40大混乱
「どうすんだ?今頃」
課長や千葉さんをはじめ何だか
重々しい雰囲気でそれと同様に
メンバーの顔も険しかった。
ピリピリしたムードが漂うなか
どうしたんですか?と
腕組みをしている阿部先輩に声をかけてみる。
「WKレーベルが例のCMの件、
今朝無効にしたいと言ってきた」
「え??」
今日?何で…今更?
かなり時間を費やしてOKを貰った筈だけど。
「有り得なくないです?
既に専務の赤城さんの了承頂いて、
もう撮影のスケジュールも押さえてるのに?」
「どうやら会長が口出ししてきたらしい」
「会長??理由は何ですか?」
「それが起用したタレントが
気に入らないと駄目出ししてきたんだと…」
それだけ?この土壇場で?
そんな下らない理由??バカバカしい。
思わずそう口に出しそうになった。
宣材はとうの昔に送ってあるし、
担当の赤城さんはその時何も言ってなかった。
逆にその俳優の方がなかなかOK取れなくて
苦労したくらいだ。
ただ、面倒なのがこの会社の会長は
政界にも顔が利くし業界でも超有名人。
社長時代はワンマンでも
知られてたけど今はもう一線を
退いてる訳だし、いくら何でも度が過ぎてる。
「タレント事務所の方は
どうするんですか?
この時期だと違約金、半端ないですよ?」
「それは向こうだって分かってるさ。
支払ってもいいから
何がなんでも代えろとの一点張りらしい。
それで、そのタレントに負けないほどの
インパクトが欲しいだとよ」
「ナニソレ……正気?」
「ド素人じゃあるまいし。
ゴリ押しで通らないのか?」
他のメンバーからも呆れた声が漏れる。
いくら大手メーカー会長といえど、
この業界を舐めてもらっては困る。
決定する前なら兎も角、もう動き出してる
事案に口を挟むとか。
しかもプラン変更だけでも大変な上に
タレントごと変えろとか無茶苦茶だ。
「流石の赤城さんも会長は言いだしたら
聞かない人で申し訳ないと謝罪してたけどな。
今回は、どう考えても向こうが悪い。
だとしても、もしダメなら今回限りで
うちとの契約は先ずないだろう」
課長が渋い声で唸るのを聞いて
千葉さんらが頷くが、阿部先輩は
納得いかないどばかりに、
「謝って済むかよ。うちの信用問題に
なるじゃん、どうする?あのタレント
今イチオシで代わりとか、きかねーよ」
と、毒づいた。
「此処でウダウダ言ってても
埒があかない。
4クール分だぞ?むざむざ他の所に
持って行かれて良いのか?
取り敢えず、事務所に説明と謝罪。
あと今後の対策練らないと」
確かにそうだ。
クライアントがNOという以上、
もう他の道で譲歩を得るしかない。
何もかもクライアントの意見を飲む
訳じゃないが、最優先事項である事には
変わりない。
競争相手は幾らでもいる。
相手の無理難題でも、上手く
立ち回らなければ次回は仕事を貰えない
そういう世界だ。
腹は立つがこのままだと
今回最後まで競っていた
ライズロックあたりに契約
持っていかれるのは確実だ。
所詮、広告代理店とはそういうものであり
クライアント、スポンサーあっての物種、
サバイバルを勝ち残ったものが勝ち組なのだ。
「説明、俺が行きます」
この企画でタレントを提案したのは俺だし
赤城さんと関わりも多かった俺は
率先して動くことにした。
が、状況は思った以上に困難だった。
誰でも良い訳じゃない、あの今
一番売れているタレントより
っていうのが最大のネックとなっていた。
続きは明日。




