第五十話「らっきー むくい」
「終わったっ!」
出現した大量のモンスターをカードに変えて、ラミィが地面に腰を下ろす。
辺りはすっかり夜になってしまい、背後に見えるチリョウの町の外套が数少ない高原と化した門の前で、俺たちはやっと一息ついた。
「ねねっ! 私途中からきたから全然わからなかったけど、あのどっかいった人たち誰っ! 咄嗟に攻撃しちゃったけど、あの人すっっっごい強そうだったよっ!」
「それであってるよ」
この没落姫だけはやけに元気だ。俺に体力を分ける命令とかないのだろうか。
「それよりもラミィ、ここに来るまで何してんだよ」
とりあえず、最初に聞きたかったことだ。助けに来るにしても、遅すぎではないだろうか。
俺の問いに対して、ラミィはいちど大きな声で、
「ごめんっ!」
謝ってから言い訳に入った。
「この町でお気に入りの仕立て屋さんが休みだったんだよっ! アオくんがあんな命令をするから、隣町まで買いにいったんだから」
「おまえ、その辺で買ってくれば」
「こんなことになってるなんて思わなかったよっ! 奴隷紋章がアオくんの生命の危機を感じて、この格好で全速力で帰ってきたんだからねっ」
ラミィが自分の着ているスカートを手でつまみ、ひらひらする。そのスカートはミニもミニで、ホントちょっとジャンプするだけで中が見えそうなくらいだ。可愛らしいのはいいけど、ちょっと危ない気がする。
せめてもの抵抗なのか、脚に包帯をニーソックスのように巻きつけている。奴隷紋章で隠せる限界まで上に巻きつけたのか、絶対領域みたいになってるな。
「ん、あすまん、聞いてなかった」
「アオくんっ!」
「過ぎた事だな、仕方ない」
「アオくんってたまにすっごいムカッするよねっ!」
たらればを今更言っても仕方あるまい。
とりあえずラミィ以外のメンツも容態を見ておかないと。
フランは、細かい傷が結構ある。近距離戦闘なんて初めてだったから、かなり疲れたのだろう。肩が上下している。
「大ジョブ」
俺の視線に気付くと、フランはぐっとサムズアップして応える。それからしばらくは、じっと自分の大砲を眺める作業に取り掛かる。
「絶対、調教する」
モンスターと戦っている間も、あの火と水のコンボは常に使っていた。勘を覚えるための特訓でもしていたのだろう。向上心は人一倍だな。
「アオくん、今日中に師匠のところに御見舞い行っていいかな?」
「ああ、俺もあとで行くから、一緒でいいだろ」
「ありがとっ」
ゴオウはこの場にいない。アルトが消えたあとすぐにミライが来て、病院にまで運んでいった。かなり危険な状態に見えたが、心配したところでどうにもなるまい。
今、解決しなきゃいけない一番の問題は、黙って立ち尽くすロボだ。
「……」
「ロボ」
俺たちに背を向けたまま、ロボはジャンヌの消えた先をずっと見つめている。モンスターとの戦いでも、ほとんど口を開くことがなかった。
ここで切り出すのはあまりいいタイミングではないかもしれない。だが、先延ばしはごめんだ。
「ジャンヌを知ってるのか?」
「……はい」
ロボは静かに口を開いた。まだこちらを見ない。
「あいつは何者なんだ」
「ワタシの旧友です。そしておそらく、ワタシをこの身に変えた張本人でしょう」
「おそらく?」
「実は、この姿になった前後の記憶が曖昧なのです。ただかすかに覚えている記憶の幾つかに、ジャンヌ自身がやったと告白した覚えがあります。実際にどんな奇術を使ったのかはわかりかねますが」
また、へんなところで繋がりが出来たな。
ジャンヌはロボの知り合い、しかもかなり知己と見える。ロボの過去を思い出す顔が、心なしが落ち着いている。
「ワタシとジャンヌとは同じ孤児院を出ています。学び舎も同じ、もうずっと前のことになりますが」
ロボは気付いていないだろうが、いつもより饒舌になっている。狼となった今にしてみれば、過去のことはとても眩しいのだろう。
にしてもあのジャンヌと同い年か、ロボは思っていたよりもずっと若かった。
「ワタシは知る必要がある。彼女はどうしてワタシをこの姿に変えたのか……そして、そのまま放牧し、多くの無辜なる人を殺すことを、黙認したのか。もし彼女がこのことを続けるのであれば、ワタシは止める義務がある」
その懐かしい思い出を歯噛みするように、ロボは悔しそうに言い切った。
旧友への愛着と、殺してしまった人々との板ばさみになっているのだろう。予想以上に、ロボの境遇は重く、根が深い。
「ジャンヌの使う魔法は何だ?」
「すみません、闇を使うことは知っていますが、本懐は知りえません。まるで幻術のように、闇一つでほとんどのことをして見せます。ジャンヌは見えると言っていましたが、ワタシには理解できませんでした」
「そっか、さっき見たまんまってことだよな」
俺も見ていて何をしているのか全くわからなかった。アルトの剣を止めたという事実はわかっているが、どうして止まったのかもわからない。
ロボは未だに背を向けている。このまま、ジャンヌを追って走り出してしまいそうだった。
「申し訳ありません。ワタシの不始末が招いた結果です。元はといえば最初、身勝手に――」
「しゃあないだろ、そんなの結果論だし。まさか追っただけであそこまでやばいことになるなんてわからない。ラミィだってこんな状況予想できなかったって言ってただろ」
「しかし――」
「俺はな、たとえロボがいくらアホな行動を取ろうとしっかり付いていく覚悟くらいはあるんだよ」
何か、ロボが逃げてしまいそうに見えて、ちょっと引きとめるような言葉になってしまう。
だいたい、間が悪かったといえばそこまでだが、そんなこといっても始まらないだろ。
「前にも言ったろ。全部の責任はお前にはない。俺の意見は尊重しろや」
「……アオ殿」
ロボは、そんな投げやりなことばに対して、一度目を開くと、何かを見据えるように、俺に向かって穏やかな視線を向ける。
「ワタシは、この旅に何か天啓のようなものを感じていましたが、まさか網糸が繋がっているとは思いませんでした。アオ殿!」
そこでロボは突然振り返って、跪き俺の手を取った。
「な、なんだ!」
「この心、畜生程度の身体しか預けるものがありませんが、今のあなたになら、すべてを託してもいい思いです」
こいつは、ホント調子いいよな。ちょっと苦笑いがこぼれてしまう。
「なら、もうちょっと俺の役に立てよ、料理とかさ」
「御意!」
返事だけはいっちょまえだ。というか、こんなところでそういう姿勢をされると恥ずかしい。
「アオくんってさ、たま~に、ほんのちょっとだけいいところあるよねっ!」
「ちょっとは余計だ」
「大丈夫っ! 今更なにされたって、私はアオくんについていくからさっ!」
隣で、ニコニコしたラミィまで近づいてくる。じゃあなにしてもいんだな。
ラミィもロボも、あんま俺に期待すると失望するっての。ラミィにいたっては一度失望しただろうに。
「わ、わたしもついていくよ!」
フランはどうでもいいところで慌てるし。作業に集中しながらじりじり俺との距離をつめてくる。あんまり引っ付くと作業がやりにくいと思います。
「それよりも、問題はこれからだ。あいつら、また俺かフランに突っかかるつもりだぞ」
陽のカード。
いちいち俺たちの旅に付きまとう用語だった。たぶんこれからも、呪いのように付いてくるのだろう。
この旅は最初こそトラブルばかりで、今なんか爆弾を抱えてしまった。
「シルフィードラミィが付いてるよっ! 対策を一緒に練ろう!」
「ではアオ殿、ワタシがあなたの盾となり、剣としての一生を捧げましょうぞ」
「アオ、これから強くなろう」
皆がみんな自分勝手なことを言っている。女三人集まると、やっぱ姦しい。
ただ、子供の頃にあった恐怖とは違う、なんだかあったかい三人の言葉に、ちょっとだけ何とかなるんじゃないかと思えてしまう。
これは人生初のラッキーボウィではなかろうか。サイコショッカーと、包帯没落姫と犬の三人が、なんとも輝いて見える。
ただ今は、ちょっとこぱっずかかしくて、彼女三人ではなく、もう陽の落ちた空に目を向けてしまう。
*
「失礼しますっ!」
ラミィが先導し、病院個室のドアを開いた。
あれからしばらく、ちょっとした恥ずかしさが覚めやらぬまま、ゴオウの部屋にまでやってきた。あれだけ重病でも、集中治療はしないんだな。
「残念ですが、私に何をしても治療にはなりませんから」
そんな俺の心を見透かしたように、ゴオウが呟く。
ベッドで上体を起こして、幾分か体調を回復させたゴオウがいる。まるで俺たちがこのタイミングで入ってくるのを見越していたようだ。
隣にはミライもいる、何か俺見るたびに愛想笑いするよな。俺にプリントを渡しに来たクラス委員長と同じ顔している。
「師匠っ! どうして閃導を使ったんですか!」
「いやぁ、あそこで張り切らないでどうしますか」
「師匠はいつ消えてもおかしくないんですよっ! 戦いなんてすれば引き寄せられるに決まっているじゃないですかっ!」
ラミィの言い分はわかるが、あそこでゴオウこなかったら死んでたぞ。まあ責めたいのはそこじゃないんだろうけど。
「もっと自分を大切にしてくださいっ! せっかく病院にきてもそれじゃあ……」
身を挺して誰かを守ることはいいことだ。だけど、それは残された人間のことを考えていない行為に等しい。
博士だって、あの時はやむをえないにしても、フランを悲しませたのは事実だ。
ラミィが今流している涙は、それと一緒だろう。だからまあ、俺は重箱の隅を突っ込まないでおく。
「ラミィ、ゴオウさんが困ってるだろ。生き残ったんだからよしとしような」
「そういう問題じゃありませんっ!」
「いやわかってるけどさ……命令だ、ちょっとこれを舌で転がす練習をしろ」
俺はロボリュックにあったぺろぺろキャンディーを取り出す。チリョウに来る前の馬車商人から買ったものだ。こういう地球を思い出させるものって、つい買いたくなるんだよ。
「ま、まったぁああむむっ、はむぅ! んんっ、んー!」
あれって結構でかいんだよな、舌で転がすのは無理っぽい。何か無理矢理口に加えるみたいになってる。
「アオ、私にもちょうだいあれ」
「……ロボ」
「アオ殿が直接渡すべきです」
そういう事している場合じゃないんだが。
とりあえず俺が手渡しをして、フランは機嫌よく受け取ると、口を大きく開けて必死に加えようとする。頑張りすぎて舌から糸引いてるな。
「はは、仲がよろしいですね」
ゴオウはそんな茶番にも、変な顔ひとつせず笑ってくれる。まああれだ、雰囲気は結構よくなった。
「それにしても、ラミィは奴隷になったのですか。なんというか、流石の私も予想できなかっというかなんというか」
「そんなことよりあれだ! ゴオウさん、あんたのその異常に察しがいいのって、その閃導ってやつでいいんだよな」
「はい、そうですよ。私の閃導は使っていない間もいろいろな事実を私に教えてくれます。だから、普通に活動するのもあまりいいことではありません」
「んー!」
ラミィの叫びに、ゴオウはただ苦笑いをする。
「これは報いですよ。二十年前、勝負ではなく勝利のみを求めた結果、道理を引っ込めるためにした禁術です。元より私は闘いがきらいで、最も効率よく勝ち続ける術を探しただけなんです」
「勝つための理屈って訳か」
「はい。おそらくですが、私の身体はもって数年です。近いうちに、宇宙に連れて行かれるでしょう」
ゴオウは達観した声で、まるで明日の予定を告げるように自身の死を話す。
たぶん彼には、いろんな葛藤があったのだろう。俺の知らないところで悩みきって、この結論を出した。
だから、気楽だなんて思っても口に出しちゃいけない。
「アオくん、ありがとうございます」
「経験があるんで。俺も昔、負けたくせにニヤニヤするんじゃないって殴られたことがあるんですよ」
あの時の教師は本当に許せない。悔しいに決まってるのに。
「うわぁ~うわぁ……」
なんでミライがそこで反応するのか。
無駄話はこの辺にして、本題に移るべきか。
「なんにしても、俺たちは明日ここを発とうと思ってます」
「はい」
「アルトが俺達を狙っている以上、ここに留まるのは危険だ。あなたがその状態じゃもう退けないだろうし」
あの時アルトを一度でも押せたのは、ゴオウの攻撃が大きい。カードも砕いたし。
それでも本気を出させることすら敵わなかったのだ。次はラッキーなど無い。
「そうですか、もう少し特訓をしてもらいたかったのですが」
「無理でしょう、ラミィもゴオウさんを戦わせたくはないだろうし」
「んーっ!」
もう少しで氷の剣もパワーアップしそうだったけど、仕方あるまい。
そんな俺の表情を見ながら、ゴオウは人差し指を立てた。
「では、ちょっとだけアドバイスです」
「アドバイス?」
「はい。あなた、また火の魔法は使えませんね」
この人、今能力使ったりとかしてないよな。とりあえず頷く。
火の魔法だけは、未だにヒントもクソも無い。元より、発動に条件などないはずなのに。
「あの魔法は、ちょっと危険です。もし使うとするのなら、あなたは向き合わなければなりません」
「……何と?」
「その身体のルーツと」
「はい?」
「今はわからなくてもいいです。ただ、フランク博士は普通のことをしないということですよ」
ますますわからない。
ただゴオウは一人満足して、俺に笑顔を向ける。
「あとは、あれですね、グリムマミーには私から言っておきます」
「ぐり……ああ、ラミィ兄のことか」
「ええ、安心してください。なんだかんだ言って、彼は私の言う事は逆らえませんから」
「っぱ! 師匠!」
いつの間にか飴を舐めきったのか、ラミィが口を開いた。
「飴噛んでないだろうな」
「命令のせいで出来るわけないでしょっ! もう舌がひりひりだよっ!」
すごい舌使いだ。才能があるなこれは。
「それよりもっ!」
「はい、なんでしょうラミィ」
「教えてくださいっ! 私はいつになったら閃導をつかえるのかっ!」
ラミィがゴオウに詰め寄る。
「あのままじゃ、私は絶対に勝てません。せめて、兄さんと同じくらい、閃導の初手だけでも学べればっ!」
「前にも、やりかたは教えたでしょう」
「でも、一度だって使うことができなかったんですよ、師匠だって覚えているじゃないですか」
ラミィが珍しく、へこんでいる。あのラミィにも挫折があったのか。
ゴオウはラミィの手を握り、諭すように呟いた。
「……ラミィ、閃導は特別な技術よりむしろ、その考え方によるものが大きいのです。言ってしまえば、勝つことしか考えないものが、習得することの出来る力です。とても効率的ですが、それは逆にとても虚しい」
言いながら、ゴオウは自分の仮面を取り出した。あの変身するときのへんてこ仮面だ。
「私はこの仮面を、ただ相手を油断させるためのピエロのようなメイクとしか見ていません。あの小説のヒーローを楽しむ事はできても、私には理解ができないんですよ。私は、闘いがきらいです」
「わ、私だって闘いは……」
「きらいですか?」
ラミィはそう言われて、口ごもる。拒否しつつも、完全に否定できないのだ。
誰にだって、戦ったり勝つことへの喜びがある。たとえば、対戦ゲームだってプレイすること自体が楽しみだし、勝てば次もやりたくなる。
誰もが持っている達成感への手段として、戦いは快楽なりえるのだ。
「だから、あなたができないのは、決して悪いことではありません」
ゴオウは、その戦いを、面白くもなんとも思っていない。ただ勝つために行動している以外に、なにもない。
ある意味、閃導を極めたゴオウは人として完全に壊れている。
「やっぱあなた、きらいね~」
ミライが、俺を見ながら毒を吐いた。
ゴオウはミライをたしなめながら、苦笑いをする。
ゴオウとミライ、この二人の見た目は人間と全く同じなのに、どこかで完全にズレていた。
「ラミィはラミィの強さを見つけてください。あなたはあなたのやり方で、目的を果たすべきです」
ゴオウの言葉は、まるで閃導を否定しているようにもみえた。
*
「アオ殿! できましたぞ!」
翌朝、寝泊りした宿屋でなにやらロボが騒ぎ始めた。すでに開いたドアを開き、犬の身体でこちらに近寄ってくる。
俺は眠そうな体を起こして、ベッドから立ち上がる。ラミィはもう部屋を出たのか。
「アオ殿、おきてくださいアオ殿」
「うるさいな……」
「ワタシは、この朝より精進を惜しむまいと、鍛錬を積み重ねました。数回の失敗を重ね、職人の手腕を盗む罪悪感を乗り切り、とうとう果たしました!」
「なにをだっ……だ」
近寄ったロボを見ると、なんとエプロンをしていた。いつもはマントを羽織るだけなので、今の状態は裸エプロンだな。まあ犬って裸の定義とかあるのか知らないけど。
なんにしても、大体予想が付いた。
「料理でございます!」
「なるほど」
なんとも行動が早い。料理を学ぶと宣言してもう習得したのか。
これはますますロボが旅に欠かせなくなるな。今は街にいるからあんま意味無いけど。
「よくやったぞロボ、それで、その料理は」
「ワタシとフランの部屋に置いてあります。ラミィ殿はすでにそちらへ」
「よっしゃ」
俺は立ち上がって、ちょっとワクワクしながら部屋を出る。ロボに促されるまま、別の部屋に入った。
「あっ、アオくんおはよっ!」
「おはよ」
すでにラミィとフランはテーブルを囲んでいる。
「ロボさんこれおいしいよっ!」
「恐縮です」
ロボは謙虚に畏まりながら、尻尾をふりふりしている。
ラミィの御墨付きだ。見た感じ嘘もついていないし、それなりに味を期待してもいいのだろう。
「アオ殿、こちらへどうぞ」
「ん、ああ」
「もこもこ」
俺もロボに促されるまま、座席に腰掛ける。
ラミィは食べ終え、フランも口をハムスターみたいにもこもこさせているだけで、皿はからだ。
一体何が来るのだろうか。
「お待たせいたしました」
「おっ、これが俺のぶ……分か」
「はい、どうぞ」
ロボが機嫌よく皿に置いた。
ホットケーキを。
「お召し上がりください」
ロボがすごい期待した眼で、俺を見る。
なぜだ。何故HOTCAKEなのか。
「アオ殿が料理するところをよく見ていましたから、これでも味に自身があります」
あぁ、ああ! 俺の料理しか見る機会なかったもんな。そりゃホットケーキだわ。
「アオ殿、どうぞ一口」
ロボの眼がラミィ並にキラキラ輝いている。
まあ言い出したのは俺だ。その俺の反応が気になるのはわかる。前の二人がああなのだから、かなり自信があるのだろう。
とりあえず、一口食べる。
「んー」
「如何でしょう」
もう、ロボが耳を後ろにして尻尾を振り回している。もう尻尾が壁に当たってばたばたと音を立てている。
本当ならここで、俺は言うべきだろう。ホットケーキ以外を頼むと。
「……うまいな」
「っ! ありがとうございます!」
でも、あんな犬の様子見たら、これ以外に言う事がなくなってしまうよ。
味は普通だ。そんなに悪くない。だったら褒めておくべきだ。
「アオ殿、はちみつをぬりますね」
ロボが機嫌よくはちみつを塗ってくれる。ご丁寧に俺の名前を書いているぞ。メイド喫茶じゃないんだぞ。
*
朝の準備と旅のしたくも終わり、チリョウの門にまで来ていた。
「みなさん、おはようございます」
そこには、ゴオウとミライが迎えに来ていた。
迎えなんて初めてだったな、よくよく考えると、いつも逃げるようにその場所を離れていったせいだな。今回も逃げていることには変わりないが。
「師匠、おはよっございますっ!」
「ども」
「ん」
「おはようございます」
ゴオウは俺達をそれぞれ見ながら頷く。ベッドで寝ていなくてもいいのだろうか。
「大丈夫ですよ、私の体は何をしても変りませんから」
「あたしはやめてほしいけどねー。お願いされたからちょっとだけよ」
「はい、ちょっとだけ」
ゴオウは俺に近づいて、肩に手を当てる。
「アオくん、地図を貸して下さい」
「地図ですか」
何のためかわからないが、正直に取り出す。
「ウツシ……はいどうぞ」
ゴオウはそれを受け取って、なにやら絵を描いたみたいだ。
俺はそれを受け取って、地図を見る。
「なんだこれ」
「師匠、なんだかいっぱい追加されてますねっ!」
ラミィが横から覗き込んで、印象そのままを述べる。
「はい。私の知っている隠れスポットなんかを記しておきました。誰にも見せちゃ駄目ですよ」
「はぁ」
隠れスポットと言ってもピンとこなかった。確かに今まで見ていた地図よりも幾つか名称が増えている。海の中心にも町が書かれてたりするけど何だこれ。
ただそんな疑問も、俺はある一点の地名によって、思考の隅に追いやられた。
「ゴオウさん、これ」
「地図は正確ですよ。その、フランク博士のいた家の場所もです」
フランク博士の家、つまりはあの異世界に初めてきたあの場所のことを言っている。今までどこにあったのかもわからなかったが、こんなところにあったのか。
そこは西にあるマジェスの、さらに西にある森の中だ。俺たちがワープした場所が東の端だから、ほぼ反対方向にある。
「今じゃなくても構いません。ただ一度、行ってみては如何でしょうか」
「そんな場所、なにもないわよ」
「それでもです」
フランの反応は、予想以上に否定的だった。
ゴオウはそれを諭すように、それでも強く押すことはない。
「いつか、向き合えると思ったときでかまいません。あそこは、あなたの居場所だったのですから」
「……」
やっぱりフランも、まだ博士を割り切れていないのだろう。今までだって、がむしゃらについてきているだけかもしれない。
ゴオウはもう何も言うことなく、ただにこりと笑って、俺たちから距離を置く。もう話すこともないのだろう。
「では、またお会いしましょう」
「ばーいばーい」
ゴオウとミライは手を振って、俺達を見送ってくれる。
ロボは一度御行儀よく礼をして。
ラミィは精一杯手を振って。
フランは、何か思いつめたような顔をして。
それぞれが、思い思いの因縁を抱いて、チリョウの街を出て行く。
現在の所持カード
アオ レベル十三
R 火 風 水 土
AC
C チョトブ*8 ガブリ*5 ポチャン*5 コーナシ*9 ツバツケ*20 イクウ*9
フラン レベル二十九
R 火 水 光
AC ブットブ コウカサス ミズモグ モスキィー
C チョトブ*12 ムッキー*9 ポチャン*10 ズキュン*5 ガブリ*10 デブラッカ*1 ガチャル*2 ジュドロ*5 ツバツケ*5 ビュン*3
ロボ レベル四十三
SR 地
C ツバツケ*32 サッパリ*20 ポチャン*15
ラミィ レベル三十四
R 風
C ビュン*22 カチコ*3 キラン*4 ポチャン*2 サッパリ*9 ツバツケ*22