41助太刀
真夜中、社に戻るとまだ人が数人
まばらながら残っている。
「桐江!どうだった?」
「違約金で話はつけてきましたが
かなりマズイ状況ですね。
今度のCM、あの事務所からはタレント
出さないと言われました」
「あーやっぱり、そっちも無理か。
看板俳優蹴って別のって、ソイツの
メンツあるしな……しっかし、参った。
千葉さんもまだ帰ってきてないし」
「課長は?」
「昼からずっと会議」
「俺、すぐ別の事務所あたってみます」
「まぁ、あそこの事務所相手に
別の所からも出にくいだろう」
一斉にため息が漏れる。
タレントに拘らなきゃ方法はいくらでも
あるというのに、どうしても首を縦に
振ろうとしない。
もう時間がない、他の人気者の
スケジュールがそうそう簡単に
押さえられるわけ無いっての分かってない。
二日経過した本日も相変わらず
課の空気は重い。
納期はせまれど、依然目途が立たずで
皆イライラ状態だ。
「ハイ、ハイ。分かっていますが、
そこをなんとか……クソッ、切られた」
「マジっすか」
蛇の道は蛇って事でどこからか情報が
リークしてるようで既に業界では
今回のこのケチのついたCMはどうやら
敬遠されているようだった。
「イテテっ」
連日頭を下げまくっているせいか
今朝から首のあたりがどうもおかしい。
それでもどうにかなれば
報われるというものだがなかなか……
「ふ…………ぅ」
タブレットと手帳、パソコンと
資料を同時進行で見ながら、
午後イチで何処をまわるべきか頭を
抱えていた時にスマホに連絡が入った。
相手は――――零クン?
実はアレ以来、話して無くて
少しだけ出るのに戸惑う。
「ハイ、R-GGの桐江です」
『桐江さん?時間、いま宜しいでしょうか?』
「いつもお世話になっています。
はい、大丈夫です」
……では無いけど、零クンも大事な顧客。
こちらの込み入った事情とは関係がない。
「……は?今なんと?」
『もし、ご迷惑でなければ弊社と
コラボという形は出来ないでしょうか?』
「コラボ?」
その電話で零クンの言葉があまりに
突拍子が無くて意味を理解するのに
時間がかかった。
『新しいCMの方法を丁度考えていた
所だったので、こちらとしても
渡りに船なんです。
【WKレーベル】さんの所のCMを企画中だとお聞きして
弊社もかねがね注目していた企業だったので
良かったら橋渡しを頂ければと思いまして』
「だけど、全然業種が」
IT企業の『Updraft=Faust』と
化粧品及び製薬会社の『WKレーベル』
とでは、どうあっても畑が違いすぎる。
『そこが狙いなんです。企画としては――』
零クンの話を要約すると、こうだ。
今までと目先を変えたイメチェンを兼ねて
新しい顧客層を拡大獲得したいので、
他の全く違うジャンルの企業とのタイアップ
を企画していた矢先、この噂を
聞きつけて願い出たという。
「…………君達に利益が
あるとは思えないんだけど」
『いけると思っての打診です。
善処して頂けませんか?』
どう考えても無理がある。
しかも企画にではなく、
降って湧いたかのようなこのタイミング。
だけど、ここで乗らなければ
『R-GG』にとって大打撃になるのは免れない。
迷ってる余裕も選択の余地もない。
「分かりました。
私では判断できかねますので
上と掛け合ってみます」
『宜しくお願い致します』
他の事務所が二の足を踏む中で
何処の事務所にも所属してもいなくて
しがらみもない『Updraft=Faust』
四堂君の人気は女の子はもとより
業界でのウケも抜きん出てる。
知名度の上でも例の俳優に比べて
何ら遜色ない。
彼らの参戦は正直この上もない
申し出であり有難かった。
あくまで自分達がそうしたかったと
いう言い方をしてくれていたが
どう考えても彼達の会社より
『WKレーベル』の方に利が大きい。
普通に考えて、
世界が相手の『Updraft=Faust』が
日本では大手だとしても全く土俵の違う
WKレーベルとコラボする意味は薄い。
言い換えれば、そうしてまで
彼らが個人的にうちを助けてようと
してくれてるのは紛れようもない事実。
恐らくは……いや、確実に背後に彼がいる。
俺達の窮地を聞きつけて
彼が零クンあたりを
説得したのだろうという想像に難くない。
「申し出、誠に有難うございます。
正式な依頼として、上に報告致します。
返事は折り返し入れますので
連絡先の確認をお願いできますか?」
『では、私宛までで。
連絡お待ちしております』
「賜りました。
…………ありがとう、助かった」




