39裏表裏
「電話の事は何も……」
「……言えると思います?
その前に“演技”だと
いわれて言えると思いますか?」
「!!!!」
「信用も信頼も本気かさえ疑われて
何を言えば良かったですか?
それすら疑われるかもしれないのに?
無駄だと悟ったんでしょう、
あの時すでにアイツの中で。
桐江さん、
いずれ自分から暴露しようと思った
言葉ごと全部、四堂はその場で
飲み込んだとは思えませんか?
俺はあれだけ人に対して真っ直ぐな人間を
四堂以外知りません。
貴方相手なら特に顕著だと思うのですが
桐江さんの目にはどう映っていましたか?」
あの時のうっすら笑った顔は忘れてはいない。
…………だから、
だからあんな風に笑ったんだ?
『立派な“タラシ”だって褒めたんだよ』
『あのままいけば俺がナシ崩し的に
落ちるとでも思ってた?』
≪―――――ええ、思っていました≫
……よくも、あんな言葉を彼の口から
言わせたものだ。
悔しさと後悔と自分への怒りで
足元から崩れ落ちそうになった。
そうまでして守りたいものって一体何だった?
自分のプライドがそんなに大事か?
―――我ながら随分ご大層なモノを
持ち歩いているのだと思うだけで吐きそうだ。
「俺も桐江さんのことは好きです。
貴方がいる以上『Updraft=Faust』は
『R-GG』との独占契約を破棄することは
今後もありません、CEOである四堂の
たっての希望でもありますから。
でも、もし俺に遺恨が残るようでしたら
遠慮なくそう言って下さい、
今後はベレスフォードを商談の席につけます」
「彼の親友として
桐江さんにお願いがあります。
前に言ったように
奴の恋愛事情に口出すつもりは
ありませんし……結果出してますけど、
桐江さんが奴に応えられないのも構いません。
そればかりはどうしようもない事ですから。
だから……もう良いでしょう?
期待させないでやって下さい。
貴方といても傷つくだけです、
四堂を解放して下さい。
こんな事、貴方に話してると知ったら
余計なお世話だとアイツはきっと怒る
でしょうけど、それでも四堂は
俺にとってかけがえのない存在で
大事な奴なんです。
あんな姿のアイツを
二度と見たくありません。
どうか今後一切、
四堂とは接触しないで下さい」
「…………」
「お願いします」
零クンは俺にこれでもかという程
深々と頭を下げた。
「桐江――桐江!」
「あ、ハイ」
「お前、三日月企画のアポ取った?」
「いえ、これから」
「え?……お前三時だぞ?間に合うのか?」
「スミマセン、すぐします」
「………なぁ、
最近おかしくない?疲れてんなら
有休取っても今の時期問題ないけど?」
阿部先輩が心配気に声をかけてくれるのは
ありがたいけど、今は休む気など無い。
仕事は山のようにあるし、連絡が遅れたのは
うっかり失念していただけ。
もっと集中しなくてはいけない。
「いえ、大丈夫です」
仕事をしてないと、ともすれば
四六時中、四堂君の事ばかり考えてしまう。
失って初めて分かることは殊の外多い。
大事で代わりがきかない事とか
もう二度と手に戻らない事とか
四堂君がどれだけ自分の中で大きく
欠かせない存在だったか。
皮肉なことにそういうのは大概、
なくしてから気づくものだ。




