第十四話「ぎるど がぶり」
あれからしばらく、商人が乗ってきたという馬車に乗せてもらった。荷馬車は大きめではあったが、子供全員を乗せると、かなり窮屈だった。
かくいう俺とフランと、商人おっさんは、御者代で並んでいる。
「すまねぇなアオのあんちゃん。子供たちが怖がっちまって、あんたら二人がいると泣き出しちまう」
「俺は別にいいよ」
「わたしも、アオと一緒でいい」
商人おっさんは、回復魔法がかかっている凍傷の両手をさすりながら、苦笑いする。
子供たちは仕方あるまい。助けたとはいえ、人殺しなんだ。怖かろう。
ただ、御者台は狭い。普通に考えて、馬を引く奴は一人いればいいのだろう。おっさんは右端によってくれているが、なんとも手綱が扱いづらそうだ。
俺とフランもぎゅうぎゅう詰めで左によっている。真ん中は俺。
ああ、いつだって俺の席は真ん中だった。友達いないんだから窓際でたそがれさせてくれよ。中央で寝てたら地図記号で言う灯台になっちゃうだろ。
「あんちゃんたち、なんであの村にいたんだ?」
「気付いたらだよ、だからこの辺の事はなんも知らない。あんま聞かないでくれ」
「えっと……ならきかねぇ。じゃあ、ギンイロガブリのことも知らないのか?」
会話を全然しない俺たちに対して、商人さんが何かと気さくに話しかけてくれる。
ギンイロガブリ? 知らない言葉が出てきたな。
「ガブリって、コモンカードのガブリのことじゃない?」
俺に向かって、フランが囁く。おっさんじゃなくて俺に、相変わらず人見知りが激しいようだ。
商人おっさんは耳聡くそれを受け取って、気さくに笑う。
「お、じょうちゃんよく知ってるな。そう、あのガブリだ。オオカミに似たモンスターだが、ここ最近になって新種が現れたんだよ」
「新種?」
「ああ、この辺りに現れた。誰も倒していないから正式名称はわからねぇ。だから色で、ギンイロガブリって呼んでる」
商人おっさんは一度、後ろの子供たちを見て、ちょっと音量を下げて言う。
「ギンイロガブリはな、この辺りじゃ異常な強さなんだ。しかも活動範囲に制限が無くて、見境もなしに人を襲いやがる。あの村だって、ギンイロガブリ一匹に村の人間をありったけ殺されたんだよ」
「末恐ろしいモンスターがいたもんだな」
一匹で村全滅とか、絶対に会いたくない。
「三日くらい前に討伐隊まで派遣されたが、部隊は壊滅。烏合の衆で金目的とはいえ、かなりの人数を相手にして無傷だったらしいぜ」
「それがこの一帯にいるって、おっさんあぶねえだろ」
「つっても商売やらないわけにはいかないだろ、こういうときだからこそ、村に物資を回さなきゃならん。まあ敵は一匹だし、たとえばな、あいつら盗賊だって、死ぬ覚悟でこのあたりをうろついているわけじゃないだろ」
確認された固体は一匹だけなのか、遭遇したらよっぽど運が悪いって事か。
「それに、あいつらみたいなのがいたら、逃げているわけにも行かないだろ」
商人おっさんはそういいながら、疲れて寝ている子供たちを見ている。
俺にはとても出来ないことだな。たぶん、あの子供たちもいい大人たちが囮となり、どこかに身を潜めていたのだろう。
「じゃあ、あの餓鬼共はおっさんがなんとかしろよ」
「おうともよ!」
「あと、俺を襲ったことを謝罪しろ」
「そ、それはすまなかったって何度も言ってるじゃねぇか」
「命懸かってたからな、この馬車で村まで送ることと、宿代一泊分は払ってチャラだ」
「お、おうとも……よ」
商人おっさんが苦い顔をする。返り討ちにあって死ぬよりかはマシだろうに。
後ろに手を回して、荷馬車に詰んであったリンゴを食べる。毒見は先ほどおっさんにさせたので、たぶん大丈夫。あとタダだ。
「あんちゃんたくましいよなぁ」
「ずうずうしいって言われるけどな、これくらいなきゃやっていけん」
ああ、空腹を解消し、フランも何とかなった。やっと落ち着いた気分だ。
そう思うと、とたんに眠気がやってくる。徹夜なんて本当にするもんじゃない。
「……眠いの?」
フランが、俺の顔をじっと見て、というよりもずっと見ていたようだ。まぶたの変化に気付いたよう。
「ああ、寝る。飯食って文字見て寝るのが一番健康にいいんだよ」
「そう」
座ったまま寝るのはちょっと億劫だが、この際文句は言うまい。
「じゃ、フラン、倒れそうになったら何とかしてくれ、あとなんかあったら絶対起こせな……」
「うん」
ああ、背もたれも無いからどこにも寄りかかれない。やっぱ、真ん中の席は最悪の寝心地だ。
それでも、ちゃんと体がふらついて、眠りにつくあたり、やっぱり頼もしいものである。
*
「起きた?」
「……おは」
馬車の揺られる音がケツにひびく。寝ていた体にはなんとも不快な痛みだった。
俺は目を開けて、最初にフランの顔が目の前にあった。
「……知っている顔だ」
「なにいってるの」
俺は、どうにか眠れたようだ。あの状況で頑張ったよ本当に。頭を上げようとすると、ふわりとした感触が後頭部を支えていたことに気付く。
これは、フランの膝だ。膝膝膝だ。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
そうだよ、寄りかかる場所がないのなら、おっさんかフランに寄りかかるしかないじゃないか。
たぶん、本能からしておっさんの元には倒れない。でも、普通ならフランの方にも倒れるはずがないのだが。
だって、弾かれたらショックだよ。小学のとき、体育祭の練習で、熱中症で倒れたときに皆が俺を避けたことを思い出す。
「ごめん、なんか寄りかかったみたいだ」
「ううん、最初は前に倒れそうになって、馬車から落ちかけた」
ああ、やはり俺の本能は正常だ。
「仕方ないから、支えた」
「そっか」
「おお、あんちゃんおきたか」
あれ、誰だ? ああ両腕アイスおじさんか。凍らせてすまなかったよ。
商人おっさんは馬車を止めて、正面を指差す。
「ついたぞ、この辺りじゃ一番大きい街、ハジルドだ」
つられて前を見ると、まず城壁が見えた。たしか博士に聞いたことある。コモンカードのドッカベを何度も使って作るんだっけか。
門にいる駐屯兵に商人おっさんが何か話している。おそらく街に入るための税か何かだろう。
あ、おっさんが戻ってきた。
「おいあんちゃん、俺はこれから教会で餓鬼共の相談をするが、あんちゃんらはどうする?」
「どうするって言われてもな」
教会はなんだかとってもつまらなそう。つか宣教師はどの世界にもいるんだな。
とはいえ、何をすればいいのだ。宿屋で休むにも寝たばかりだし。
「一応、宿への地図は作っておくが、一晩だけだぞ」
「ああ、わかってるよ」
そういえば、俺たちは金が無い。
あるのはカードケースと、薄汚れた一張羅だけだ。かなり汚いし。
「なあフラン。旅に出るとしたら、どうやって金を稼ぐんだ? やっぱ溜めとかないといけないのか」
「冒険者のギルドだと思う。カードをそこで売るの」
「そんなものあるのかよ」
こっちの世界は何かと良さそうだな、冒険者で食っていけるなんて、都合が悪くなったら街から出て行っても職変えなくていいのか。
地球は引っ越すのにも金や手続きが面倒だよな。
「じゃあ、一度宿に行って体洗う。次はギルドだな」
「わたしも、一緒に行く」
「そうか、じゃあここでお別れだな、今日は教会にいるから、なんかあったら言ってくれな」
おっさんはそういうと、さっさと街の中へ消えてしまう。
俺はちょっとだけそれを見送ると、意を決して街を見る。外怖い。
「よし、行くかフラン」
「うん」
はぐれないように手を繋ぎたい。でも、俺手汗すごいし、言っても弾かれるかもなぁ。
そんな思いで、フランを見つめる。フランはフランで、周りをキョロキョロとしては、何かに見つかって俺の後ろに隠れた。
怖がると思ったら意外と、興味深そうに、街への好奇心を顔に出している。
「一緒に、外出できた」
フランの、キラキラした顔を見たら、手を繋いでもいいと思った。
「……何するの」
「す、すいません」
弾かれた。
はぐれないようにと説得して、子ども扱いじゃないと高説して、やっと手がつなげました。
俺が風邪ひいたときはあっちから繋いでくれたのに、気難しい。
*
「冒険者ギルド受付よ、ここ」
体を洗って、俺とフランがギルドに行ってみた。地球で言うならコンビニくらいの大きさの建物に、情報板と指名手配の紙と、椅子が数組置かれている。
開口一番、カウンターにいた受付のお姉さんに、場所間違えてませんか? って顔される。
「知ってます」
「あっ、そうなの」
わびれもせずに、受付で頬杖をつく。ぶっきらぼうな口調だ。
マナー悪いな。ちょっと顔が整っているけど、やる気の無い目がなんとも。
「あんたたち、ここ初めてでしょ?」
「そうですけど」
「やっぱりね」
受付姉ちゃんが、なんかタバコみたいなのをくわえた。
俺の背中にいるフランも、この態度には少しむっとしてる。わかるぞ。
「ギルドなんていってるけど、大体がモンスター退治の荒くればっかりなの、舐められたら終りよ、あんたたち終わり」
「あんたほんと口悪いな」
「国家お隅つきの公務だし、愛想なんて要らないのよ、むしろ冒険者に甘く見られないような態度が一番なの」
「舐められたら終わりなのはわかる。クラスで地味だと、偉そうなやつに平然とパシられるからな」
「なにそれ、とりあえずさ、あんたたちなにしに来たわけ? カード売る?」
「それもあるが、ギルドの登録だ。俺とフランの両方」
もうこっちも敬語必要ない。そういう意味では気楽っちゃ気楽だ。
受付タバコ姉ちゃんは、黙ってカウンターの奥から首飾りを取り出した。
「国が推奨しているから、登録に金は要らないよ。ただ紛失したら再登録ね。これが冒険者ギルドに所属した証、規定なんかはあっちに紙が置いてあるから勝手に取って。カードケースは有料だけど……もうもってるわね」
俺は首飾りを受け取る。肌に馴染む鎖と、先端にガラス球が一つついている。軽く、つけていても違和感どころか、何もつけていないのと一緒なくらいだ。
一度だけ、ガラス球がほんのり光る。俺の魔力と同調したような気配が伝わった。
「じゃ次、名前」
「こっちの女の子がフランで、俺はアオだ」
「……アオ? ああいや違うね」
「どうかしたのか?」
「ここ最近、首都マジェスで暴れまわっている指名手配犯の名前に、アオってのがいるのよ、とてつもない外道で有名なんよ。ま、あんたは違うっぽいわね、弱そう」
うわぁ、同じ名前の人間って、異世界にいちゃいけないだろ。
同じ名前、中学のときを思い出す。藤木あおなんて珍しい名前なのに、苗字まで同じ奴がクラスメイトにいた。しかも勉強できて優秀なため、よく女子に名前を呼ばれるのだ。
俺は本当に良く間違えた。そのときの気まずそうな顔。しまいには俺は駄目な方のあおなんていわれたこともあった。
今回の駄目な方はそっちだが、それはそれで迷惑だな。
俺がそんなことを考えている間、受付姉ちゃんはテキパキと登録を済ませる。
「はい完了。基本的にやる事はカード集めてギルドで売るだけよ。たまにモンスター情報入ってきたり、依頼が着たりね。あとカードケース見せて、レベル認定するから」
「レベル認定?」
「カードデッキの質で、あんたらがどれだけの実力かみんのよ。死んだりしないように適性レベルの依頼をおしえたり、無理な行為を便宜上止めるためにね。レベルが高くなれば国からの支援も受けられる」
「へぇ、そんなんあるのか」
俺は素直にカードケースを渡そうとして、手で制される。
「あ、いいからそういうの、あたしらはカードケース触るだけ、昔カードネコババしたギルド員がいてね、それからこの決まりになったの」
「なんとも世知辛い」
「セイブーン」
受付姉ちゃんがフランのケースに触れ、カードを持って唱える。消えないという事はセイブーンはアンコモンか。
目を瞑り、受付姉ちゃんが何かぶつぶつと呟く。
「……へぇ、コウカサスか、珍しいの持ってるわね。火と光と水って、レアカード無駄に登録してないあなた。どうでもいいけど」
一通り調べ終わったのか、目を開いてフランの付けた首飾りに触れる。
「チョトブが結構多いけど、とりあえずコウカサスを持ってるって事は最低限の能力はありそうね、敵を捉える能力はすごそう。レベルは二十一に登録しておくわ」
地球でいうアラビア数字のようなものが、首飾りに映った。
「カードはここ以外で売ったりしてもいいけど、一度ギルドにレべリングしてもらってからにしなさい。一度登録しておけば記録に残るから。次はあんた」
俺のカードケースにも触れる。
「汚いカードケースね」
「むっ」
フランがちょっと反応した。怒ってる。
「……なにこれ、なんでレアカード四つも名前書いてあんのよ」
「悪いのか?」
「たまにいるのよね、ボンボンが使えもしないのに名前登録すること。あんた金無いのによくやるわね、ハッタリにもならないわよこんなの」
ハッタリじゃないんだが。
やっぱ、レアカードが何枚も使えるのは珍しいのか。
「それになに、ルツボ? 見たこと無いカードね」
「え、なにそれは」
俺も初耳のカードだぞ。
気になって、カードケースから取り出してみると、本当に出てきた。
いつ俺のケースに入ったんだよこのカード。気味悪いぞ。
「残念だけど、ルツボなんてカード聞いたこと無いわ。あたし個人じゃ判定できないから、それは三大国家それぞれにある本部でお願い」
「あ、ああ」
「ま、新種のカードだったら高値で売れるかもよ。少なくても七十万以上はするわね。レベルは六って所ね、あんたもチョトブばっか」
「え、なんでそんなに低いんだよ」
「チョトブしか判定できるカードが無いからよ、ツバツケは誰だって持ってるし。レアカードの枚数はレベルに関係ないのよ、ハッタリで持ち歩く奴が前例でいたからね」
受付姉ちゃんは適当に俺のレベルアップを済ませて、タバコをふかす。
納得がいかない。確かに俺はカードをほとんど使いこなせないから、ろくなデッキにならないのはわかってるけど。
「じゃ、次はカード売りね、チョトブは三千、ブットブは五十八万、コウカサスなら六十五万だけど、どうする」
「ブットブが高いな、いやコウカサスが安いのか」
「ブットブが高いのよ、チョトブとこれは汎用性が高いからね」
さて、どうするか。
これからの生活費を考えれば、チョトブはいくらか売らねばならないだろう。アンコモンを売ればかなりの金になるが、売るべきかどうか。
横目で、フランを見てみる。
「……アオが決めていい」
「さいですか」
まああれだ、そこまで切羽詰ってないし、アンコモンはとっておくか。つかチョトブが高くて助かった。
「じゃあ、俺のチョトブ三十枚だけ売る」
「はい、じゃあ九万ね、用意するからちょっと待ち」
受付姉ちゃんがカウンターの置くに引っ込む。
俺も暇になったので、ギルドの中を適当に見回ることにした。
ギルドという割には、誰か利用している形跡が見えない。というよりも、俺たちが入った後に来た人間が皆無だ。
「なあ受付の人、他に冒険者っていないのか?」
「全員総出でギンイロガブリにやられたんだよ。生き残った連中もビビッてここから離れちまった。楽でいいけどね」
それって結構大変な騒ぎなのではないのだろうか。まあ関係ないけど。
壁に立て掛けてあった世界地図を眺める。ドーナツ形の大陸の、右下に赤点がついている。おそらくここが現在位置だ。フランの家はどこなのだろう。地図はあの家にもあったが、印なんてついてなかったし、聞きもしなかった。
「フラン、あの家がどこかって解るか?」
「……」
フランは無言で首を振る。
戻ったところで何も残っちゃいないだろうが、ちょっと残念でもあった。
そういえば、フランはこれからどうするのだろう。
少なくとも俺は、漠然とした目的がある。フランにはそれがないし、帰る家も無い。
「なあフラ――」
「嬢ちゃんいるか!」
そのときだ、突然ギルドのドアが開かれて、知らないおっさんが入ってきた。
おっさん多いよな、なんか出会う男みんなおっさんばっかりだ。
受付嬢ちゃんが面倒くさそうに作業を中断する。
「あぁ?」
「でたんだよ、ギンイロガブリが!」
「そりゃ、この辺にいるから出るだろうさ、わかってんの?」
「違う! 街に現れたんだよ! 憲兵がやられた、門が破られたんだ!」
受付嬢ちゃんの目が、途端に険しくなった。
「……状況は?」
「今町で戦えそうなやつらが総出で足止めしてる。街から避難させるためにギンイロガブリを門から引き離そうとして、逆に内部に入れちまった」
「最悪じゃない……」
「冒険者はこの街に残っていないのか、こっちはもう数人死んでいるんだ」
おっさんは店内を見回して、俺を見てガッカリして、他に男が誰もいないことに落胆する。
「ったく、街の男は使えないなんてもんじゃないわね」
「俺たちには無理だ! ギルドがもっとしっかりしてくれれば」
「馬鹿いわないでよ、あれだけ戦力揃えてやんのにどれだけかかったと思ってるの」
受付嬢ちゃんがドスの聞いた声をかます。喧嘩してていいのかこいつら。
「と、とにかく! 残っている冒険者は収集してくれ!」
おっさんはたじろんで、逃げるようにギルドから出て行った。
残ったのは、俺とフランと受付お姉さん。
受付がなんかこっち見てるよ。
「そんな冒険者いないって知ってるくせに、よく言うわよ……ねぇ」
「やらない」
「わかってるわよ、どう見ても無理そうだし、でも運が悪かったわね」
受付姉ちゃんはカウンターの中を更にあさって、ハンマーとか取り出した。
「門の入口内部に張り付かれてるって事は、逃げるのが難しいってことよ」
「それでも隙を見れば逃げられるかも」
「線が薄いけどできなくもないわね、そしたら街は全滅よ」
見捨てる気? 見たいな顔で首をかしげる。いや、俺を見捨てないでくれよ。
「関係ないだろ。だから、俺は逃げ――」
「でも、運が悪かったわね」
何度言っているんだこの受付は。
そう思った瞬間に、ギルドの壁が爆発した。
「なぁ、煙! ごほっ」
粉塵まみれになって、視界が遮られる。
「あのおっさんが来たのはね、ギルドの冒険者たちに無理矢理戦わせるために、こっちにおびき寄せたってこと。店内を見たのは戦力の確認ね。あとすぐ逃げたのは、巻き添えを避けるため。知ってる? ギルドは門の入口近くに立てられるの」
「けほっ、アオ」
フランが、壊れた壁を指差す。
その先には、銀色に光る鬣を風に震わせて、人間大の狼が唸っていた。