8不倫なんかじゃありません
「おはようございます」
「おはよう、いつもありがとう。
毎日貴方のような素敵な人が
迎えに来てくれるなんて、
うふふ、とっても嬉しいわ」
「いえ。こちらこそ」
「もし面倒になったらそう言って?
気を使わなくって良いから」
「面倒だなんて、とんでもない。
こうやって奥さんの顔を見れるだけで
どれだけ幸せな気分になっているか。
こちらこそ僕の毎朝の楽しみですから
奪わないでやって下さい」
それは本心以外の何者でもない。
心の癒しとはこの事だ。
「いやん、もう!桐江君たら」
「あ、遅くなるわね?呼んでくるわ」
「ハイ、お願いします」
「覚士さーん、
桐江君がお迎えに来てるわよ」
こうやって毎朝繰り広げられる挨拶は
もはや恒例行事となっている。
出待ちから昇格して、家に迎えに
行きだすこと数週間。
すっかり顔馴染みになって、四堂君が
出てくるまでの間、色々話すようになった。
相手はご想像の通り、四堂君のお母さん。
美人で若く明るくて、しかもハーフ!
全くもって非の打ち所がない。
話してると顔が緩んでくるのは
仕方がないというものだ。
だからって
不倫とか全然そう言う感じじゃないけどね。
前にお父さんの方とも遭遇した時、
そりゃもう物凄いラブラブっぷりだった。
残念ながらつけ入る隙なんか微塵もない。
まぁ、人妻に手を出すと後々
ロクなことないし……。
しかも相手は四堂君のお母様。
おいそれと、そんな気持ちになれる訳ない。
ただ、話していてホッとするし、和む。
ああ、やっぱり……女の人はイイよね。
彼が出てきて、これまた
いつもの如く俺の顔を見てハァと溜息を
付かれ、お迎えの儀式終了となる。
(また、そんな顔して、もう……はは)
「あ、覚士さん、雨が降ったら迎えに行くから」
「良いです、置き傘あるので」
彼はいつも自分の母親に対して
こういう言い方をする。
ずっと不思議に思っていた。
普通、親にあんな風に話さないよね?
ハッ!
もしかして“継母”???
……可哀想に。
だからあんなにひねくれて……。
「違うって、本当の親だ」
「え?俺……何も言ってないけど」
どうして俺の考えてるのが
分かったんだろう?しかも合ってる。
「思考回路見切ってるから」
あ、そう……なんだ、はは。
「それにしても、お母さんに対する
態度って俺に対してと全然違くない?」
「……アンタもね」
デレデレしながら話してるじゃん、と
今度は目も合わせてくれなかった。
「アンタさぁ」
「何?」
「……ハァ。いや良い」
すっごく気になるんだけど、その言い方。
気になるといえば、
「四堂君の家に迎えに行ってるの
どう思われてるのかな?」
「それ、聞く勇気あるんだ?」
「えっ!!?」
ロリ?犯罪者?変態?
色んな認めたくない言葉が脳裏を
激しく駆け巡るが、でもお母さん達の
態度からはそんな風には感じられない。
でも実際はどんなんだろう?
「やっぱ言わなくていいよ、うん」
「大体、迷惑って言ったらやめてくれんの?」
「………あー……どーかなー」
相変わらず答えに困る質問を的確に
投げつけてくる。
「んー迷惑がられてるのは今に
始まった事じゃないから、本気で
駄目だと言われない限りは行くよ?」
いつも迷惑だっつってんだろーが
とブツブツ言ってるのは聞こえない方向で。
それでも何故か面と向かって
拒絶の言葉は言われたことはない。
ただ嫌そうなのが、本心からだとは
気が付いてるけどね。