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第十九話「ぷらいど にもつ」

 知っていた!

 やはり、異世界に存在してたものだったのか。


「それはどこにあるんだ、というか何なんだそれは、物なのか、人なのか、概念なのか?」

「青空より広大で、緑より穢れ無く、赤く燃えあがる気高さを持ち合わせた、現存する全ての心よりも美しいもの」


 ガイアスは、懐かしむままに言葉を紡ぐ。


「なんだよ、もったいぶってないで教えてくれよ」

「……残念だが、それはできない。そういう決まりなんだ。精霊は、その名前をつけることすら憚れる存在だから」


 ガイアスは俺から視線を外して、頭を下げる。

 なんだよそれ、完全に何もわかってないじゃんか。一万払ってパンツも見せてくれないのかよ。


「でも、人の身でそれを探すのは自由だ。見つけるかどうかは、君次第」

「ヒントも無しか」


 一応、あるってことだけわかったのは収穫なのか。


「なあ、力づくで聞いちゃ駄目か?」

「アオ殿、何を言い出すのか!」

「ほっほっ、面白いことを言うね」


 そういうと、前触れも無しに地鳴りがした。山全体が震えているのだ。


「きゃ……」


 フランが倒れそうになる。俺が受け止めるが、まとめて倒れそうだ。


「な、何したんだ」

「アオ殿の戯れに反応したのかも知れない!」

「ほっ、そんな事はしないさ」


 ガイアスの、楽しそうな声。それは、目の前にいた岩男から発せられたものじゃなかった。

 山そのものが、山彦を通して俺たちに話しかけていた。


「も、もしかして、この山そのものがガイアスなのか!」

「あたりだよ」


 広大な山が、意思を持ったように動き出す。俺なんかじゃ及ぶこと無いスケールを、ガイアスが示したのだ。


「君たちがいるのは、丁度右肩あたりかな」

「け、喧嘩売ってすいません」


 これは勝てない。思わず下手に出てしまった。不良に財布の話をされることの数倍は驚いた気がする。


「ほっ、君のような人間があれを探すのは、確かに道理を得ているかもしれない」

「……道理? 俺が世界一美しいものを探すのに?」


 美しいものとは程遠い俺を、美しいものを探すのは、ちょっと身に余るのではないだろうか。


「人は常に、足りないものを求める。人を成長させるのは才能だが、到達への道筋には執着がある。醜いが故に、君は求められるよう生きているのかもしれない」

「な、なんという言い草」

「アオは、醜くなんかありません」


 フランが、堰を切るように反論した。おい、ガイアスに反論したら後が怖いぞ。


「確かに、アオの一面には醜いものがあるわ。でも、それだけで物を判断するなんて、精霊としてどうなの?」


 何が気に入らないのか、フランが真っ向から反論している。眉間に皺がよっているが、内股が震えている。


「ほっ、それはすまなかった。まだこの身も、足りないことだらけだ」

「……わかればいいのよ」


 フランは、ほっと息を付いてから、俺の背中に寄りかかる。


「ガイアスさん、せめてヒントをくれないか? どこに行って見るといいとか」

「ヒント……そうだなぁ。じゃあ、美容院に行くといい」


 俺、こいつ嫌い。

 というか美容院って、この世界にあるのか。もしかして、地球のことを知っているんじゃないのか。


「冗談だよ、そこの小さいお嬢さんに免じて、教えてあげよう。そうだね、首都に行くといい。地脈はそう導いている」

「首都? おいじゃあ」

「ムッキー」

「え」

「大地は常に生命の足元にある、君にばかり話し掛けていては、嫉妬を買ってしまうよ」

「アオ殿! 大量のムッキーがこちらに進軍してきている」

「オッペケペンムッキー!」

「なっ、まじか!」


 土の盾で対処するべきか、いや駄目だ。たぶん、あの力が止められたのは大地の精霊の体で力を使ったからだ。この山じゃまずい。


「ムッキー!」

「逃げるぞ!」


 俺はフランの手を取り、街の方向へ走り出した。

 たぶん、あの山野郎はもう俺に何も教えてくれないのだろう。これはその意思表示だ。

 だったら、もう逃げるしかない。


「アオ! ムッキーの群れが!」

「ひえぇええ」


 よそ見しているフランを必死に引っ張りながら、俺は走り続ける。


「いい空だ、久しぶりに忙しくなりそうかもね……」


 のんきなガイアスの声が、山彦に鳴って何度も響き渡った。



「やっと撒いたか」


 息を切らしながら背後を見る。ムッキーは一匹もついてきていない。


「そういえば倒したカード拾うの忘れてたな」

「アオ、わたしが持ってる。拾っておいた」

「流石」


 たぶん、俺がガイアスと話している間にやっていたのだろう。時折抜け目なかったりするから、フランは舐められない。

 隣にはロボも付いてきている。別にしなくてもいいのに、同じ方向へ逃げたようだ。空を見上げながら、誰かにお辞儀をしていた。たぶんガイアス辺りだろう。


「これから、ワタシの懺悔が始まります。それがワタシの罪というのなら、喜んで生き恥を重ねましょう」

「波乱含みの幕開けだけどな」

「あっ、あんたら!」


 とそこに、野暮ったい声が届いた。

 走ってきたのは、あの冒険者ギルドの受付姉ちゃんだ。名前はなんだっけ。

 受付姉ちゃんは俺たちに気付くと、ロボを見て腰を低く距離を保った。


「……そうかと思ったけど、殺さなかったのね」

「ああ、趣味じゃない」

「それなら、来て正解だったわ」


 やっぱり、受付姉ちゃんもギンイロガブリの状態に薄々感づいていたようだ。ギルドの職員は伊達じゃない。

 受付姉ちゃんはキョロキョロと当りを見渡した後に、どうしてか俺たちを茂みのほうへ誘う。

 なんだ、こそこそして。


「簡単に事実を言う。あんたとそのギンイロガブリが仲良く話しているところを、街の人間が見たんだ」

「ん、ああ。街の近くだし、警備も結構いたから、みられてたかもな」

「あんたね、あたしみたいに事情をある程度察していればいいけど、街の人間はそうじゃないのよ!」


 俺の胸倉を掴んで、慌てたように受け付け姉ちゃんが叫ぶ。

 まって、なんで俺だけ。


「あんたがね、ギンイロガブリとグルじゃないかって話になってんのよ」

「は?」


 受付姉ちゃんの言葉に、俺は思わず固まった。

 どういうことだよ、なんでそこまで話が飛ぶんだ。


「そんなことして何の得があるんだよ」

「名前を売ったんじゃないかってね、前にも言ったけど、ギンイロガブリの討伐にはとんでもない金が動いてる」


 ああ、泣いた赤鬼みたいなもんか。必要悪を作って取り入ると。

 なんでそんなことしなきゃならん。


「俺は媚とイケメンが嫌いだ」

「知るかよ。あんたらみたいな弱そうな人間が、ギンイロガブリ相手に生き残ったのも、それで理由がつくんよ」

「まってよ、なにそれ、わたしたちが雑魚みたいな言い方」


 フランが、口をへの字にして声をあげる。

 まあ、いいたいことはわかる。フランも、街の人間も。俺たちみたいなのが討伐隊より強いなんて、ありえないもんな。


「事実なんて関係ないっしょ。街の人間がそう決めれば、あたし一人じゃ何の弁解にもならないっての」

「そんなもんだよ」


 そんなものだ。

 思い出す。クラスメイトの工作が壊れたとき、犯人が誰かずっとわからなかった。誰かが、ただ普段からおどおどしている俺を犯人と決め付けた。最初は根拠が無くとも、一人ずつ同意を得られれば、それが真実になっていく。その後、復讐とかで俺の工作も壊されたんだよなぁ。


「街の野郎共が、街を守るためにあんたを討伐するってさ、本当にギンイロガブリが仲間なら勝てるわけ無いってのに、あんたを殺せばどうにかなると思ってる」

「……あー」


 ちょっと頭が痛くなる。逃げなきゃ行けないのか。


「早いところ街から離れな、ほら地図。大丈夫そうな街は印つけといたから」

「どうも」

「指名手配なんかはあたしが絶対に止めてやるから。とにかく今は逃げな」

「ども……」


 ちょっと、返事が上手くいかない。それは、俺はいまひとつの感情で震えていたからだ。

 今ここで、これを言うのは場違いだと思う。でも言いたい。


「なんというか、感無量だ」

「はぁ?」


 受付姉ちゃんが、穏やかな俺にちょっとドンビキしている。

 学校では、教師にまで本当のことを言えとか脅されていた俺としては、味方をしてくれる人間がいるだけで感動ものだ。

 しかも、ここまで外堀を埋めてくれるとは、中学だったら惚れていたかもしれん。


「普通怒り出すもんでしょ」

「すみません、俺たちと一緒に話なんかしてたら、あんただって疑われるかもしれないのに」

「餓鬼は黙って大人の脛かじれ、ほら、わかったでしょ」

「おーい!」


 俺と受付姉ちゃんが、同時にビクリと肩を揺らす。もしかして、もう襲撃が着たのか。

 だんだんとはっきりとするその見慣れた馬車に、ほっと息をなでおろした。


「……商人おっちゃん」

「なんだそれ、あんちゃん、俺の名前はダンテだぞ」


 格好いい名前だな。初耳だよ。

 商人おっちゃんは馬車を降りると、腰を低くしてひっそりと俺たちに話しかける。他に誰も聞いてないと思うけど。


「そんなことより、早速村で収集が始まってんだよ。ギンイロガブリが弱った今だってな」

「弱らせたの俺らだろ。辻褄がおかしくないか?」

「まだギンイロガブリが生きている。それで何とかできる方法が簡単に転がってたら、辻褄だって壊れるわよ」


 受付姉ちゃんの言い分は、わからなくもない。結局、人は利に叶うことよりも納得と安定が優先されるものなのだ。

 特に未練もないし、潮時ということだ。


「ま、俺たちはもう行くわ。ありがとな」

「待ちな、これ」


 なにやら、受付姉ちゃんが大きな鞄を取り出した。なんか重そう。


「うちのギルドに残った有り金よ」

「なんでまた」

「ギンイロガブリの討伐報酬。元々用意されていたし、あんたが持つのは道理が叶ってる」


 鞄が俺の目の前に差し出される。たぶん、この中には目移りするような大金があるのだろう。

 これからの旅で、先立つものは必要だ。ありがたい申し出だろう。


 だが俺は一度、すまなそうにフランを見る。

 フランは首を左右に振って、それだけ。何も言わなかった。ごめんな。


「断っとくわ」

「な、あんた、ほしくないのかよ」


 ほしい。でも、あえて断る。

 だってあの、俺を殺そうとする街の用意した金だ。なんとなくプライドが許せない。


「養われる気概はあっても、施しは屈辱だ」


 あの工作の時だってそうだ。俺が壊された工作を直すために、隣の席だからと言って、俺を犯人と決め付けた男から道具を借りたり、手伝いを頼んだりはしなかった。

 もちろん、クラスで俺の工作だけ完成する前に次の授業課題に変った。


「ひとりぼっちのモンスターも殺せない奴に、金を受け取る資格はねえよ」


 俺はプライドを選んだ。今も変らない。


「おい商人おっさん」

「な、だから俺はダンテだって」

「どうでもいい。あんた、金があるなら孤児を養う気概はあるか?」


 俺は受付姉ちゃんの手を握り、鞄を商人のおっちゃんに方向転換させる。

 こういうときくらいは、女の人の手を触ってもいいよな。


「安心しろよ、ギンイロガブリは、今後倒されない」

「……あんちゃん」

「そして、あいつら街の人間にも金が戻らない」

「アオ、台無し」

「あんちゃん……」


 おっさんは、苦笑いのままどういう顔をしていいのかわからなそうだ。やってる事は子供のためだからいいだろうに。

 次に、受付姉ちゃんに振り返って、これを押し付けることにした。


「どうせなら、受付姉ちゃんも手伝ってやってくれ」

「はぁ? なに言って」

「じゃあな!」


 もう面倒だから、このまま逃げてやる。

 俺はフランの手を引いて、颯爽と走り出した。あいかわらず、逃げ足はやけに速いのが俺である。

 受付姉ちゃん、少なくとも追ったり、追いついたりしないでほしい。格好つかなくなる。


「ごめんなフラン、大金逃しちまった」

「いいの?」


 手を引かれたフランの、ささやかな問い。

 たぶん、フランは大金を逃したことなんて屁でもないのだ。むしろ、俺が何か考えあぐねていることに対して、心配してくれる。


「いいの」


 もう言っちまったもんは仕方ない。街で弁解したところでなんになる。出会わなければ、なんのトラブルもない。


「旅ってのはな、重い荷物は捨てて、手ぶらで歩いた方が楽しい。ってどっかで聞いたことある」


 何だっけこの台詞。思い出せない。

 なんにしても、また山の中で走ることになるとは。

 どうしてか体が軽い。でも今の俺は手ぶらじゃない。右手から、フランの掌の熱が入ってくる。



「きゅ、休憩!」


 久しぶりに全速力で走った気がする。気持ちよくない。やはり俺とスポーツとは相容れないと思う。

 フランも、ちょっとだけ息を切らしている。俺よりは体力があるようだ。


「ここまで来れば、間諜も入ることが無かろう」


 そして締めに、息一つ切らしていないロボが、俺たちに向かって喋った。


「なんでついてきてるんだよ」

「む、付いてきてはいけなかったか」

「逃げるなら別々だろ。たぶん、もう会うことも無いんだし」


 しれっと後ろにいるから、ちょっと驚いたよ。


「まあいいや、ここから一番近い首都ってどこだ?」

「ちょっとまってて」


 フランが、もらった地図を広げる。

 首都に行け。あのガイアスの話に乗るのは癪だが、ヒントというヒントがそれしかないからな。


「アオ殿」

「なんだよ、まだなんか用か? 金なら……まあちょっとだけなら分けてやる」

「そうではない」


 ロボはおもむろに、地面に跪く。ガイアスにもやってたなそれ。


「この身を、あなたちの遍路に巾着させてはくれないだろうか」

「……は?」


 思わず聞き返す。

 えっと、要約するとどういうことだ。あれか。


「俺たちの旅に付いていきたいのか? なんでよ」

「アオ殿には恩がある。この身畜生に滑りとも冥府に落ちず、汚名を拭う機会まで得られたのはアオ殿の裁量あればこそ。それを返したいのだ。迷惑はかけない。足手まといと思えば、いつでも弾除けとなりましょう」


 恩って、殺しあった中にそんなものないだろ。


「そのワタシとは違うアオ殿の心。おそらく、彼女との決着にこの体では未完にたどり着いてしまう。今のワタシのままでは足りないのです。不躾ながら、その知恵を借りたい」

「つってもな」


 ロボは俺にばっかり話しているが、フランもいるのを忘れるなよ。ちゃんと俺は視線を送ってやる。

 フランは、俺と数秒目を合わせてから、ロボに向き直る。


「駄目」

「だよな、全面的に同意」

「なぜですか!」

「そりゃ、あれだろ、見た目凶暴そうな仲間を連れて行く利点を感じない。別に戦力だったら、俺とフランでも生き残る事はできる」

「わ、ワタシとの戦で手傷を負っていたではありませんか」


 痛いところをつくな。というかあんたがつけた傷だろうに。

 ロボは断られたのがショックだったのか、ちょっと耳をしょんぼりさせている。俺そういうのに弱いからやめろって。


「じゃあ、戦力意外に何か利点はあるのか?」

「ちゅ、忠誠を捧げる!」

「あんまりほしくないな」


 ここにきて、ロボがはじめておろおろし始めた。

 俺の心がちょっとだけぐらつく。気まずそうに頬をかきながら、考える。


 ロボがこれから、一人で旅を完遂できるのかといえば、難しいだろう。

 このナリだ。街にだって早々入れまい。かといって助けを借りれる人間が、俺たち以外に見つかるだろうか。


「なあ、どうす……フラン!」


 ふと、フランに目をやると、彼女の体が真っ青になっていた。


「な、なんだ! どうしたんだフラン!」

「……気持ち悪い」

「え、え!」


 突然のことに、俺の思考が追いつかない。

 なんだ、変なものを食ったのか。いやそれなら俺だってこうなる。怪我も負ってないし、もしかして、知らないところで毒のモンスターが――


「失礼」


 ロボが、弱ったフランに近寄る。

 流石のフランも、今の状態では逃げる気力も無いようだ。ロボは額の汗を拭い。フランの熱を測る。


「アオ殿」

「な、なんだ」

「ちょっと、席を外してもらえないか」

「なんでだよ」

「それは……」


 フランが口を押さえる。吐き気まで催しているようだ。

 ホント突然だぞ、何があったんだよ。


「もし、フラン殿のためを思うのなら、この場を見ることを躊躇ってほしい」

「……」


 ロボは、何か察しているようだ。俺には何もわからない。


「……わかったよ。もしフランに何かしたら、俺は許さないからな」

「この命を懸けて、危害は加えない」


 もう、ここは素直に従うしかなかった。

 かなり不安だが何とかしてくれるのなら、信じるしかない。俺は医者でもなんでもないのだから。

 何度も振り返りながら、俺は二人の見えない茂みにまで歩いていった。



「安静だ」


 ほんの数十分してからだろうか、ぐったりとしたフランを担いで、ロボがやってきた。

 どうやら、フランは疲労感から眠っているらしい。


「どうにかなったのか?」

「すこし厳しかったが、どうにかできた」


 フランを出来るだけ柔らかい土の上に寝かせる。見た目、さっきよりはたいぶ良くなっている。


「つっても、何が起きたんだよ」

「……話していいものか」


 ロボは何か悩んでいる。

 つか、何を悩むんだよ。かなり心配したんだぞ。


「おい、そこまでして俺に何も教えない気かよ、フランの一大事なんだぞ」

「確かに一大事だが……」


 ロボはチラチラとフランに視線を送る。寝ているから返事はない。


「なんだ、俺に言えないのか? なんかやばい変な病気でも起きたのか」

「そうではないが……仕方あるまい。語ろう」


 やっと話す気になったか。

 ロボは何故か胡坐を掻き、肩に力を入れて、大きく息を吸う。

 そして、一言だけ呟いた。


「…………………………初潮だ」

「はい?」

 

 えっと、それって。


「ああ!」

「もう言わぬ。彼女の名誉のため」

「すまんかった」


 なるほど、納得した。

 あれは俺じゃ対処できないわな。全くの専門外だ。


「彼女にはまだ知識が無かったらしい」

「そうだろうな」


 あの家にいたのは男の博士だし。

 なんだかんだで、このロボは雌、というより女だもんな。まさかこんなところで性別の壁を感じてしまうとは。


「ま、何にしても助かったよ」

「この程度で言われる筋合いはございません」

「面倒くせえ性格だな」


 感謝しているのに。

 ロボは自らの姿勢を正座に直して、三つ指でお辞儀をする。


「それよりも、その心を感じていただけたのなら、どうか、旅の同行を願わく思います」

「う~ん」

「女性の仲間は、必要でしょう」


 言い分はわかる。これからフランと旅する上で、勝手知ったる女性は必要だ。

 他の街で仲間を探すという考えもあるが、そう上手く見つかるわけもないだろう。この用途のため、しかも俺と旅をしてくれるような女性が異世界に何人いるかと思えば、たぶん指で数えられるくらいじゃなかろうか。


「でもな、フランがどういうか」


 フランだって、旅の同行には反対していた。理由はわからないけど、たぶんフランはコミュニティを広げることを嫌がってのことだろう。

 俺もわかる、人が増えるという事は、それだけ意見が分かれるということだ。障害の無い仲間は存在しない。


 ただ、この状況を見れば、たぶん理屈で納得するだろう。でも感情はどうだ。


「ロボ、フランを説得できるか?」

「……はい!」


 元気な返事だ。だがこれで終わりじゃない。


「じゃあ、条件付で旅の同行を許してもいい」

「その条件とは!」

「まず、俺たちの意見にできるだけ逆らわない。俺のやり方にできるだけ口出ししない。もし、ロボがそういう行動を取って、俺とフランのどちらかが許せなかった場合、その場で解散させてもらう」

「わかりました」


 本当にわかってるのか。従者より扱い悪いぞこれ。


「あなたの指示を尊重します。悲願のためならば、ワタシは忠犬にもなりましょう」

「そうか」


 ロボ本人が納得したのならそれでいいか。

 あとはフランの説得だが、たぶん通るんだろうな。フランは女性の常識的な知識を犬から得るわけだ。


 なんにせよ、旅の道連れが増えた。


 これからやっと、世界で一番美しいものを探す旅が始まる。波乱含みすぎて色々迷走していたが、こっからは国道だ。


 自分自身に気合を入れるロボを見て、すやすやと寝息を立てるフランを眺める。屑とサイコショッカーと犬の旅路は、どこにたどり着くのか。

 俺は空を見上げる。どこまでも広く、青い空だ。嵐の前の静けさというが、これから忙しくなりそうだ。


 現在の所持カード


 アオ レベル十一

 R 火 風 水 土

 AC ルツボ

 C チョトブ*13 ガブリ*4 ツバツケ


 フラン レベル二十九

 R 火 水 光

 AC ブットブ コウカサス

 C チョトブ*23 ムッキー*31 ガブリ*5 デブラッカ ツバツケ*2


 ロボ 暫定レベル四十二

 SR 地


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