32経験値
ずっと引っ掛かっていた。
その態度、その言葉の端々が。
全てを否定しているわけじゃない、
ただ、どうしても自分の記憶の中に
ズレがあって、思い過ごしだと
何度も消そうと試みはした。
でも
そう考えると思い外、符合する事が
多くて……
一度は取り出したケータイを再びポケットにしまいこんだ。
……だとして、何も変わりはしない。
それだけの事だ。
「寒いのに馬鹿だな、君は」
彼の帰国前日の今夜もまた俺達は月明かりの下にいた。
「こうでもしないと
中々会ってくれませんからね」
お互いの息が白い。
明日初雪になるかもしれないという
天気予報はどうやら当たりそうだ。
「向こうに戻るの明後日だっけ?
寂しくなるね」
「…………フッ」
「四堂君?」
「……それでも部屋で話そうとは
ならないんだと思って」
「…………」
「俺が怖いですか?」
「全然。それはないかな」
「でも家へは上げれない、と」
「君が俺を友達としてみてくれるなら
いくらでも家に招く」
「やっぱりそういう意味じゃないですか」
「違う。
随分甘く見られてるみたいだけど
腕力でどうかされる程、俺弱くないよ」
問題はそこじゃない。
「第一、君はそんなこと出来ないだろうから」
「……甘く見てるのはどっちだか」
「君は本当に矛盾だらけだね」
「どこがです?」
「じゃ聞くけど、いつも俺と会う時、
レイ君連れだったのは何故?
結局あのホテルの時だって
俺には手を出さなかったのはどうして?」
「貴方が大事だからです」
その言葉を受けて
堪らず笑い出してしまった。
「まさか欲しいのは
俺の心とでも言うつもり?」
「桐江さん……?」
笑う俺に意味が解らないとばかり
詰め寄ろうとする四堂君と
改めて距離を取る。
「上手くなったね」
「え?」
「立派な“タラシ”だって褒めたんだよ」
「…………何、言ってるんですか?」
四堂君は俺の態度に戸惑っているように見えた。
「レイを伴っていたのは
そうでもしないと桐江さんに手を
出しそうだったから抑止の為にです。
ホテルの件だって眠っている貴方を
無理やりなんか抱けないから、それで……」
「そもそもそれこそがフェイクじゃないの?」
「……!?」
「ねぇ、ホテルのアレ、さ
本当に電話してた?……一体誰と」
「それは――」
「あ、先に言っとくけど
‘レイ君’は使えないよ?
彼の履歴見せてもらったから。
あの子を利用しようと思ったらもっと
調教しておかないと。
尤も、彼はそういうの
向かないタイプだろうけどね」
「…………」
「俺としたことが危うく
引っかかりそうだった」
乾いた笑いが止まりそうにもない。
「惜しかったね。
後、半歩足りなかったかな」
自分でも不思議なくらい冷静な声。
「あのままいけば俺がなし崩し的に
落ちるとでも思ってた?」
「―――――ええ、思っていました」
それまで黙って俺の話を聞いていた
四堂君は薄らと笑った。




