35誤作動
結局、俺は石川が提した案に下る
ことにした。
石川の俺達には関係のない計画の一貫を
担うようで不本意だけど
それ以外に何か妙案があるのかといえば
正直自分じゃもう手の打ちようがなくて
考えつくした結果だ。
もうこの後に及んで他人の手を
借りるとか……全く見栄もなにも
あったもんじゃないか。
石川の案は至ってシンプル。
俺に彼女を充てがうというものだった。
流石に俺にそういった相手がいれば
四堂君も諦めるだろうからと
安易ではあるが、効果は言わずもがなと
念押しをされて。
「大体、ややこしくなった原因というのも
お前が彼女と別れていたからだし
……まぁ、向こうだってそれを狙って
接触してきたんだとは思うけどな」
果たしてそこまでする必要なんかある?と
思いはあったけど、もう今は――
「今回、零一にはお前に彼女が出来たと
伝えておく、そうすればボーヤも知る
所になるだろうし。
で、いいよな。あとコレその子の連絡先」
「女の子の?え?本当に付き合うって事?」
「当たり前だろ。噂だけ流したところで
すぐにバレるに決まってる。
形だけでも彼女ってことで付き合う振り
すればいいじゃん。
女の子ならお前だって異存ないよな」
選択の余地が今の俺にあるのか?
――今は
四堂君の事を考えたくない。
もう…………沢山だ。
「分かった。何でも良い。
石川の好きなようにしてくれれば」
「はーい!そうします」
これでいいんだと思う。
もっと早くこうしていれば良かった。
「マジで付き合うかどうかは
会ってみて決めれば?
因みに、その子俺の取引会社の子
なんだけどな、偶然高校の話になった時に
お前の話が出てさ。
なんか大学の時からお前のことは
知ってるみたいだったぞ。
当時から好きだったんじゃないのか?
その時お前には彼女がいたから
言えなかったとか言ってたし」
「………………」
『Updraft=Faust』との契約の更新を
前にして日本担当である零クンとの
商談の中、俺は彼の表情に
気を取られていた。
君は石川から何か聞いてるんだろうか。
何処まで?
彼は……四堂君は
‘彼女’の存在知ってるの?
――何か言ってなかった?
――その時どんな顔してた?
「どうかしました?」
俺は多分零クンを自分で思った以上に
凝視してたらしく不思議そうに見返された。
「あ、いやゴメン何でもないよ。
ええと、この後良かったら
ご飯でも行かない?」
俺は我に返って慌てて話を逸らす。
「スミマセン、今日は予定が入ってて
また今度是非ご一緒させて下さい」
「いやいや、こっちこそ急にゴメンね」
一度も四堂君の話題に触れることもなく
零クンは何度も俺に頭を下げて
部屋を出て行った。
もしかして
石川は弟にまだ何も言ってない?
いや、今までが今までだ
言わないとは思えない……だけど、
何時もだったら必ず、まず零クンが
反応するか、彼の性格からして
この前の夜みたいに本当なのか?
と食ってかかってきてもおかしくないのに。
…もしかして零クンが言わなかったとか?
確かめる?
―――何の為に?
食事に誘って何を聞き出そうとしていた?
四堂君が動揺してるかどうかか?
してたら何だというんだ?
振ったクセに。
何度も何度も……
そんなに彼を追い詰めて
何がしたいというのか。
落ちつけ何やってる。
そもそもこうなるようにし向けたのは俺。
目的見失ってどうする。
これじゃまるで、
まるで―――
何度も繰り返す無限ループ。
それは自分の意図しなかった箇所で
回り続ける感情の歯車。
俺はおかしい。
まるで待っているみたいだ。
……俺、連絡くるの期待している?
もし、今度彼になにか言われたら
俺は――――




