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第二十二話「ゆるす ひーろー」

 ラミィは俺を敵と見なして、攻撃してきたのだ。


「ま、まてよ!」

「待っててね、あとでおいしいの食べさせてあげるから」


 ラミィは完全に、俺をあの男たちと同列に見ている。

 酷いやつだ。


 ラミィは俺の盾につま先を当てて、叩く。ちょっとした衝撃なのに、俺の体がたたらを踏んだ。


「なっ、衝撃が内側!」

「はぁあああっ……」


 ラミィが呼吸を整えている。風を吸っているのか。


「こちとら戦闘する気はないんだがな」


 俺が盾を上に掲げて、大きく振り落とした。


「とりあえず、悪い子は殴る前に訳を聞こうな!」


 誤解で倒れるのは親に殴られたときだけで十分だ。

 とりあえず包帯野郎を拘束する。あの風相手に長期戦は不利だ。


「最下層は雑草処理しないんだな! 助かったよ!」


 割れた道の隙間から地面を突き破って、植物のツタが現れる。

 思わぬ攻撃と、避けることのできない範囲で土の触手がラミィを襲う。出来るだけ両手を拘束するんだ。


「むっ! むむむむむ!」


 流石のラミィもうろたえた。ここまでの攻撃範囲は予想だにしなかったのだろう。


「アオ!」


 フランの声が聞こえる。


「どうした!」

「ふ、服が、脱がされてる!」

「我慢しろ! あとで上手いもん食わせてやる!」


 制御が利かないのが難点だが、これなら敵を殺さずに拘束できる。

 氷の剣だったら十割HPが飛ぶもんな。

 フランが、必死に体を揺らして抵抗している。それが返って逆効果となり、着ている衣服の位置がずれていく。


 いかん、敵がいるのに、余所見は駄目だ。それに裸を他のやつに見せるわけにはいかん。

 そう思って、ラミィを見ていると、まるでおぞましいものを見るように俺を睨んでいた。


「へ、変態!」

「誤解だ」

「誤解じゃないでしょ」


 フランまでこっちの敵になった。酷いものである。

 何かを探るように、ラミィの体が動いている。まさか、この拘束から逃げる気か。


 逃がすまいと、拘束を強めようとして、ラミィの顔についた包帯を外してしまう。

 たぶん、本能的にあの包帯野郎の素顔が気になったのだろう。先の細い触手が、起用にラミィの顔についた包帯を切り払った。


 そうして出てきた素顔は、女の顔だった。


「……あ」


 ウェーブの掛かった青髪に、利発そうな顔が覗いている。透き通った瞳が、まるで宝石のようにピカピカと輝いていた。それは彼女の容姿そのものが、人を引き付けるようなカリスマ性を俺たちに主張しているようだった。

 あの姿で演舞をしたら、さぞかし映えるのだろう。包帯の時とは魅力が十倍違う。


「この顔をみたわね……えええ! なんで私の服まで!」


 土の触手が、拘束そっちのけでラミィの服を脱がしに掛かった。命令聞いてくれよ。

 ただそれが逆にラミィを動揺させたたのか、前よりもずっと優勢な気がする。


「上着は、上着だけはぁああ!」


 元々きつかったのか、ちょっと襟元をほどくと、爆発するように胸が前に突き出た。結構な巨乳だ。


「でかい」

「ゆ、ゆるさない! 絶対に許さない!」

「まてよ、誤解だ」

「誤解じゃないでしょ……」


 フランのあきれる声が響く。抵抗のそぶりがない辺り、もう全裸なのかもしれない。


「う……うがあぁああああっ!」


 ラミィが吠えた。怒りと恥辱とか色々な感情が混ざり合って、彼女の叫びを後押しする。

 するとどうだろう、突如辺りにあった触手が引き裂かれ、吹き飛んだ。


「呼吸で魔法が発動するのか」

「ゆるすまじ……ゆるしてなるものかぁあああっ!」


 両手をわなわなと震わせて、ラミィが攻撃の気配を蔓延させる。

 風が吹き荒れ、両腕の包帯が取れていく。素肌を晒した二の腕には、見知らぬ紋章らしき刺青が彫られている。


「怒涛、粉砕! 全身全霊!」


 ラミィは両手を組み、祈りのポーズで拳に風を集めた。視認できるほどの突風が周囲を焚き、その祈りを俺に向ける。


 これ、盾で守れるのか? 心配なんだが。


「迅フォニ――」

「やめて!」


 何を思ったのか、フランが裸のまま俺の隣に立った。危ない。見えてる! 見えてるよ!

 とっさに俺はフランの前に立って、ラミィの攻撃に覚悟を決める。


 当のラミィは、フランの存在をすっかり忘れていたのだろう。正気に戻って、自分の繰り出した技に慌てている。


「あぁあああああっ……あ!」


 ラミィは無理矢理、両腕を空に方向転換させて、攻撃をそらした。

 偶然、俺はその技を目の前で観察できる立場になる。


「ミイラにしちゃ派手すぎだ!」


 俺の目に映ったのは、ラミィの放った技、両腕から放たれた緑色の剣が、天に昇る姿だった。

 極限まで収束された風の暴力が、下層にあった見ず知らずの家々を紙のように粉砕していく。たぶん、俺向かって、真横に当てれば、この街は半壊するのではなかろうか。地球なら高層ビルだって軽々なぎ払うだろう。

 簡単に言うとあれだ、巨神兵のあの口から出すやつ。


「あ、あぶねぇだろ!」


 あれを受けて、土の盾がどうなるかはわからないが、危ないに超したことはない。というか当ったら死ぬ。


「ご、ごめん!」

「ごめんじゃすまないだろ」


 ラミィも悪いことだとわかっていたのだろう。というか正義を名乗るんだから人を殺せるような技使っちゃ行けないだろ。


 とにかく、やっと落ち着いた。もういきなり攻撃してくる気配もないし、早いところ誤解を解こう。俺が奴隷業者じゃないことと、触手は俺のせいじゃないということ。


「にしても、危なかった、お前人殺しになるつもりか? 正義だろ」

「ごめんっ! すみませんっ!」

「アオ」


 俺がうじうじ言っていると、フランにたしなめられる。

 フランは道端に落ちた服を拾い集めて、不器用ながらも着直している。見るとシャツの裏表が反対だったから、ついでに戻してやった。


「これでよし、フラン、どうした」

「んしょ……これはアオが悪い。あんなことをされて正気でいられる女性は、ほとんどいないって、ロボが言ってた」

「ロボは何を教えてるんだよ」


 まあ、正気を失って必死になるのなら仕方ないか。たぶんラミィからしてみれば、貞操の危機だったろうし。命がけになるのもわかる。


「わかった、一応許す」

「そうじゃないでしょ」

「ごめんなさい、服脱がしてごめんなさい。ラミィさん」


 俺は頭を下げて、ラミィに許しを請う。

 お互い様という言葉がある。たとえ相手が先に攻撃してこようと、結局は喧嘩両成敗というわけだ。結果論だが、俺は無傷なわけだし。

 心を傷つけたであろうラミィは、一度うつむいた後、元気よく顔を上げた。


「じゃ! 気を取り直してもう一度ね! 今度はあんな技使わないから!」

「いやいや!」


 ラミィは素早く着替え、憲法の構えを取る。もう一度戦うつもりだ。

 手の早いラミィの拳を一発、鼻に喰らう。



「なんだ、非公式の奴隷商人さんじゃないなら、言ってくれればいいのにっ!」

「あの状況でか? 無実だと拳で語ればいいのか?」


 フランの介入によって、事態が収集して数秒くらいたった。

 ちょっと体の節々が痛いが、もういいや。

 

「ごめん! こればっかりは正義も言い訳の余地がないよね! ちゃんとお礼はするからさ、ね!」

「アオ、根に持ちすぎ」

「わかってるよ」


 俺は元々根に持つタイプなのだ。小学校の恨みリストは今だって頭の中にある。

 にしても、このラミィという女はすっごいやかましい。身振り手振りも大きく、明るい子といえばいいのか。

 背は俺よりもちょっと低い。自身も平均より高くないけど。包帯こそしているが、胸といい体格といい、女の子そのものだ。あと瞳がキラキラと眩しい。


「俺はアオ。こっちはフランだ。公式の、奴隷商人探してたらいつの間にか下層に来ていた」

「私の名前は……正義の味方ぁああ、疾風少女シルフィード・ラミィ!」


 ラミィはくるりと可愛らしく一回転して、格好いい決めポーズを取る。

 こっち見てる。どんな反応してくれるのか、気になるのだろう。


「格好いい……」


 フランがちょっとだけ変なことを言っている。


「でしょ! わかってる~よろしくねっ、フランちゃん、アオくん」


 ラミィが嬉しそうにサムズアップをかます。

 フランはびくっとしてから、俺の後ろに隠れる。


「で、名前は?」

「ラミィだってば!」

「本名だよ、俺はニチアサの番組名聞いているんじゃないんだぞ」

「ヒーローは象徴よ」

「名乗る気はないのかよ」


 ラミィは口笛吹いている。なんかむかつく。


「ささ! 二人ともさっきは悪いことしちゃったね、だからお礼と怪我の治療もかねて、ラミィアジトで紅茶を奢るからさ、ついてきてっ」

「ついてきてって、もういいよ。奴隷商人の場所教えてくれればお礼もいらないから」

「そういうわけにもいかない! 何の落とし前もつけられないようじゃヒーロー失格じゃない」

「落とし前をつけた時点で失格だろ」

「……アオ」


 フランが、俺の袖を引っ張る。


「なんだ?」

「わたしは、行った方がいいと思う」


 珍しく、フランからの進言だった。対等とはいえ、うちのパーティは俺任せに行動することが多い。

 つまりは、何かそうまでする訳があるということか。


「どうしてだフラン」

「……格好いいから」

「え」

「あの腕」


 フランが、ラミィの両手を指差す。すでに包帯で隠れているが、確かあの手には刺青がしてあったな。


「魔法陣……しかも、すごい特殊」

「ああ、なる」


 フランの知的好奇心が、人見知りを勝ったのだ。ホットケーキのときと同じだ。

 ついて行って、教えてもらえる保障はない。ただ、ここで別れれば知る機会を失う。

 リスクばかり削ろうとする俺とは大違いだ。


「わかった、ついていくよ」

「アオ、ありがと」

「やった! じゃあよろしくねっ!」


 ラミィはご機嫌なのか、いつもそうなのか、気軽にステップを踏んで路地裏へと先導する。

 俺とフランは、そんな明るい背中に黙ってついていく。



「ここだよ」


 着いたのは、オンボロの平屋だった。

 作りそのものは頑丈そうだし、かなり大きいから金が掛かっているだろう。でも、最低限住める程度の家って所だ。修繕しようと思えば、いくらでも欠陥が見つかりそう。


「さささ、入って入って」


 ラミィの手招きに着いていくまま、平屋に入っていく。一回曲がり角を過ぎて、右側に見えるドアを開ける。

 客間、というわけでもなさそうだ。でかい机にいくつもの椅子が並び、奥を見るとキッチンまである。


「ちょっと待っててね、隊員に連絡するから」

「何を連絡するんだ?」


 俺が聞き返すも、その時すでにラミィは別の部屋にまで走っていった。つむじ風みたいな女だ。


「なんか、忙しい人」


 フランはラミィの消えた先を、首を伸ばして眺めている。興味あるなら見にいけばいいのに。


「まああれだ、人が多いなら、この世で一番美しいものの情報もあるかもな」

「あんまり、期待できないと思う」

「じゃあ、やっぱ俺は奴隷商人の場所聞きだすくら――」

「奴隷商人だって!」


 突然、部屋の中で子供の怒鳴り声が響き渡った。


ついでに、今まで出てきたモンスターカードのまとめ


AC

 ブットブ とてつもない速度で飛んでいく

 コウカサス とっても堅くなる

 ルツボ 秘密

 セイブーン 内部構造を知る

 ミズモグ 水に潜れる、水の間をワープできる


 チョトブ ジャンプするカード

 デブラッカ 岩を落とすカード

 ガチャル 威力は上昇するが、狙いが定まらなくなる 味方にも当たる

 カチコ 堅くなる

 スピー 眠くなる

 ムッキー 筋力上昇

 ガブリ 牙で攻撃

 ドッカベ 固い壁を作る

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