9普通じゃありません
そう思ったのは、二日前だ。
いつものように彼を朝迎えに行き
道すがら、俺はその日ある試験の
問題を復唱していた。
(これ覚えにくいな、でも
絶対ここ等辺り出そうだし……)
「何、ブツブツ言ってんの?」
小学生が眉間にシワ寄せる顔っていうのは
どうかなって思うよ?四堂君。
「あ、うん。今日試験でね。
出そうなところ暗記中なんだ、うるさい?」
「別に」
やたら変なこと話しかけられるより
マシとか小声で言ってもそれ
聞こえてるから。
「俺、この前ちょっと点数悪くて
赤だったから今度落とすとヤバいんだよね」
子供に愚痴っても仕方ないのにとは
思いながらもつい口に出る。
もう少し理系が得意だったら
こんな土壇場で公式見直すとか
無いんだろうけど。
「ふーん……」
「ああ、公式とか言われても分かんないか。
君も中学に上がれば嫌でもこんな訳わからない
の覚えなきゃいけなくなるよ。
あ、因みに見てみる?」
ハイ、と渡した問題集を
彼はチラリと見て、やはり小学生には
興味が湧かないようで、すぐさま返された。
「変な記号や数字ばっかりだろ?
こんなの覚えたところで将来使う事
ないだろうにね」
とはいえ、将来はともかく現実問題として
今は必要だからと、再び視線を問題集に落とす。
「―――あの、さ」
「ん?」
「そこのページの問3と8解答、
間違ってる気がする……勘だけどね」
言ってる事がよく理解できなくて
聞き返そうかとも思ったけど
多分、俺の聞き間違いだと判断して
結局やめた。
「岡本っ!テメー!
前に書いてた問3答え、違うじゃん!
俺信じてまんま書いたんだぞ!
どう責任取んだよ!」
「自分でも解かなかったお前が悪いんだろ
人の所為にすんな」
鈴木が怒鳴り、石川が叱責する横で俺は
例の問題集を見ていた。
今朝、学校に着いた俺は
四堂君の言葉が気になって
一応見直して、指摘の通り
問3の回答の間違いと問8の自分の
写し間違いに初めて気が付いた。
そのお蔭で、鈴木の二の舞いならずに
済んだんだけど。
……でも、
……おかしくない?
『問3と8間違ってる気がする』
高校生の微分だよ?
あのページの15の問題が載っている中、
的確に間違いの箇所を指摘できるのって
高校生でもどれだけいると思う?
しかも彼が見たのは、ほんの一瞬だった筈。
ただでさえややこしいのに
何度も見直してやっと自分の写し間違いに
気が付いたってのに。
勘だって?
あり得ないよ。
―――彼は一体?
昼、おにぎりをモソモソと食べてると
見計らったように石川がやってきた。
長かったので分割。