表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理由がいるなら、いくらでも  作者: 采且ウサギ
王子、大人になる
54/79

33無表情

「一体いつから……そう思っていたんですか?」



「それは……」



それは、俺自身でもはっきりはしない。



いや……それでも本当の事をいうと

ついさっきまでは疑惑に過ぎなかったよ。


ただ、違和感がどうしても拭えなくて

それを決定づけたのがホテルでの一件だった。





調教も何も……




カマをかけただけ。


レイ君が簡単に履歴

見せるわけ無いのに。


もし仮に俺が頼んでもきっと

それは君が絡みだと気が付いて

何かしらの言い訳でもしながら

君にまず確認を取るに決まってる。


それこそ君の不利益にならないように

細心の注意を払ってね。


あの子はどんな立場にあっても君を

裏切るようなマネはしないだろう。




「普段君ら二人だけの時、

英語で話してるよね。


君が本当に俺にその内容を

聞かれたくなかったら尚の事、

あの時に限ってわざわざ電話で

日本語を使う意味がない。


もしあるのだとしたら

理由はただ一つだけ」




俺に聞かせる為――違う?




俺の言葉に四堂君は目を細めた。




二面性を見せる彼の言動は

無意識なものだと思っていた。


初恋によくある過去の幻想と

現実の俺に対しての不安と苛立ちに

よるものだとの思い込みがあったから。


……実際それもあったかもしれない。



「俺ね、君みたいに頭は良くないけど

恋愛事に関してだけは経験上、君より上だよ」




日にちが経ち仕事に没頭するほど

妙に頭が冷静になっていった。


俺は肝心な事を忘れていたんだ。


君がもう‘子供じゃない’って事をね。




“接待”とまで口にしておきながら

あんなチャンスをみすみす見逃すだろうか?



俺が逆の立場だったら?


その答えは自ずと出てくるというのに。





――あの夜は、


おかしいと思える余裕はなかった。

それどころか…………



そしてこの前の夜、寒そうな君をみて

もう良いかとさえ思ってしまった。



だから敢えて口にした。



――否定して欲しかったからとか、

口が裂けても言うつもりはない。







「桐江さんこそ、俺が部屋に

戻って来た時……寝ていなかったのでしょう?」



「分かっていたから言ったんだろ。

実業家どころか役者にだってなれるよ」




「…………それはお互い様でしょう」




彼は再び微かに笑った。



だけど――俺が予想していた笑い方と

まるで違っていて耐え切れず

視線を外してしまったのは俺の方。





「だって普通じゃ物足りないんでしょう?


正攻法じゃ軽くあしらわれるだけだと

何度も思い知らされてきた。


こういう駆け引きめいた

事でもしないと俺の事見向きすら

してくれなかったじゃないですか。


好きならどんな手でも使いますよ、

当たり前でしょう、

それはそんなにいけないことですか?」


「だから俺には通用――」



「半歩って事は手応えはあった、

そう解釈しても良いんですよね」



「…………!」



笑うのでもなく怒ってるのでもなく

ただ無表情で言う四堂君に

俺は何も言い返せなかった。







四堂君が帰った後、

そのまま家に戻る気がしなくて

俺は目的も無くフラフラ歩いてると

誰かに人にぶつかった。


「もう!痛いわね。

ちょっ!?イイ男じゃん、何?今のナンパ?」


「スミマセン、ちょっとボーっとしてて」


「良いって~、ねぇねぇ遊ばない?」


「そんな気分じゃないんで」


それでも腕に絡めた手を離そうとは

しない女性にイラついたのは初めての事で。


ましてや、


「……いい加減、離してくれない?」


こんな風に冷たく言える自分が

信じられなかった。



「ちょっと顔が良いからって

調子に乗んなッ!バーカ!」


女は捨て台詞を吐いて人混みに

紛れて行ってしまった。






調子に乗ってる……



ホントそうだ。



「……クッ!!」



力任せに街路樹脇の壁を叩いた拳には

薄っすら血が滲んでいた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ