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第百話「びーむ こうふく」

「……あら、あなたたちここにいたの」


 しばらくして、リアスが研究室に現れた。


「あっ、リアスさんっ!」

「どこいってたんだ?」

「あなたには関係ないと思います」


 リアスの突き放すような言葉が俺に刺さる。いや、関係ないけどそういう言い方よくない。

 よく見るとリアスは、何か大きな布でくるんだブツを抱え込んでいた。なんだあれ。


 リアスは俺の疑問も振り切って、フランのもとに歩き出した。


「……ふ、ふ」

「ん~ん~♪」


 たぶん緊張しているのだろう。フランにたいして話しかけようとしても、口がどもっている。

 当のフランは鼻歌をしながら、破片に書く魔法陣を考えている。あの状態のフランでは、小さな声は届かない。


「ふ…………」


 リアスは何度も言いかけて、やめた。断念したのだろう。


「おいフラン」

「なに?」

「びゃあっ!」


 俺はリアスの諦めに邪魔をした。

 フランは俺の声に作業をやめて、リアスの姿に気づいた。

 にしても親子らしいな、変な叫び声まで似ている。


「お母さん?」

「こ、こほん」


 リアスは内心の動揺を隠そうと、咳払いをする。


「ふふふ、フラン、これを」


 リアスはそう言って、持ってきた謎のブツをフランに渡した。

 フランは怪訝な表情をしながらも、それを受け取る。


「なにこれ?」

「開けてみなさい」

「ん」


 フランはもらったブツを躊躇いもなく開封する。


「これって」

「あなたに用意をせがまれた何枚かのコモンカードと……ランチャーよ」


 でてきたのはランチャー、つまりは大砲だった。

 リアスは、フランの壊れた大砲の変わりに、新しい武器を持ってきてくれたのだ。


「わたし、もう調整する必要ないわよ」


 フランが、人のご好意を不意にするような台詞を吐いた。まあそうだけどさ。

 あの淵の精霊と戦って以来、フランは大砲なしでも普通に魔法が放てるようになっていた。元々精神のコントロールを陽のカードに任せていたことの副作用だったのだ。


「そのランチャーは、あなたの魔力を調整するものじゃないわ。むしろ無駄に開いた魔法管を循環させるために、回路暴走させてるの」

「駄目じゃん」


 それって、今までの大砲の役割じゃないだろ。


「ふっ」


 あ、今リアスが鼻で笑った。俺に向かって馬鹿にするように。


「フランの魔法が安定しなかったのは、その大きすぎる魔法管のせいで、魔法が真っ直ぐに循環しなかったからなのよ。

 そうね、たとえるなら、縦にした試験管に葉っぱを落とすとするわ、細ければ細いほど真っ直ぐ落ちるでしょ。横に広すぎると、その直径をフラフラして、真っ直ぐ落ちないのよ」

「銃のバレルみたいなもんか」

「銃? なにそれアオくん」


 だからフランの武器は大砲なのか。フラン自身が銃弾で、大砲はそれを真っ直ぐに飛ばすバレルになるわけだ。


「そうよ、銃のバレル。マジェスの技術なのによく知ってるわね。本来この魔法バレルは人の精神力という形で人の体に眠るわ。フランは元より銃弾が大きすぎるから、普通のばれるじゃどうしても制御しきれなかったの」

「それだけ聞くと馬鹿みたいな話だな。銃弾ばっかり考えて、砲台がないなんて」

「実験とはいつも実行して初めて欠陥が見つかるものよ。博士はそれを後付で補助するために、陽のカードと大砲を作ったのでしょうね」


 リアスはフランを優しい眼差しで見つめる。たぶん、博士に対してセンチな感情になったのだろう。

 フランはそんな愛情に気づくことなく、言葉のままに受け取る。


「じゃあ、今のわたしは」

「ほぼ完全に、制御できているわ」

「そんな技術で何とかなるもんなのか?」

「左利きと一緒よ、そういう風に産まれた人は、それに見合った成長をして、体が自然と対応する。目の見えない人が、聴力に特化するみたいにね。今が丁度、その対応時期だったのよ」


 対応時期か。そういえばフランはまだ第二次成長期だもんな。

 いきなり精神が落ち着いたのも、博士の死に対して向き合うようになったのもそのせいなのかな。

 フランは、今一度手に持ったランチャーを見つめてから、顔を上げる。


「お母さん」

「なに、フラン」

「この魔法陣、あなたが作ったの?」

「ええそうよ。安心して、フランに対応するよう作ってあるから、ああでもこれはわたし独自じゃなくて博士との共同開発、もとい発想理論を博士に教わったからで、けっしてわたし一人で作ったものではないのよね。だからそんなに気にしないでこれも研究の結果みたいなものだから」


 リアスが、まくし立てるように説明する。この人、案外フランよりも逆境に弱いかもしれない。

 かいつまんで解説すると、たぶんこのランチャーに付けられた魔法陣は、フランのためにリアスが頑張って作ったものということだ。

 恥じらいもあってか、素直に説明してないけれど。


 フランは、そんなリアスの意図の裏も表も理解して、笑いかける。


「大切にする」


 フランらしい、素っ気無い感謝だ。たぶんこういう台詞の時が、フランは一番感謝している。

 リアスも、その答えに満足したようだ。顔を真っ赤にして、そっぽ向いた。


 ちょっとした、橙色の家族空間が辺りを占めた。


「じゃあ、処女発射しようぜ」

「アオくんなにそれっ……」

「どういえばいいんだよ」


 こういうときは気分を変えて明るいノリの方がいいだろ。しんみりばっかしてても、中途半端に距離を置くもんだ。

 フランとリアスには、もうちょっと遠慮を取り払う必要があるわけだ。


「でもアオ、なに発射すればいいの?」

「そうだな、変に有害なのだとこの研究所も危ないし」


 フランが気を取り直して聞いてくれるけど、その辺考えてなかった。

 あんまり高いのとか使いたくないし、なにがいいだろ。


「……あれだ、ムッキーとかどうだ?」

「わかった」


 本当に適当に選んだ。たぶんムッキーを選んだのは、昨夜の記憶で久しぶりに見たからだろう。

 フランはランチャーを構える。


 にしてもこのランチャー、前の大砲に比べてすごいスマートだ。なんといえばいいか、ガンダムで言うなら、ダブルオーライザーからクアンタに変わったような、洗練されてさらに強くなった感じがする。


「じー」


 フランはシリンダーをじっと見つめ、目を丸くする。俺の好きな表情だ。


「うん、ムッキー!」


 頷いて、シリンダーにカードをセット。フランは魔法を唱えた。

 目標は俺、ムッキーの魔力が俺の体を包み込み。筋力を上げていく。


 今までムッキーは筋力強化、見た目が変化しないのは、体にとって最適の強化をした結果らしい。無駄に筋肉付くと遅くなるって言う欠点が出ないようになっているわけだ。


「おお、おお!」


 だが今回、ムッキーは過剰に発動する。俺の全身を余すことなく鍛え上げ、限界を超えた強化が筋肉を膨張させる。


「ふぉおおおお!」


 バリバリと、パンツまで破けるほどの筋力強化を施して、魔法は終わった。

 誰も、コメントをくれなかった。


「まだ調整のこつをつかむ必要があるわね」

「でもすごいよフランちゃんっ! これでさらに戦力アップだねっ!」


 フランだけはじっと、俺の全裸を見つめ続けてくれた。

 ありがとう。


***


 わたしは最初、この街にパパの面影はないと思っていた。

 元々パパはこの国から追放された身だ、わたしにとってはいい印象のない国でもあった。


「……母さんかぁ」


 でも、この国にはわたしの遺伝子提供者がいた。パパのことを尊敬してくれる人がいた。

 最初に見たときはちょっとわたしにそっくりすぎて、気味が悪いとも思ってしまった。でも実際は、わたしが母さんに似ているのだ。


「ねぇアオ」

「なんだ」


 服をせっせと着ていたアオに、話しかける。


「あの母さんのこと、どう思う?」

「どう思うって、変な人だよ」

「顔は?」

「フランにそっくり……そうじゃねぇか、大人だよな。フランに似てるけどやっぱ違う。なんかあっちの方がキツそうだな。嫌いじゃないが」


 アオは案外、キツイ方がすきなのだろうか。

 好みのことばかり気にしてしまって、わたしは悟られないようそっぽを向く。


 わたしはアオのことが好きだと、あの洞窟で気づいてしまった。

 でも、これからどう接していいのか、わたしにはわからなかった。


 好きとはいったい何なのか。

 わたしはパパのことが好きだ。ラミィもロボももちろん好き。でもアオへの好意は、どこか利己的で、ままならないものがある。

 嫌われたくないと距離を置く、そんな怯えた感情ばかりが目に付く。


「ふ、フランさん?」


 アオが心配そうにこちらの顔を覗こうとする。

 もちろん逃げた。

 悪いことだとはわかっていても、こう動いてしまう。


 ままならない。

 今日に限らず、わたしは理屈とは違う行動ばかり取っている気がする。

 もしかしたら、これこそ好きという感情なのかもしれない。理屈じゃ制御できない感情こそ、アオに対する好きなのだ。


 なら、今のままでいいのかもしれない。

 悩んで、感情のままに行動して、この好きと一緒にいよう。わからなくてもいいのだ、もうわたしは、物事のすべてが理屈で解決できるなんて思っていない。


「アオ」

「おう! なんだ!」


 だから今は感情のままに、ただアオの傍にいて、傍で逃げていようと思う。


***


 サイレンが鳴る。

 今まさにマジェスにあった七機の大型飛行戦艦が、イノレードに向かって飛び立つのだ。

 出陣である。


『我は、ここに集まってくれた全ての人間に感謝している』


 その啖呵を切るためか、マジェスの国王であるベクター自らが、飛行戦艦全機にむけて、トゥルルでの通信が行われた。


『だが最初に言っておく。我には、この世界を愛する心はない。

 相手が先のイノレードを崩壊させた蛮族であり、かの魔王を蘇らせ、世界を屠る権化であることは確かだ。だが我は、世界への愛故にこの戦いに望むのではないことを、宣言する。

 なら何故この場にいるのか、国王となってまで、この世界を愛するもののために立ち上がるような組織を指揮しているのか。

 それは、それが我が行く道に、それがあったからに他ならない。


 少し昔の話をさせてもらう。

 我は戦争屋の母から産まれたが、産みの母は元々我を育てる気などなかった。ただ戦闘技術の才能だけを見込まれ、マジェスにいた一つの家族に引き取られた。

 このマジェスで物心付いたとき、最初に義務教育を強いられた。当たり前だな、この国に生まれるからには、力を持つことを責務にされ、それを得られないものから落ちていく。

 我は最初の適性試験で、碌な成績を得られなかった。当たり前だ、戦人の子は獅子じゃない。

 育ての両親にそれを報告したとき、彼等は「かまわない」と、一言だけ。

 自由にしていいといわれたが、生まれる前から決められたその戦闘への鍛錬をやめる事はしなかった。

 才能は開花することなく、中途半端なまま戦線に赴き、死にかけたことも多い。

 師匠を得、新たな発想を得るまで、結局我は何も成せなかった。

 なにがいいたいのか、わかるか?


 努力は実る? 元から才能はあった? くだらん。


 我が実った事実など、最後の一行にすぎんということだ。たった一つの稀有な幸運が、人をここまでのし上がらせる。

 貴様等にもあるだろう。今までの道筋に意味はあったのか、これからの生き方が正しいのかと、悩む時があろう。

 我の選択には、ほとんど意味がなかった。生まれというだけで選んだ戦闘への執念は、一瞬の幸運によって蹴散らされた。

 人生の半分は、無駄だったと言ってもいい。

 いつか役に立つ時がくるかもしれないという者もいる、だが今役に立たねば意味はない。


 人には過去を遡りたいという幻想を抱くものがいる。もし我が過去に戻れたとして、より早くその正解だけを選択すれば、もっと早くにこの地位につけるやもしれない。


 だが我は!

 たとえ過去に戻れたとしても、戻るという選択肢は存在しない!

 過去改変など愚の骨頂だ!


 我がしてきた人生の半分は無駄だ。それがどうした。その必死に積み重ねた無駄が我を形成してくれた。幼少の頃は頭も悪く、選択肢も少なかった。だが、我が選択した道だ。

 たとえ最善であろうとも、過去を変え、最初から始めるなど自らを否定することも同じだ。

 どんなに辛くとも、逃げ出すことなく生きてきたこの我の道を、否定してはならない。


 故に我は、この無駄である選択肢を作り上げた世界を愛してなどいない。

 だが否定はおろか、怨んでもいない。

 世界とは戦うべき好敵手であり、その戦いにやり直しなど効かぬのだ。


 此度の戦いは、牙の精霊が主軸になっている。つまりは精霊の、世界の一つの選択であるのだ。

 数多くの歴史にて、人は精霊に助け、虐げられ、その意志に任せるままであった。

 だからこそ戦う。そして世界の意思、運命とやらに勝つ! 自らの選択した道を選ぶために、戦い続ける。

 我は、そのための国を、力を手に入れた!


 貴様等はこの道に誇りをもて!

 この戦いには、確実に世界を揺るがす幸福がある!

 争い、奪い合え!

 勝ち取れば、この世界にまた王が生まれる!』


 現在の所持カード


 アオ レベル四十 

SR 証

 R 火 風 水 土

AC ポッキリ

 C チョトブ*5 ポチャン*3 コーナシ*3 ツバツケ*8 イクウ*2 パカラ*1 マネスル*7 キラン*9


 フラン レベル三十一

 R 火 水 光

 AC ブットブ ミズモグ モスキィー シャクトラ

 C チョトブ*3 ムッキー*4 ボボン*6 ポチャン*5 ガブリ*10 ガチャル*1 ジュドロ*2 ツバツケ*11 マネスル*1 キラン*2 スピー*5 ヒヤリ*12


 ロボ レベル四十三

 SR 地


 ラミィ レベル三十五

 R 風

AC シャクトラ

 C ビュン*11 カチコ*2 キラン*9 ポチャン*2 サッパリ*5 ツバツケ*7 マネスル*6

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