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第百四十九話「はんだん だいどうげい」

 ラミィは椅子に座って机を見ていたが、意を決して顔を上げる。


「もし、もしこれからのことを考えて、アオくんはどうするの?」


 これからのこと。

 俺はこの台詞に、二つ返事が出来なかった。


 美しいものに関して、タスク一味に関して。

 冷静になって考えれば、俺はこれら全てに対し、必要に迫られることが無くなっていた。

 タスクが憎いというのはある。だが世界を救おうなんて大層なことをする気はないし、それが出来るのは俺たちじゃない。俺たち四人は勇者じゃないのだ。


 俺たちが、世界を救うために必要か否か。必要かもしれないが、絶対というわけではない。

 でも――


「俺は途中で投げ出す気はない。始まりなんてそんなに重要じゃない。やめたくなったらやめればいい」


 俺は、しっかりと考えてこの答えを出す。

 ラミィ、それに立ち止まったロボとフランに向けて、俺はしっかりと告げた。


「旅は、続ける。この異世界で一番美しいものを、探す」

「アオ殿、それがどういう意味わかっておりますか?」

「死ぬかもって話か? そんなの今更だ」


 俺は自分の、少しばかり冷えた身体を肌でかみ締める。

 この身体は、地球の人間全員の魂を見捨ててまで残したものだ。

 責任とか、どうこうじゃない。


「一回くらい、全力で生きてみたいと思ったんだ」


 こんなことに命を賭けてなんになるという考えもある。でも、これくらい命を賭けてやらなきゃ、今までの旅を否定することになる。

 フランと一緒に歩いて、ロボに会い、ラミィと手を繋いだ。他にも、色々なことがあった。

 この異世界で一番美しいものを探して、俺はその最期に何を見るのか。


「じゃあ、わたしはアオについていく」


 フランが、まるで今日の夕飯メニューを一緒にするくらいのノリで、俺についてきてくれる。

 俺と目が合うと、フランははにかむ笑顔で答えてくれる。が、すぐに自分で気づいたのか目を反らされる。


「いいのか?」

「う、うん」

「アオ殿、ワタシはいつまでも、あなたが生きる理由です」


 ロボが胸に手を当てて、俺を真っ直ぐと見据える。

 俺はその言葉が嬉しくて、ふわふわの毛並みを強引に撫でてやる。


「なんでいっつも、仰々しいんだ」

「性分でございます!」

「うんっ、みんな、アオくんのことが好きなんだね」


 ラミィはそんな俺たちのやり取りを見てから、大きく頷いた。


「お前はどうなんだよ」

「私っ? 私はアオくんの奴隷だよっ! 全力を賭けたのは、私が先輩なんだからっ!」


 ラミィは人差し指を立てて、俺にしたり顔を向けてくる。その指を口元に当てて、内緒話をするように顔を近づけてくる。


「でもね、私もうちょっとだけ、頑張りたいから。アオくん助けてねっ」

「お前ら遅ぇ!」


 スノウの怒鳴り声が響いた。口開くとおっきいなあの人。

 そのせいで、ラミィの言葉の真意を問うことを忘れて、知らない部屋へと足を踏み入れる。



「ここって」

「通信室っ!」


 ラミィの言葉どおりの場所が、そこにはあった。

 雪に囲まれた山小屋には不釣合いな、頑丈な壁に囲まれたそこには、マジェスでも見たことのあるあの大型モニターが設置されていた。トゥルル等を強化して発動し、テレビ電話を可能にするやつだ。


「二十年前、いろいろあってフランクじじいに付けさせたんだよ。一応、イノレードの裏本部みたいな場所だからね」

「パパが」


 フランが博士関連のものだと知ったとたんに、さわさわと手で触れ始める。

 気持ちはわかるが、俺はその首根っこを掴んで止めさせる。


「モニター触ったら汚れるぞ」

「ぶっちゃけ使ったことなんてほとんどねぇし、怪しいもんだったんだが」

「わたしらが整備してましたよ」


 おばあさんが自信満々に胸を張る。すげぇ、ここの人たちって高性能高齢者だよな。

 モニターはすでに点灯していて、どこか知らない部屋の壁を映している。


「さっきまで変な若造と話してたんだけどな、なんか一言二言でしばらく待てって」

「これ、どこに繋げたんだ?」

『ほぅ、我が足を運んだもいざ知らず、迎えるのは去り者と着たか』


 モニターに近づきすぎて姿が見えない。

 でもわかる。すぐにわかる。


「ベクター!」

『我が名はベクター! 陰惨非礼なる氷の女王よ! 我は現れたぞ!』


 ベクターは両手を広げて、モニター越しからも伝わる怒号を響かせる。

 陰惨非礼って、スノウはすごい言われようだな。


「あんたが王様かい? やたらと若いね」

『年齢からして婆と聞いていたが、いささか若気が過ぎるのでは――』

「黙ってろよカスが」


 スノウが青筋を立ててモニターに殴りかかっていた。

 ロボがいち早く察したため、壊れずに済んだが、冷気から画面にノイズが走った。

 そうだよな、俺もそう思ってたんだ。だって、見た目若くても実質四十越えた女性があんな半裸なのを常にしてるんだぜ。


 こういうことをずけずけと言っちゃうベクターもあれだな。


『いささか、そちらの王は心地が悪いようだな』

「誰のせいだよ」

『それでも氷の女王。相応に我の言葉に耳を傾ける。氷に包まれたその静かな灯火、やはり英雄たる本懐だ』


 ベクターが面白そうにスノウを見据える。ああ、挑発して試してたのか、嫌な奴だな。

 スノウは歯を食いしばって滅茶苦茶怒ってるけど、まだベクターと会話をする気があるらしい。力づくで両腕を組んで、口を開いた。


「単刀直入に言う。協力しろ」

『よかろう』

「決まりだな」

「え、あ」


 あっさりと、交渉が成立した。

 協力しろ? 一体こいつらは何の話をしているんだ。


「二人とも、話が見えないんだが」

「察しが悪いね」

『矮小なその頭で考えろ。簡単ではないか』

「あたしは、タスク一味の討伐に参加するんだよ」


 タスク一味の討伐。

 そりゃそうだ。今までの流れからいって、スノウがマジェスの国王に話すことなどそれくらいだろう。青のカードを守るためなら、それが最善だ。

 ただいきなりすぎて話が見えなかっただけで。


『過程とは常に行動を兼ねる。貴様はその両立に不測があるようだな。故に判断に遅れる』

「ベクターってほんと酷いこと言うな」


 とりあえず、打倒タスクへの戦力が増えた。

 俺が異世界で一番美しいものを手に入れるためには、タスクをどうにかするのは不可欠だ。そういう意味では朗報だろう。


『ふっ』


 俺がそんなことを考えていたら、ベクターに鼻で笑われた。

 ちょっとだけむかっとなる。


「なんだよ」

『やはり貴様には足らぬ一手がわからぬようだな。対人において初手とは全ての工程と否定』

「さっさと訳を言えよ」

『たとえ成り者の精霊が我が軍に加担したとしても、ベクターには敵わん』


 ベクターは腕を組んで堂々といった。

 俺たちは、勝てない。たとえ、精霊が仲間にいても。

 すとんと、心が落ち着く。冷淡だが、納得していた事実を告げられて肩の力が抜けた。


『わかるか?』

「……ああ、精霊は殺せない」

『そうだ。精霊は概念的存在。どのような手法で戦おうと殺すことは実質不可能。故に我々は冥の精霊の奪還、封印保持を目標に掲げた。それが、惨敗だ』


 牙抜き作戦の失敗は、例え生存していたとしても人類の敗北なのだ。

 タスクはいまや全人類を人質にしているも同然だ。いつ世界が滅んでもおかしくない。


「でもよ、俺たちには青のカードがある」

『それとて、隠すのが容易ではあるまい。冥の精霊は、封印そのものに意味があった。冥の精霊を留め続ける使命を持った原初精霊がいたというのがその要因だ。そして、奴等は我々のルールを破った』

「精霊殺しか」

『そうだ、精霊は殺せない。そのルールに乗っ取ったからこそ牙抜き作戦は成功の余地があった。だがいまや精霊は絶対ではない。方法はわからん、タスクは精霊を殺すことが出来る。我々もイノレードにて確認した』


 前までは、作戦が成功したあとで精霊に頼るつもりだった。力を示した上での現状維持を望んだ。

 でもタスク、実際にはアルトが精霊を殺せる。現状維持は不可能に近い。


『我々の勝率は低い。その中で度々戦乱が起きれば、疲弊し倒れるのは我ら。結局は奴の望む人間だけが生き残る世界へと変わる。いや、変えられるのだろう』


 タスクの都合のいい世界に、王手がかかっている。

 いくら戦力を増強しても、それは永遠じゃない。いつかは崩れる。たが、今のままでは先に崩れるのは俺たちのほうだ。


『貴様の脳にも理解が及んだようだな』

「ああ、タスクにはほとんど勝てない。でもさ」

『でも?』

「それでもやるのが人間なんだろ」


 俺はいつか聞いたベクターの言葉をそっくり返してやる。

 ベクターはいつも通りの邪悪な歯を見せて、笑う。


『当然だ』

「ベクターってさ、なんだかんだで無駄話好きだよな」

「で、あんたらはなにをするんだい?」


 もともとの会話相手であるスノウが、腰に手を当てて俺たちに問う。呆れながら笑うという、器用な表情をしていた。


『考える手間も無い。ただ例外を探せばいい』

「例外って、精霊を倒せる手段ってことか?」

『我々が知りえる精霊殺しは数えるほども無い。ひとつは有名な悔杭』

「かいこん?」


 俺の知らない単語だな。一応仲間に目配せしてみる。

 ラミィは目を瞑って何か思い出そうとしているが、ただ唸っているだけでわからない様子だ。

 ロボは堂々としたまま、知らないと力強い目で伝えてくれる。


「……ベリーが使ってた」


 フランは大きな目で下を見ながら顎に手をあて、心当たりのある出来事を口にする。

 俺もその言葉に、ピンと来る。


「ああ、クロウズでベリーが使ってた杭か」


 最初はジャンヌがオボエに使って、それを奪ったグリテがベリーに渡したやつだ。

 あれ、肝心なところでカエンに止められたんだよなぁ。


『そこの娘は賢いな。その通りだ。あれは牙の精霊が「精励を怨むもの」の遺体を収集し、一つの杭に凝縮した形だ。万にも勝る精霊への憤怒を、杭に刺さった精霊を幾重もの言葉で縛り付けると言われている』

「うわぁ」


 俺は思わず眉をひそめてしまう。

 タスクはそんなものまで集めてたのか。たぶん自分が殺した分とかもあるんだろうな。


『精霊は羨望の裏に嫉妬をも抱える。ただ人の力は弱く、なまくらと言う説もあった。おそらく、この千年でやっと物になったのだろう』


 精霊を倒すには、それこそ千年以上熟成された怨念が必要と言うことか。

 俺も地球の人間からしてみたら、そんなことされても仕方ないんだろうな。変なところで共通点が。


「ってまて、それならグリテかベリーが持ってるんじゃないのか?」

『ふん、聞くまでも無い。おそらくは現状で最も勝利に近いのがあの二人だ。今もマジェスで相応の礼儀を整えている』

「じゃあ――」

『だがそんなこと敵も承知だ。易々と胸をさらけはしない。むしろ、奴等はそれだけに気をつければいいのだから。安寧はするな』


 ベクターは俺の希望を見透かすように、その穴を指摘する。

 そうだよな、タスクがその辺を考えていないわけが無いのだ。真に恐ろしいのは、強いものより賢いもの。たぶんタスクは、その辺を自分にも戒めている。


「他は? 数えるほども無いにせよ、一つじゃないんだろ?」

『貴様はわからんのか?』

「アオくん、それこそあの魔法陣だよっ、冥の精霊を封印していたねっ」

「アオ殿、少し考えればわかりましょう」


 ロボに諭された。

 そうだよな、元々封印されてたんだから、それこそ封印の道具だよな。

 なんか俺、帰ってきてから頭悪くなったのかな。もう少し力を抜こう。


『我々が勝利をするためにはあと最低一つ。精霊を留める力が必要だ』

「そんなもんあるの?」


 スノウは抉るように質問をする。

 ベクターは、表情こそ崩さないが何も応えない。


 そうか、ここが今一番の悩みどころなのか。

 精霊をどうにかできるものなんて、それこそ伝説の武器くらいだ。伝説の武器はタスクの独占市場だし。


「精霊をどうにかする……」


 俺も考えてみるが、浮かぶわけが無い。この世界の知識が一番無いから代案が。

 いや、こういう時こそ異世界人だからこその発想があれば。考えろ。


「たしか、精霊は使命を無くすと弱るんだよな」

「ああ、有名な話ね。冥の精霊も、原初精霊による人の生きたいという意思を増幅させて封印の隙をついたんだし」

『その観点から言えば、あの牙を収めるには人が自らの力を謙虚に、そして奢る必要があるな。不可能だ、人は劣等感をなくすために生きていると説いても過言ではない』


 牙の精霊は無力な人間が力をほしがったんだっけ。無力な人間が力をほしがらないなんて、それこそ世界がじじばばだらけにでもならないと無理だろうなぁ。

 でも、まだ何かあるはずだ。俺の発想こそ世界をひっくり返す何かがあるはずだ。


「……ねぇアオくん」


 ふと、そんな時だ。

 ラミィが俺にこっそりと耳打ちをした。吐息が耳にかかってくすぐったい。


「これから私がすることを、助けてねっ」

「え、あ?」


 俺は言葉の真意がわからなくて、ラミィの顔を二度見する。

 ラミィは俺と目が合うと、一度だけ満面の笑顔で迎えてから、モニターへと向かう。

 思案に更けていたスノウも、思わずそのラミィに注目してしまう。

 ベクターまでもが言葉を止めて、ラミィのすることを待っていた。


『……ほぅ』

「ベクターさんっ、お願いがあります」

『言ってみろ』

「伝のサインレアを、貸してください。私が、前に出ます」


 ラミィの瞳は輝いていた。だが、最初に出会った頃のような、純粋な光じゃない。

 まるで自らを死地に赴くことも厭わないような、戦乙女のような、強い意思の宿った出で立ちだ。


 それはまるで、ラミィの持つ真の強さそのものを体現していた。

 始めて見るその美しさに、俺はいつぶりだろうか、見惚れてしまう。


「私が、クロウズでタスクに反旗を翻し、牙抜き作戦でクロウズを戦いぬいた私に、この世界の希望になっているかもしれない私がっ! 世界を説得しますっ!」


 ラミィの掛声は、全身に波紋を広げた。

 誰も応えない。しんと、この場所が静まり返った。


『……っく、ハハハハハハハハハ! 失敬ながら大爆笑だ!』


 ベクターが皮切りになって大口で笑い出した。

 スノウはラミィのことをじっと見たまま、瞬きを忘れている。


『貴様、いや英雄ラミィよ! その言葉の重み、わからぬのではなかろうな!』

「わかっています」

『よもや! 我が後手を強いられる羽目になるとは! 貴様等は存外、国一つなど矮小なほどに、さぞや価値があるのだろうな!』


 ベクターはラミィを指差しながら、爆笑することをやめない。


『まさか、世界の意思を一つにし、精霊どもを手駒にしようとする女が、巫女の目の前に再来するとはな! いやはや、世界は皮肉に満ちている!』


 精霊を手駒に。

 精霊は人の意思によって顕現し、それを遂行するために産まれる。

 ならば、人の意思をほぼ統一することが出来れば、精霊は使命以前に動かざる得なくなる。


 ラミィはタスクどころか、精霊全てに宣戦布告をするような言葉を放ったのだ。


 今、世界はタスクによって危機に瀕している。

 その危機すら利用して、世界を統一する。


「そっか……封印の陣は、原初精霊が作った」


 フランも合点がいったようだ。


「ならば、タスク専用の封印も、施せると言うことですか」


 ロボもこの計画の壮大さに、あいた口が塞がらない。


『よかろう! いや協力させてもらう! その大道芸、しくじるなよ』

「アオくんっ」


 ベクターの許可をもらったのに、ラミィはどうしてか最初に俺を見た。

 それは俺がラミィのご主人だからだろうか、たぶん違う。


「いいぜ、俺も精霊はいけ好かなかったんだ。利用してやろう」


 色々な含みを混ぜて、俺は笑顔でぐっと親指を立てる。

 精霊傀儡化作戦、開始だ。


 現在の所持カード


 アオ レベル四十

SR 証

 R 火 風 水 土


 フラン レベル三十一

 R 火 水 光

 AC ブットブ ミズモグ モスキィー シャクトラ グツグッツ コウカサス ポッキリ

 C ムッキー*6 ボボン*4 ポチャン*9 ガブリ*4 ガチャル*1  ツバツケ*11 パカラ*2 ヒヤリ*3


 ロボ レベル四十三

 SR 地

C ツバツケ*12


 ラミィ レベル三十五

 R 風

AC シャクトラ グルングル

 C ビュン*4 カチコ*2 キラン*9 ポチャン*2 サッパリ*7 ツバツケ*6 マネスル*6 


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