23本親友
「あ、あのー少しいいですか?」
「何?石川君」
「あ、その前に名前の件ですが
兄とダブってややこしいでしょう?
レイでも零一でもどちらでもいいので
そちらでお願いします」
「ありがとう……じゃそうさせてもらうよ」
「ハイ」
「…………」
「…………?」
えーと、この間はもしかして
“今”呼んでみて的な感じなのかな?
「零クン」
「ハイ!」
あ、どうやら正解を引き当てたようだ。
何かこの子可愛いな。
童顔でもなく身長も四堂君と
ほぼ変わりない割に幼い印象を持つのは
きっとこの素直さゆえだ。
大型ワンコみたいだ。
石川もさぞや弟が可愛い事だろう。
――いいなぁ、弟。
「桐江さん、その……四堂の事なんですが」
「うん?」
「変わったでしょう?アイツ。
学者の道を切ったのも女関係も
善し悪しは別として起点は
全部貴方だと思います」
「…………」
「誤解しないで下さいね、
責めてるつもりは毛頭ありません。
判断してそうしてるのは本人の自由であり
責任ですから」
真面目な顔つきで俺に話す石川君、もとい
零クンに俺なりに応えたいと思っている。
「学者やっぱりやめたんだ、何でかな?」
「研究所に篭もりっきりになると
貴方に会えなくなるからですよ。
同じ理由で、会社も起こしたんです、
自分で社長になれば自由が効くとでも
思ったんでしょうね」
周りの雑音をBGMのように耳を掠めながら
ゆっくり話す零クンの声だけが
俺の耳に届く。
「誤算はここまで話題になり忙しくなると
思ってなかった点ですね。
アイツ中々こっちに来れないから
内心イライラしてると思います」
それであの電話か……それなのに
俺はあんな言い方を。
いや、アレはアレで良かったんだ。
期待させるほうが酷というものだ。
「女と遊び始めた時、正直
桐江さんの事吹っ切れたのかと
安心してたんですけど実は全然逆で。
多分アイツなりに貴方に近づき
たくてやってたんだと
今だからわかるんです。
変わっていないのは、
本気でずっと貴方一筋な所だけ」
「……零クン」
「あ、だ、だからといって
桐江さんが応える義理はないとは
思うんですけど。
男女なら兎も角、男同士ですし
なんと言って良いのか俺自身
正直わからなくて……その……あの」
慌てて否定したり、言いあぐねていても
言いたいこと全部伝わってくる。
君が実直で素直でいい子だということ、
四堂君の事、大切に思ってることも。
「……いつからこの事を?
彼に聞いたの?」
「いえ、友人ですから」
「そうだった、ね」
四堂君が近くに置きたがるの良く分かる。
「うん。大丈夫だよ、零クン」
もう分かってるから、ちゃんとね。
四堂君は随分背伸びしてる、
元来そいう性格じゃないから不安定で。
彼は無意識かもしれないけど
無理して演じるてるのが分かってしまう。
そうさせてるのは他ならぬ俺自身
だと自覚もしている。
虚勢と純真さが入り混じってて
俺に合わせようと必死だ、
だから言動にブレが生じる。
ゲームだと言われた時も最初こそ
疑ったけれどすぐに違うと分かったよ。
四堂君の顔からはそんな遊びなど
微塵も感じられなかった。
それどころか、どんなに真剣に
俺に持ちかけてきたか伝わってきたくらいだ。
いつも彼は真剣で嘘がない。
本気なんだって、その言葉でその行動で
ビシビシ伝わってきてた。
だから俺も適当に今更誤魔化す気は
無いし出来ないから、
散々考えて何度も振り出しに戻る。
果たして俺に彼を
突き放し切れるだろうか……と。
最初に強引に関りを持ったのは俺の方、
彼はそれに振り回され、今の現状に至っている。
全責任は俺にある。
そうしなければいけない義務が俺には……。
「心に留めておくよ、ありがとう」
そう言うと彼はあからさまに
ホッとした表情に変わった。
零クン、きっと散々迷って
それでもこの事を口にしたんだろうなと
そう思うと微笑ましく思えてくる。
――良い友達持ったね、四堂君。




