47形而上
「―――それもCMの件の礼ですか?」
「え?」
「アンタ……凄いよ。
会社の為にここまでやるとか
もしかして公休、旅費会社持ち?
今回の事で俺に接待でもしてこいって
言われた?」
「待って、何を言ってるの?」
見下ろす冷めた目、冷めた口調、
恐らく本気でそう思ってるんだろう。
「だとしたら手助けはしてみるもんですね。
こんなサプライズがあるとか」
「そんな訳ないだろ!!信じて!」
あくまで卑屈な言い方をする四堂君に
俺は思わず叫んでしまった。
「信じろ?何を?一体どの台詞を?
俺を信じてないのはアンタじゃないか」
背を向けた彼の背中に語りかける。
「あの最後に会った日から君を
思わない時はなかった。
随分、虫のいい話をしてるのは
重々承知してる。
……本当、呆れるよね。
散々振り回しておいて。
君がいなくなって
漸く気が付いたんだ」
「どーだか」
「四堂君?」
「アンタは……アンタは勝手だ。
俺をフッったくせに今頃になって……
今回だって俺がアンタの会社を
助けたから来ただけのくせに」
「違う」
「…そんなに面白いか?
俺がアンタの一言一言にグラグラすんの
見てんの、楽しいかって聞いてんだよ、
いい加減にしろよ!」
「支離滅裂な行動の自覚はあるよ。
その度に結果、君を追い詰めてるって事も」
「成る程、確信的にやってる訳だ」
今まで彼にしてきたのをなぞる様に
あくまで俺の言葉を拒絶し続ける。
「違うよ、四堂君。
俺が此処にくる事、社員の誰にも
教えてない、だって必要ないからね。
ましてや君を笑いにくるとか……」
俺は立ち上がってゆっくり四堂君に
近づき背後から彼の手を取ると自分の指を
絡め、その背中に自分の頭を預けた。
四堂君の背中はいつの間にか俺より
大きくなってる事に改めて気付く。
「大人になってたんだね……何だか
良い匂いがする、ボディソープかな」
彼の身体が硬直したのがハッキリ
分かった。
「ねぇ……俺の手、震えてるの分かる?」
告白って緊張するものなんだね、
この年で初めて知ったよ」
“信じられない”
そう言葉にする君は俺の絡めた指を
握り返してはくれないけど
自ら外そうともしない。
こんなにも―――
心を揺さぶられるのは何故だろう。
こんなに身体が熱く感じるのは
何故だろう。
君は何一つ変わっていないと、
恐らくは出会った時の様に
純粋なまま、俺の目の前で
一生懸命、虚勢を張っているのだと
気付いてしまうから……
俺に弱みを見せないで欲しい。
君にどんどん引き摺られていく。
前に君は俺に少しも自分の事を
分かってないといったけど
君だってそうだろ?
俺が君にどんなに甘いか
知らない筈だ。
やたら露骨な表現や駆け引きを
仕掛けてくるくせに、
時折垣間見せる純粋なままの君。
そのギャップに俺は、
かなり……自分でも呆れるくらい
翻弄されてる。
素直で一途で嘘が下手で
そんな君が可愛くて仕方がない。
――愛しいんだよ、君の何もかもが。
何故手放そうとしたんだろう、
俺にとって一番大切な宝物を。
こんなに抑えきれない程の
衝動に駆られてこともなければ、
こんなに誰かに緊張する事なんか
一度も経験したことないっていうのに。




