表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
理由がいるなら、いくらでも  作者: 采且ウサギ
王子、大人になる
46/79

25誕生日

「ホストまがいの事もなされると

貴方の口からお聞きした覚えがありますが?」


「ええ、必要とあれば」


「男でも?」


「それは……」


「仕事なら誰とでも寝るんでしょう?」



四堂君はこれみよがしに指に挟んだ

カードキーをチラつかせる。


「……残念ですね。

私もいくら仕事といえど、

淫行で捕まりたくはありませんので

お相手は18才以上と決めております」


その言葉を予想していたかのように

四堂君は立ち上がった俺を見上げ微笑んだ。



「それはちょうど良かった。

今日俺の誕生日で、

めでたく18才になったんですよ」


「それは、おめでとうございます」


「ありがとうございます。

その言葉を聞くと仕事を死に物狂いで

片付けて来た甲斐があった

といったところでしょうか」


冷笑ともとれるシニカルな笑いは

皮肉にも彼の美貌を際立たせていた。



“誕生日、君は何が欲しい?”



……なんて無粋な事いま聞けるわけないか、

その答えを俺は既に知っているのだから。




「で、ご返答は?」




「……それを『Updraft=Faust』の

CEOがお望みなら」


四堂君の深緑の目の色が

いっそう濃くなった気がした。



彼に後について通された部屋は

今まで入ったこともない優雅な内装、

スィートルームだった。


彼はベッドに腰掛け、寝室のドアに

立っている俺の動向を視線で追う。



「ネクタイ外したらいかがです?」




俺は素直に従いながらネクタイを

シュルと衣擦れの音を伴って外す。



「CEOはどちらをご所望ですか?」



「Top or bottom?」


「私は上なら得意なので

濃厚なご奉仕をお約束できますが?

あ、騎乗位って意味ではありません、

……念の為」


わざと挑戦的な言い方を選ぶのは

このフザけた舞台を更に過剰に演出する為と、

四堂君のポーカーフェイスの仮面を

剥がす俺の意地もあった。


「いえいえ、それには及びません。

俺も得意なので」


僅かだが四堂君の口調が

キツくなった気がした。


「……つまり私が女役ですか。

生憎、私はそちらの方は

不慣れなので満足頂けるかどうか」



「俺が満足させると言ってるんですよ」



「……それでは接待の意味が変わってきませんか?」



「…………」



無言の間がお互い意地になってるのを

表面化させる。



「先にシャワー浴びてきます」



上着を脱いだ四堂君は俺に一言断りを入れ、

バスルームへと向かうその後ろ姿を

ぼんやり眺めていた。



「……はい」



「寝室にシャンパンを用意してあるので

飲んでいて下さい。

生憎、俺はどっちの国籍でも

まだ飲むことは出来ないので貴方の

名前でオーダーしました、遠慮なくどうぞ」


「いえ、仕事中ですから」


あくまでこれは仕事と言い切る俺に

振り向いた四堂君は視線を鋭くした後、


「仕事でもお酒を飲むことは

あるでしょう?」


そう言ってバスルームに消え、

暫くしてシャワーの音が聞こえてきた。



「…………」



ソファにドカリと腰を下ろして

大きな溜息を漏らす。



まさかこんな手で来るとは思わなかった。


コレで寝たからといって

何の意味がある?


それが分からない君じゃないだろうに。


自然と視線がバスルームにいく。



……俺は四堂君を追い詰めてる?



いっそ寝てしまえばこんなものかと

案外四堂君が冷めるかもしれない。



でも本当にそれで良いのか?



もう二度と戻れなくなる。



それでも?




「フゥ……」



ベッドに仰向けになってシーツを指先でなぞる。



俺、今から君と此処で“寝る”のか?



実感がまるで湧かない―――。





カシャと氷の溶ける音に用意されている

シャンパンを思い出す。



重い体を起こして何気なく

俺は手にしたボトルの銘柄を見た。




(サロンか……渋いな)



ここはこだわりが強く、

当たり年しか作らない上、生産本数も

少ないから中々手に入らない一品だ。


「!?」



この年号は……俺の生まれ年?



―――参ったな。



ソツがないね、ホント君は。



俺は酒の中で取り分け

一番シャンパンが好きで

多分それも四堂君はどこからか

情報を得てのことだろう。


待っている間、グラスにシャンパンを注ぎ

その芳醇な香りと色に魅せられ、

一口くちにした。


「……美味い」


以前飲んだドン・ペリより酸味が強く

俺的には断然こっちの方が好みだ。


ついつい美味しくて、数杯口にしてしまい

ここ数日の疲れも伴って

いつしか不覚にも記憶が

薄らんでいってしまった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ