38石川弟
突然連絡が来たのは昼少し回った頃、
昼食をとる為に入った喫茶店だった。
“お忙しい中、申し訳ありません。
少しのお時間お付き合い願いませんか?”
「四堂に何故会ったんですか?」
メールの文面からして
恐らく仕事の話ではないだろうとは
思ってはいたけど、
席に着くなりそう切り出された。
「それは――帰国してないって
聞いて、心配になったから」
言いよどむ訳は後ろめたさが
あるからで、それを零クンも
承知した上での質問だと解してる為だ。
彼がどうしているのか
いてもたってもいられなくて
深く考えもせずに行動してしまったと
零クンには言えなかった。
それこそ滅多に見せない眉間のシワを
濃くする要因になるだろう。
「………桐江さん、貴方の考えてることが
俺には理解できません。
今更会って何か話すことがあるんですか?
四堂にとって辛いけだと思いませんか?」
それは俺に痛烈な言葉で
グウの音も出ないとは
まさににこの事。
「応える気ないなら、
何故、あのまま奴を放っておいて
くれなかったんですか?
今は酷でもそれの方が余程……」
「そうしてるつもりだった」
「でも結局会いに行ったのでは
意味がありませんよ。
……四堂が諦めきれないのが分かる気がする。
桐江さんは矛盾しています」
零クンの言葉は一言一言が痛い。
それは自分で認めたくない部分を
的確に指摘されるからだ。
「差し出がましいと思いますが、
四堂の友人として正直ここ数日の
奴は見てられませんでした。
普段何事にも動じない自信家で
それ見合う実力も才能も持ってる。
会社をあそこまでにしたのも
ひとえに四堂の力があってこそ。
なのに、
ひとたび貴方が絡むと
何故ああも脆いのか不思議なくらいです。
貴方を見てる時のアイツは見てるこっちが
辛くなる程、貴方の言動を意識している。
きっとアイツは貴方のする事は
全て許してしまうでしょう。
自覚して頂けませんか?
アイツの心を自在に操れるのは
貴方だけ、という事を」
「俺にそんなつもりは無いよ」
「生意気いって申し訳ないのですが
結果そうなら同じではありませんか?」
零クンはあくまで丁寧な言葉、温厚な
話し方を故意に選んではいるけど、
恐らくそこには友人を思う怒りが
介在していて、それがハッキリ伝わってくる。
「目上の方に対して随分な口の利き方を
してるのは自分でも分かっています。
後で幾らでも謝ります、ですが
もう少しだけ言わせて下さい」
ついこの前まで子供だと思っていた
四堂君や零クンと対等に話す時が
来るとは思わなかった。
しかもそこに年齢差という違和感を
感じさせることもなく、彼らは
随分大人びている。
――余程、俺なんかより。
「四堂、嘘つくの下手だと思いません?」
「そう……だね」
「必要に迫られて
対他の競合会社相手にハッタリを
かますようなことはあっても、
普段も冗談程度のものくらいですよ。
この前のホテルでの事や最後に会った夜の事、
詳しくは聞いた訳じゃないんですけど
騙すような事をしたと……それだけ。
きっとコレは聞いてないと思うので
一応、言っておきたくて。
あのホテルでのことは、俺は四堂に電話を
かけたんですよ、早まるなとだけ言いたくてね。
まさか本当に取るとは
思いませんでしたけど」
(――え?)
「すぐ切るつもりだったのが
四堂の様子がおかしかったんで
ヤツを宥める為に、結果長くなってしまって」
「それって……」
あの時、彼は俺の言葉を否定しなかった。
それどころか笑ってさえ、いた筈だ。




