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理由がいるなら、いくらでも  作者: 采且ウサギ
王子、大人になる
38/79

17過去形

「あ、ヤバイ。こんな時間だ。

本当に明日試験だから

俺帰るけど、四堂……良いよな?」


石川君は何故だか四堂君に

窺うような声の掛け方をした。


「ああ、多分な」


「……そか。

じゃ桐江さん、申し訳ありませんが

ここら辺で失礼します。

資料は一通り拝見させて頂きました

今後の事は試験が終わったらすぐに

検討しますので」


石川君がバタバタと慌ただしく

帰って二人残されるような

形になってしまった。


さっきまでの口論とか

人の視線とかで悪目立ちしすぎて

なんとなく気まずい感じが漂う。



「場所変えましょうか?」



その四堂君の提案に

ちょっとだけホッとした。


本当だったらバーとか行けたら良いんだけど

相手は未成年、そういう訳にも行かない。


「四堂君、明日仕事はどうなってるの?」


「俺の事より、桐江さんこそ

いつも午前様なんでしょう?

身体大丈夫ですか?」


「俺、こう見えてタフだよ。

結構空いてる時にちょくちょく休憩

取ったりしてるしね。

……それとも俺、帰った方が良い?」



「そんな単純な駆け引きには応じませんよ。

少し歩きますが向こうの通りに深夜まで

やってる喫茶店あるんですけど、そこで

仕事の話、続きやりましょう」




店を出てすっかり暗くなった路地を歩く。


昔もこうして一緒に歩いたっけ。


数年経って又こんな風に一緒に

歩く日が来るとか

あの頃の考えもしなかった。




「…………」



チラリと横を見る。





――不思議だ。




隣にいる人物は同一人物なのに

まるで感覚が違う。


背丈半分だったあの子が俺より高くなって、

纏う雰囲気も全く異なっている。


しかも会話も仕事の話をしてるとか。



随分大人になったものだね。



「ひとつ向こうのテーブルの

女の子ずっと桐江さんを見てましたよ。

多分、桐江さんのタイプだったかな」



感慨に耽っていた俺は

四堂君のボソッとした小さな声に

我に返った。



「へぇ、じゃもう一度戻って声でも

掛けてこようかな」


ほんの軽い冗談のつもりだった。


「行かせませんよ」


ガッチリ腕を掴まれたその強さに

動けなくなってしまう。


冗談だって笑おうとしたのに

四堂君の目を見てその言葉を飲み込んだ。


「因みに、

これは嫉妬じゃありませんから」



「――!」


心のどこかで、そっちの意味で

引き止められたんじゃないかと

思っていたかもしれない。

それを見透かされてた様に

感じて恥ずかしくなった。



「……彼女、いるとか

言ってませんでしたっけ?」


あ……そういう設定だったか。

忘れてた、アブナイアブナイ。


「…………そうだね」


「彼女、ヤキモチ焼きでした?」


一瞬だけ何か違和感を感じたけど、

無表情で感情すら感じられない言葉。

そんな顔もするようになったんだと思いつつ、


「かな」


曖昧な返事を返す。


「別れて良かったんじゃないですか?

そんな下らないことでイチイチ

妬いていたら貴方の相手務まりませんからね。

その点、俺だったらそんな心配いらないのに」




「ふーん。随分と自信家なんだね」


「自信?無論ありますよ。

そうなるように努力してきましたから。

それとも、貴方にとって

俺は未だ子供ですか?」


「いや、驚くくらい良い男になってる。

俺が保証するよ」



「…………」



腕を取ったままの四堂君は無言状態、

そして焦れる程の間が空く。


そのポーカーフェイスからも

意図を上手く読み取れなくて

困惑するばかりで苦手だ。


しかも経験上、こういう訳の分からない感覚は

あまり良い結果をもたらさないのが常だしね。



「だったら、この俺と付き合いませんか?」


「な、何言ってんの?

俺、女の子が好きだし。第一彼女が……」



「本当はいないんでしょ?今。

何の為にレイの兄貴まで使ったと

思ってるんですか?」


やっぱり、その情報知ってたんだ。

石川め……あ、兄の方!


そういえばさっき四堂君の言い方が

過去形だった事に今更気が付いた。


続きは明日。

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