31不可視
忙しい、もう闇雲に。
今日は朝から四件既に会社まわりを済ませ
午後もクレイサスの商談の担当が
急な異動で変わるから引き継ぎの為
会う事が急遽追加になり、他の所との
折り合いのスケジュール調整を
どうにか取り付けた。
夜は――えっと、ああ此処か。
端末ノートを確認し漏れが無いか
何度も確認しその都度相手先に
連絡を入れ、
「では、今からお伺い致します」
電話を切ってまた歩き出す。
……アレ、俺今日昼食べたっけ?
「お疲れ~」
「お疲れ様です」
会社に戻った頃には午後11時を回っていた。
「桐江、お前夕飯食った?」
「ハイ、テキトーに」
「そか。俺、帰るけどお前は?」
「もう少し残ってすることあるので」
机の上の山積みの書類にチラリと
目を遣った阿部先輩は、ほどほどにな
と言い残して帰って行った。
程々でやって終わる量では
無いんですけど……
少し仕事を入れ過ぎてて
オーバーワーク気味なのは分かってる、
何故ならそうさせてるのは他でもない
俺自身だからだ。
(疲れた、何も考えたくないくらい)
仕事をするのは楽しいし、好きな仕事
だから苦じゃないけど流石にキツイ。
誰もいなくなった自分の部署は
シーンと静まり返っていた。
“ブーブーブー”
バイブの音で自分がうたた寝していた事に
気が付く。
(ヤバ、寝てた)
時計は1時。
いつもなら家で風呂に入ってるか
上手くいけばベッドの中かもしれない。
俺だって自分の部屋で
ゆっくり寝て疲れを取りたいけど
帰りたくても帰れない事情があった。
それは――
メール内容をみて俺は溜息をつき
時計を振り返りすぐさま
コートを引っ掛けて会社を出た。
“今日は帰って来ないつもりですか?
もしそうだとしても待っています”
一昨日の夜、四堂君が
俺のマンションの前で待っていた。
『遅いんですね、いつもこの時間?』
『四堂君!?何してるの!風邪引くよ』
暦の上ではもう冬。
昼間はともかく朝夕の冷え込みは
10度前後まで下がるというのに
いつ帰ってくるかもしれない俺を
エントランスじゃなくこんな外で待つとか。
触れなくても息や顔色から
どれほどの体温か分かるという物。
『こうやって貴方も俺の家で
待ち伏せしてましたっけ』
『俺の場合、不法侵入とかまでやってたけど』
お互い当時を思い出してクスリと笑い合う。
それでも
こんな寒い時は行ってなかった筈。
『こうやって俺が来るの迷惑ですか?』
『そんな事ないよ』
――これがいけないのだと思う。
そうだと何故言ってやれない?
元々相手にキツく言ったり
拒絶するのは苦手だけど、その理由と
現状は自分でも誤魔化しようがないくらい
解離している。
よりによって
君を邪険にしなければいけないのが
何より辛い。
それは彼にとって?それとも自分が?
『明後日、また向こうに戻ります
それまで貴方の顔こうやって見に来て
良いですか?』
俺は首をどちらにも振れなかった。




