7そういうつもりで吹いたんじゃありません
駅前を通っていると外人の女の人が
紙を片手に人を捕まえては
道を訪ねてるらしき光景に出くわした。
こういうのを見る度、英語とか出来れば
颯爽と話したりして格好良いのにな
と思うのは俺だけだろうか?
本当もっとちゃんと勉強しとけば良かった
と、この時ばかりは思ってしまう。
英語か……あ、
「そういえば、四堂君って
アメリカから帰って来たばっかなんだって?」
え?
今一瞬だけどビクッと
なったみたいに見えた……気のせい?
「――アンタに関係ないじゃん。
ていうか何、人の事調べてんの?」
「か、風の噂だよ」
マズい、俺キモがられてる?
でも本当の事言えないし。
「その言葉の使い方、
根本的に間違ってるから」
わーっ!もう!
「君のこと何でも知りたいんだよ」
何度ヤケクソに気味に言ったかしれない
フレーズをまた口にする。
でも、やはり
無言の呆れ顔で見返されるだけ。
「その、英語も話せるのかなぁって」
「ちょっと向こうにいたからって
話せるわけじゃないじゃん。
悪かったな、出来なくて」
「べ、別に悪くないって……はは」
む……む……難しすぎるっ!!
この子の扱い方の取説、どっかない訳?
今の子供って、こういう反応当たり前?
シャイなのか本気でキレてるのか
判断はどこでするの??
それとも何か気に障るようなこと
俺言ったっけ?
じゃないとすれば、
――単に嫌われてるだけか?
あ、駄目だ駄目だ。ネガティブになってる。
くじけるな、俺!頑張れ、俺!
必死に自身を鼓舞しまくる。
気を取り直して四堂君のランドセルを見ると
縦笛が挿してあるのに気が付いた。
「あ、笛か。懐かしー」
ピ~ヒョロロロ~
「わ!いつの間に……げっ、吹くな!
煙草臭くなるだろ」
え?煙草?
俺、分かるほどニオイ付いてた?
凄い形相で睨まれて、チッと
舌打ちまでされてしまった。
「……ゴ、ゴメン。つい懐かしくて」
「ハイハイ。もう、良い」
確かに勝手に吹いた俺が悪い。
変態を見るような目つきで盛大な
溜息をされると、ちょっと地味に
傷つくんですけど。
――俺、泣きそう。
「あ」
「何?」
いきなり立ち止まった四堂君につられて
俺も足を止めた。
「忘れ物。学校戻るから
……ついてくんなよ」
一言クギをさして行くあたり
流石、彼だ。
(意外にそそっかしい所もあるんだな)
とか微笑ましく思っていた手に違和感を
感じるとその手には未だしっかりと
例の縦笛を所持していた。
(ヤバイ、俺もだ)
取り敢えず返しておかないと
家に持ち帰りでもしたら、
俺に対する評価は変態に確定
してしまう。
そんな事になれば、明日からは、
もう本当に口すら聞いて貰えなるかも
しれない。
駅前まで戻ってきた所で
四堂君を発見した。
さっき何か人に尋ねていた外人さんと
喋っているようだった。無論、英語。
俺に見せた事もない優しい笑顔付きで。
……笑うんだ、彼。
『悪かったな、話せなくて』
淀みなく、至極流暢に話してる発音は
明らかに付け焼刃で覚えて使っている
それではなかった。
どうして隠す必要があるんだろう?
君にとって俺は
何も話す気にもならないくらいの
存在なのかな。
家に帰ると毎日クタクタで
もう何もする気が起こらない。
掛かってきている電話やメールに
返事をしなきゃとも思うのに
どうしても行動に結びつかなくて。
最近じゃ帰宅、夕食、風呂、寝る。
これ以外の行動、俺たぶん取れてない。
寝る直前まで四堂君攻略で
頭が一杯という、一般男子高校生には
あるまじきサイクルを送っている。
一ヶ月前までの俺じゃ考えられない
すさんだ生活だ。
しかも展望は暗雲が立ちこめている。
「……いつまで続くんだろ、これ」