20不条理
ヤバイな……
前の撮影が押して、次のクライアントの
約束に間に合いそうもない。
何度も向こうの担当者に連絡を
取っているのだが、何故か繋がらなくて。
(何で繋がらない?移動中なのか?)
撮影もほぼ終わってるし、本来なら
もう制作の人に任せてこの場を離れて
良いはずなのに、やたら俺に確認を
取ってくる。
「ハイ、それでいいと思います。
何パターンか用意されてる中で
一番そのフレーズを押したいと
仰っていました」
「君の意見は?」
「そうですね――」
えー、この局面で俺の意見いる?
企画書見たでしょ?しかも撮影始まる前、
散々意図は伝えたはずなのに、クドいな。
時計を見ると本格的にヤバイ。
次の『レベル・XYZ』のとの時間、
移動時間も含めたら最早絶望的だ。
ダメ元で再度、連絡を入れてみるが
やはり繋がらない。
どちらもお得意先であり大口だけど、
取り分け『レベル・XYZ』は
時間に厳しい事では業界でも有名。
前任者が前、五分遅れたとかで
その後、担当者を代えなければ
今後うちとは契約しないとか
言い出したくらいだ。
しかもこういう時に限って運悪く
病気や法事ごとで余力人材が皆無な上、
皆それぞれ出払っていて
連絡が取れないという有様。
参った、万事休すか。
何とか抜け出して来たが、
既に担当者の姿は無し。
担当者を代えられるだけで済むなら
まだ良い。
「……査定に響くだろうな」
無駄だろうけど、もう一度連絡取っておこう。
『――はい』
え?出た?
「大変申し訳ありません、こちらの
都合で遅れまして、今着いたところです」
『今、ロビーにいるのでそちらに
来て下さい』
「ハイ!すぐに向かいます」
しかもまだ帰らずにいてくれるとは
思っていなかったから
俺は急いでホテルのロビーに走った。
「本当に申し訳ありません」
俺は頭を下げて謝ると、向こうも
「事情があったのでしょう?
こちらも携帯の電源が切れてしまって
連絡何度もして頂いてた様で、
ご迷惑をお掛けしました……」
そう口にした。
『レベル・XYZ』担当者。
見た目、三十代前半位の
落ち着いた感じの知的美人。
と、良かったのは此処まで。
「……ですが、やはり連絡云々よりも
そちらが遅れてくるというのは
うちの方を軽んじられてるからでは?」
やはりこの会社は苦手だ。
「決してそのようなことはありません」
「そうでしょうか?」
今日は厄日、確定だな。
「まぁ良いでしょう。
所で『Updraft=Faust』との
交渉一切を取り仕切っていると
お伺いしましたが、どういった経緯で?」
見え透いた切り出し。
……目的はソレか。
「CEOと昔の知り合いだったんです」
「え?あのクリス氏とですか?」
「ええ」
成程、読めてきた。
こうなると、電源は故意に
切っておいたのではないかとさえ
思えてくる。
キレ者か単なる傲慢な女性か
折角、綺麗な人なのに勿体無いな。
「今度良ければ、紹介して頂けないかしら?」
「彼は今、帰国しています。
忙しそうで私も中々会うことはかないません。
たまたま知り合いだったという訳で、
今回こういう事になりましたが元々
顔見知り程度だったので、今後は
どうなるか分かりません。
お役に立てなくて申し訳ありません」
「そうなの……」
あからさまに落胆した姿をみせる
『レベル・XYZ』の女性。
「仕事の話、始めても宜しいでしょうか?」




