21真夜中
あらかた話が纏まった所で
帰ろうとした足を引き止められた。
「この後、少し時間あるかしら
今日待ちくたびれて疲れてしまって」
この上にラウンジあるんだけど行かない?と
微笑みを浮かべての誘い。
「…………」
どうやら『Updraft=Faust』を諦め、
ターゲットを他に切り替えたようだ。
聞き分けが良くてなりより。
切り替えが早いのもしたたかな女性も
普段嫌いじゃないけど。
「そうですね……こちらが遅れてきたばかりに
こんなに遅くなってしまって。
私で良ければお付き合い致します」
微笑む彼女をエスコートすべく
エレベーターのボタンを押し、
そのドアが閉じないようにしながら待つ。
「今度の担当者は美形だと噂だったけど
それ以上ね、しかもエスコートも
スマートで良いわね」
満足気な彼女に僕も又笑い返した。
「恐れ入ります」
その日、四堂君からの電話が何度も入っていた。
何時もだったら出ない時は留守電なのに珍しい。
こっちから折り返そうかとも思ったけど
向こうの予定が分からない以上
不用意に掛けたくなくて、今日は
早く上がれそうだったから再び電話が
掛かってくるのを待つことにした。
ブルルルル
暗闇の中、指先でケータイを探す。
『……起きてましたか?』
「え?……うん、起きてたよ」
ぼんやりする意識の中で時計を見ると
AM;3:05との表示が薄ら見える。
あっちは夕方……かな?
こんな時間に一度だって電話して来たことが
ないのにホント今日は珍しいことだらけだ。
「なにか……あった、の?」
頭がハッキリしない。
まだ夢と現実の区別が付かないほど
意識が朦朧としてる。
『…………』
四堂君からの返事はない。
その間が気になって段々目が覚めてきた。
「四堂君?」
『――ですか?』
「え?ごめん、何?」
寝起きで声が遠く感じる。
『女とホテル行ったんですか?』
「…………」
その言葉でバッキリ目が覚めた。
わざわざそんな事聞くために真夜中に
電話掛けてきたの?
一体どこで聞きつけた来たんだか
相変わらず、情報早いね……
「ソレ、君に話さなきゃいけないこと?」
すると今度は声色のトーンが一気に下がった。
『質問に答えろ、行ったのか?』
「…………」
あからさまな怒気を孕んでいる言い方に
俺は溜息を付いた。
「随分回りくどい言い方をするね?
寝たよ、そういえば満足?」
仕事相手だとか、その経緯だとか
話す気にもなれなかった。
電話の向こうが再び無言になる。
耳が痛くなるような錯覚を覚えるほどの沈黙。
「俺がこういう人間って知ってるよね?
俺は男に落ないとも言ったはずだ」
「――アンタ、本当に誰とでも寝るんだな」
「必要とあればホストまがいの
事くらいするよ、失望した?」
執着してもらえるような人間じゃないよ、
まだ分からない?
「そうやって今までも仕事上でも女と――」
「だったら、何?」
元々君の輝ける人生に俺という存在は
イレギュラーなんだ。
「ねぇ?単なる“ゲーム”だろ、コレ。
そんなにムキになってどうするの?
ゲームと銘を打ったのは君のくせに
その動揺は何?話にならないよ」
突き放すのが今の俺に出来る唯一の役目。
『……じゃ、それ以外に何て言えば良かったんだ?』
「というか、このゲーム自体が……」
これ以上俺なんかに振り回されてる
君を見たくないんだ。
『ゲームは続ける。
勝手に降りることは許さない』
その言葉で電話は切れてしまった。
「俺だって――」
バン!!!!
暗闇に放り投げたケータイが
何処かにあたったようで派手な音を立てた。
現在、クロ番外編2を集中的に更新してる為
こちらの更新は遅くなります。




