42異業種
『Updraft=Faust』は、
最初から文字通り全面協力体制で、
うちの案に概ね進行通りに動いてくれた。
『WKレーベル』に至っては
話を持ちかけた際、半信半疑だったものの
いざ、『Updraft=Faust』のベレスフォード氏
を伴って会社訪問をした時には
かなり社員が色めき立っていたと聞いている。
経緯からして、『WKレーベル』に
断る理由は無く即時に
宣伝企画対策チームが組まれる事になった。
数度の改案を重ね漸くCM撮りの運びに
なった時、丁度人気特番の広告主が
広告料の折り合いがつかないとドタキャン
した枠のスポンサーに代わり
初っ端から全枠提供、所謂買い切りという
暴挙に出た。
正確にはスポンサー二社という形では
あるのだが、当然ゴールデンのAランクCM、
……つまり、二社で他のスポンサー分も
買い上げてるようなものだから
滅茶苦茶、金がかかっている事には
変わりない。
中々今の不景気なご時世、こんな太っ腹な
依頼主はあまり見かけなくなったと
前に某キー局の人が零してたのを思い出す。
第一弾は、異種業界の成功者同士の対談、
そんな形でCM撮りが開始された。
大手化粧品兼製薬の会長と
片や今をときめく新進気鋭の
十代の日本国籍も持った
世界的に成功を掴んだ若きIT社長。
一見ミスマッチだが、その対極の
二人がそれぞれの会社を起こした理由や
苦労した事、開発秘話、学生時代とか等々。
テーマ毎にアドリブ風で話すのが、
新鮮だと受けて、四堂君対社長、対社員、
という流れでの4クール構成で
シリーズ化する事に落ち着いたようだ。
紆余曲折あったがオンエアが
始まるやいなや芸能界でも
曰くつきだった事を逆手に
取った形となって注目度も高く、
すぐに話題になった。
人気の要因はやはり四堂君が毎回、
会長相手に“初恋はどんな人でした?”
とか、物怖じせず話す所や時には
真剣に聞き入ったりする姿らしかった。
四堂君が会長に英会話レッスン編は
“今の発音、クール!”と褒めたりする
茶目っ気たっぷりな所が、
可愛いとか益々ファンになったとか等々。
英会話教室が俄かに人気になって
生徒が増えたとワイドショーでも
取り上げられる程、社会現象が起き
凄まじい反響となった。
各駅のポスター盗難報告は連日、
便乗して『WKレーベル』株までも上昇と、
嬉しい悲鳴が聞こえてきそうな
勢いで話す赤城さん達の反応ぶりからは
うちに対する信頼度がUPしてた事が
伝わってくる。
いつもこんな風に上手くいくとは
限らないが、今回は運が良かった。
災い転じて福となす。
恐らくあの人気タレントでは
此処までの売上とはならなかったろう。
それと、これは後から聞いた話になるけど
会長が例のタレント起用を頑なに
拒んだ理由が分かった。
会長の孫が当時付き合っていた彼。
それが同じ学校で先輩後輩にあたる
この俳優だったことが判明。
で、二人の別れた理由が彼が芸能人
になるからというもので、
会長がそれを知ったのがこの企画が
始まってからだったというのが
事の真相らしい。
完全なリサーチ不足といえば
言い訳のしようがないが、
まさかそんな裏があったとは
思いもしなかった。
周りには秘密で付き合っていたようで
情報として上がってこなかったのが
実情だった。
『Updraft=Faust』は兎も角、『WKレーベル』
までもがお金に糸目をつけない
ようなやり方をしてまで、あのCMを打った
理由がここにきてやっと腑に落ちた。
孫想いで豪胆な人ではあるけど
ハタ迷惑で、個人的な私怨の為に
かなり今回はこの御仁に
振り回されてしまった。
その会長は鼻をあかせたと
大層な喜びようで、とりわけ四堂君を
いたくお気に召されたご様子で、
もう信州にある別荘を彼にやると
鍵をすでに渡したとかいないとか……
そんな噂まで飛び交うオチありで
漸く、一応の状況は落ち着いた。
零クンには撮影が一段落着いたあたりで
連絡を取った、あくまで『R-GG』の
営業として。
「御社の機転のお蔭で助かりました。
どれだけお礼を言っても足りないくらいです」
「こちらこそ良い経験をさせて頂きました。
あと、今の言葉伝えておきます」
四堂君という言葉を敢えて口には
しなかったけど、零クンはそれを
ごく自然に受け止めた上で、
暗に彼の仕業だと俺に教えてくれた。
「…………うん、ありがとう」
直接、会わせてはくれないか。
散々悩んでやはり直接言いたくて
電話をかけてみたが出てはくれず、
メールを打っても宛先不明で
届くことはなかったけれど。




