57大団円
「引っ込み思案気味だったレイは
兄の後ばかり追う子供だったみたいで、
いつも真っ直ぐに自分を見て
何でも信じて後をついて来てくる。
そんな弟が堪らなく可愛かったんじゃ
ないですかね。
それこそ誰にも渡したくないくらいに。
それでも年を追うごとにレイ自身も
自分の社会が出来てくる。
取り分け俺という親友とか
許せない存在で余程邪魔だったと
思いますよ。
そんな折、例の“ゲーム”と“俺”と
いうターゲットが成り立った訳じゃ
ないかと考えていました」
「ええ??あそこから始まってるの?
全ては石川の策略?」
「俺はそうだと思っています」
露骨な嫉妬心か、石川も大概歪んでるな。
弟以外はどうでもいいってね。
「零クンに好きな人とか出来たら
大変だろうな」
俺が苦笑いすると、四堂君は
心配には及ばないかと、と奥歯に
モノがはさまってるかのような
言い方で返した。
「だってそう思わない?
きっと邪魔とかしそうだよ」
「レイ、既に恋人いますよ」
「うわっ!マジで?
石川、相手イジメてそう」
「自分相手にそれは出来ないでしょう」
「ん?どう言う意味?」
「例のホテルで会ったんでしょう?」
「!!!!!!」
余りの驚きに声が出ないとは
この事だ。
「他に理由あります?
あのホテルであんな時間に兄弟で
待ち合わせとか、フツーに考えて
ないでしょう?」
心の中で静かに絶叫モード炸裂中。
「俺があの時、あのホテルを選んだのは
桐江さんが女と、って嫉妬心からってのも
確かにありますが、多分それ以上に
レイに先を越された焦りもあったんです」
……参ったな、それ本当なんだとしたら
全て石川の思う壺じゃないか?
なんかムカつく……よ。
石川のこと少し見直したのに
結局は黒幕なんだね!?
「桐江さん、顔に出てます。
確かにその人アレですけど。
今となっては……感謝してますよ。
そうでもなければ貴方に出会えなかったし」
「……もしかしたら、まともな人生
送れてたかもしれないんだよ?」
「充分まともですよ、
好きな人と一緒にいれるんですから」
……アメリカ生活が
長いせいか、いつも彼はストレートで
こっちが思わず引く程、率直で。
「桐江さんは違うんですか?
俺とのこと――後悔してます?」
俺は笑って彼の首に両腕を回した。
「答えが分かってるのに
聞くのは野暮だよ、四堂君」
「……オイ、桐江。
何、思い出し笑いしてんだ、
薄気味悪い。ヨダレ拭け」
「コホっ、コホン」
失礼な、ヨダレ出てるわけないだろ。
……ちょっと余計な部分まで
思い出していただけだ。
「石川、お前あんまり嫉妬深く色々
姑息な手段ばっかりやってると
そのうち愛想つかされるかもだよ」
「…………チッ」
石川が言葉に詰まるとか、
凄い優越感が湧いてくるんだけど。
何だろうこの味わったこともない
楽しさは。
この万事のらりくらりでかわす
唯一の弱点が零クンだと今ハッキリ
裏付けされたよ。
「四堂君とこうなった今、
お前と零クンの話も俺にダダ漏れに
なると思うから、そこんとこをお忘れなく」
何時ぞやの石川の言い方を
真似て言い返す。
「…………聞こえねー」
そうとぼけるられのも
今のうちだから。
本当、今日のシャンパンは格別に
美味しくて、珍味の肴を前にしてやけに
すすむから今日は朝まで飲む?と
石川に言ったら、
「俺んのは酒じゃねーよ!」
と、怒鳴られてしまったけれど。
完




