこで、俺の思考を断ち切るように声を掛けられる。

 振り返ると、知らない大人がいた、教師だろうか。爽やかで柔らかそうな顔をしているそいつは、突然俺の手首をつかみ、立ち上がらせようとした。


「さあ! 授業はもう始まっているよ、アオ君だね。皆も君がどんな人か気になっているんだよ」

「あんた誰だよ」

「君のクラスの教師さ、ラミィさんは転校初日からみんなと仲良くしていたのに、君はこんなところで一人いるだけじゃつまらないだろう」


 無理矢理にではないが、ぐいぐいと手を引っ張る。どうやらこいつは教師で、俺を授業に参加してもらいたいのだ。

 俺は立ち上がってたまるかと、その場から動かない。


「別に迷惑かけませんよ、放って置いてください」


 授業に出ない生徒を教室に戻したがる。その一番の理由は、問題が起きたらその教師の責任になるからだ。


「迷惑をかけたくないと思うのなら、教室に来てくれないか?」

「気にしないでください、俺はすぐに退学します」


 いいから来いとか言わない分、この爽やか教師はまだ良識があるほうだ。

 今の俺は成績も関係ないから、こんなことが言える。


「退学なんてそんな、教室にきてみてほしい。そんな考え方が少し変わると思うんだ。友人と共に学ぶ大切さを知るチャンスは今しかないんだよ」

「友人と共に学べる保障なんてありませんよ」

「やってみなくちゃわからないよ」


 俺は自分勝手に言うのに、爽やか教師はそれをものともしない。

 自分のことしか考えていない教師だと、この辺で屁理屈を言うなと怒鳴り始める。個人的には、勝手同士そのほうがよかったんだが。


「どうだい、一回だけでもいいから、一緒にきてみてくれないか?」


 跳ね除けづらい。

 この教師はいい人だろう。たぶん、生徒はみんな天使か何かだと思っている人だ。若手教師らしくそんな希望をもっているのだろう。

 

 でも、俺みたいな奴もいる。綺麗事は人を救わない。

 学校で授業を受ける気もない


 どうしようかと、眉をひそめて悩んでいたら、その教師が突然地面にたたきつけられた。


「は!?」


 一瞬何が起こったのかわかりかねて、思わず机から立ち上がってしまう。

 そして気づいた。


「あぁ、うぜぇ」


 グリテがやったのだ。

 爽やか教師の頭をわしづかみにして、机に叩きつけた。すごい音したけど、頭砕いたりしてないよな。


 爽やか教師は、ぴくりとも動かない。


「おい、先生の反応がないぞ」

「ぁあ、死んだんじゃねぇの?」


 グリテは気楽言って、すっきりとした表情で息を吐いた。

 仮にも、今のところ悪い教師じゃなかったんだぞ。それをはったおすとか。


「つ、ツバツケ」


 とりあえず処置をしておく、本当に死んでないよな。

 グリテは、そんな俺の行動を適当に眺めながら、サングラスに指をかける。


「なにしてんのおめぇ」

「こんなことで後遺症残されたらたまんないだろうが」

「おまえさぁ、なにそんなこと気にしてんだよ」


 グリテは気絶した教師の頭をぐりぐりしする。やめろって。


「オレは昼寝、こいつここで騒ぐ、死ぬ理由は十分だろ」

「ほんと直球だな」


 一応爽やか教師は息をしている。あとは脳が大丈夫だといいが。


「おめぇだってさ、うざかったんだろ」

「そりゃ、そうかもしれないが」


 案外、グリテはあの一連の会話を聞いていたようだ。うるさかったそうだし、内容が耳に入ってきたのだろう。


「そういう問題じゃないだろ」

「じゃあなんだよ」


 なんというか、奇遇にも二回も会話する機会があったおかげで、なんとなくグリテがつかめてきた。

 こいつは、元をただせば俺と同じタイプの屑人間だ。


 ただグリテには才能があった。

 俺はルールを守るクズで、グリテはルールを守る必要のないクズなのだ。

 人がルールを守ることの大きな理由は、自分にしっぺ返しがくることを恐れるからだ。グリテは、その心配をまるでしない。


 なんにしても、改めて分かり合えないと思ったわけだ。

 とりあえず教師の人を寝かしてやる。机の上なのはまあ仕方あるまい。


「なにしてんの?」

「一応介抱だよ」

「あぁ?」


 理解できないといった風に、俺を見る。つかつまらないだろうからあっち行ってくれよ。

 グリテはこういうときに限っていなくならない。それどころか俺の持ってきた資料にまで興味を示し始める。


「おまえ、まだ探してんの?」

「ああ」


 記憶力のいい奴だ。人の話をしっかり聞いた上で無視してるタイプなんだな。

 とりあえずグリテと目を合わせないように、爽やか教師の容態を見る。まあこれ以上できる事は何もないわけで、


「……あれ?」

「何だ?」


 気づいて、つい言葉が漏れてしまう。グリテもそれに反応する。

 爽やか教師の持っていた荷物の中に、ぴりぴりと痺れるものがあった。魔法で出来た地図だ。


「この学校の、全体像かこれ」

「……つまんねぇ」


 俺たちのもっている世界地図に似ているが、こちらは学校限定もあってかかなり細かく書かれている。自分の現在位置に二点、ほかにも黒い点がいくつも動いていた。教室に多く、廊下にもまばらだが動く点がある。

 この点は、生徒か。


 ちょっと適当に眺める。そこまで面白いものじゃないが、なんというか、こういうのって見つけたら何かに利用できないかと探すよね。ハリーはなんでこんなものを無償でもらえたのか。


「おもしれぇのか?」


 グリテが俺を払いのけるくらいに体を押して、地図を見る。


「何も変わってないよ」

「ならつまんねぇな」

「そうでもないんだなこれが」

「は?」


 俺はある一点を凝視した。なんというか、ちょっと面白いものを見つけた。



「なんで付いてくるんだよ」

「オレに指図すんのか?」


 地図を頼りに、ある倉庫部屋にたどり着く。別に不自然なものは何もない場所だ。

 俺はどうすればいいかわからないので、手探りに壁でも触ってみる。


「なにしてんだよ」

「……」


 グリテはなぜか俺についてきた。暇なのだろうか。攻撃の気配がないのは救いだが、できればどっかいってほしかった。

 まああれだ、遠慮したところで殴られそうだし、ぞんざいに扱っても構わないな。


「おい」

「……入口を探してる」


 ただ怖いので、口はきく。


「入口?」

「ああ、必ずこの教室のどこかにある。それがどこなのかも、どうやって入るのかもわからないけど」


 駄目だ。手探りで探しても何も見つからない。そこまで広い場所でもないから、すぐに行き詰ってしまう。


「そこだな」


 ふと、グリテが天井の明かりを指差す。他の教室にもあった、何の変哲もないライトだ。

 ただ、グリテと俺がそれをじっと睨んでいたら、なんとその照明が降りてきた。


「魔法の質が違う」

「そんなことわかるのかよ」

「どんなものでも魔法でできんだからな、手を加えたものとそうじゃないものが見分けつくんだよ。ま、直接見なきゃわかんねぇし、そんなことできる奴ほとんどいねぇが」


 なにそれ、絶対音感みたいなのか。

 そういえば、あのベリーもそんな感じで気配もないのに敵に気付いていたな。


「オレは天才だからな」

「さいですか」


 グリテは勝手についてきているが、案外役に立つ。流石というべきだろう。

 照明が降りる。たぶん何かの仕掛けだろうが、触れるのにちょっと躊躇う。


「おいおまえ、オレが見つけてやったんだ、つまらねぇ物だったら承知しねぇからな」

「なんで承知しないんだよ」

「さっき、オレがつまらないって言ったとき、違うって言ったろ」

「……風」


 一応逃げる準備しとこ。十中八九つまらないものだし。

 俺は降りてきた照明に触れる。すると何かに吸い込まれるようにして、体が天井をすり抜けていった。


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