28罪悪感
その日の朝は最悪だった。
いつの間にかまた寝ていた俺が
起きると四堂君は何事もなかったかのように
ソファでTVを観ていた。
どう声を掛けたものかと考え倦ねてると、
彼の方が俺に気が付いて朝食は
ルームサービス頼んでるのでテラスで
食べませんかと促してきた。
「…………!」
全く寝ていないのか彼の
目の下のくまがハッキリと見て取れる。
折角の美形が台無しだ。
それでなくても零クンの話では
来日する余裕も無いくらい仕事が
詰まっていて、それを四堂君は
片づけてきたと……
随分無理をしているはず。
「桐江さん、朝はあんまり食べないって
昔言ってましたよね?
一応軽めの朝食にしましたけど、
変わっていませんか?」
「……うん」
「良かった」
なのに俺は先に寝てしまって
彼の要望に何一つ応えてもいない。
「昨夜バスから出たら既に寝てたので
何度も起こしたんですけどね」
――起こさないように声を潜めてクセに。
「色々イタズラをしたとかしても
反応ないし、段々つまらなくなって
ふて寝してしましましたよ」
――指一本触れてこなかったクセに。
夕べあんなに強気な彼はすっかり
ナリを潜め俺を本気で
責めようとはしなかった。
朝食を食べながら話す君。
そのどれもが不自然な程、饒舌で笑顔で……
本当、嘘が昔から上手くないよね。
相変わらずの下手さ加減に俺は
居た堪れなくなった。
用意してくれたコーヒーですら
喉を通りそうになくてむせてしまう。
「ゴホッ……ゴ」
「大丈夫ですか?桐江さん!?」
大丈夫な訳ないだろ?
君のそんな姿、見せられて
俺が平気だとでもいうの?
「食事終わったら、DVDでも
一緒に観ませんか?」
堪らないのはこっちも同じ。
「それともまだ少し寝ます?
今日は……ゆっくりできるんですよね?」
相槌なんか打てるはずもないじゃないか。
「ゴメン!昨日言い忘れたんだけど、
今日朝一で仕事が入ってるんだよ」
極力彼の顔を見ずにいかにも
平然を装って、そう口にする。
「え?……代役、立てれないんですか?」
だって、それでなくても
声のトーンで君が今どんな顔を
してるなんか容易に想像が付くから。
「うん。本当にゴメン。
他に代われる人がいならしくて、
食事終わったら行っていいかな?
大事な取引相手だから申し訳ない」
「俺……の所よりですか?」
「どこも俺にとっては大事だよ」
「…………同じ、ね」
聞こえないふり、落胆した表情も
目に入れないよう努める。
「あと、此処のホテル代は俺が持つからね」
「それは俺が――」
「いや、俺に払わせて」
「でも!」
「――四堂君、お誕生日おめでとう。
こんな気の利かないプレゼントで悪いけど」
「……!!」
その顔をあげた彼の表情が
脳裏に焼きついて離れない。
なんて顔をしてるんだ……君は。
「じゃ、悪いね」
俺はもう振り切るように部屋を
出てしまった。
無論仕事なんか入ってない。
これ以上、あの空間に一緒にいたくなくて
俺は逃げてしまった。
君といると苦しくなる。
自分のしてること全てに嫌悪感と
罪悪感を感じずにはいれなかった。
昨夜のことで俺はかなり彼に
気持ちを持って行かれてる。
正直あれ以上の告白は無いだろう。
……困ったな。
ゲームのフリをして
続行するのは簡単だ。
「…………。」
――――――簡単?
果たして、そうだろうか?




