12再登場
栗色だった髪の毛は金髪、
目は眼鏡でちょっと見えづらいけど深緑。
「気づけという割には
まるで正体を隠すかのような登場の
仕方するんだね」
「ハハハ」
そこ笑って誤魔化すんだ?
見掛けも雰囲気はまるで別人で、
君もそれを承知の上でこんな手の込んだ
やり方を取ったんだろう?
「目の色は?」
「小学生の時はこの目だと目立つので
両親がカラコンを」
「髪の色は?」
「同じ理由で染めていました」
――そして、
静かに喋るその声は声変わりの所為か。
以前は腰より上くらいの背丈だったのに
今や、俺より少なくとも十センチは高い。
「偽名?クリスって」
見た目は確かにそっちの方が
しっくりくるけど……
「いえ、ミドルネームが
クリストファーなので」
「じゃ日本の戸籍のみミドルネーム
外していたの?」
「ええ。
四堂覚士は日本での通名ですよ。
アメリカと日本の国籍を持っていて
日本では便宜上ミドルネームは
必要ありませんし。
今でも仕事以外では日本名で通してますよ」
「え?でも日本ではその姿からして
却って目立たない?」
「ですね。
日本名で呼ばれると皆さん一瞬固まりますね。
それはそれで面白いので」
ニコっと笑う顔の綺麗な事と言ったら。
なんか性格……変わった?
「最初から言ってくれれば良かったのに」
「覚えて貰えてるかどうか――」
自信が無かったとかいうつもり?
そんな事、微塵も思ってないって
顔に出てるくせに。
「で、本当に四堂君?」
「ハイ」
「……成長、したね」
「そうですか?どんな風に?」
「なんていうか男らしくなったって
いうか、男前になったっていうか」
「お世辞でも桐江サンから
そう褒めて貰えるなんて光栄ですね」
お世辞じゃないよ。
言われるまで……否、言われて尚
君だと信じがたいくらい。
子供の時の姿から格好良くなるのは
分かっていたけど、とてもじゃないけど
あまりにも想像以上で。
姿も然ることながら、更に違和感を
感じさせるのはこの話し方か。
前はタメ口というよりかなり
ぞんざいな物言いだったからそれも
違いを強調させてる要因の一つに
なってるのだと気が付いた。
「前みたいに普通に話して。
敬語とか使わなくって構わないよ?」
「いえ。当たり前のことですよ。
年上の方にそれは失礼ですから」
「…………」
らしくない。
ああ、もしかしてそういう事?
どうしても一線を引いて置きたいとか?
それでも仕事と恐らくは
思い出したくもない過去は
別物としてとらえているんだよね。
そのドライな思考はビジネスにおいて
決して悪いものじゃない。
あくまで単なる知り合いだったとして
距離を取っておきたいのだろうと
理解して、それ以上突っ込むのを止めにした。
変わった。
――本当にあの時の彼とは違うんだ。
見掛けも……きっと中身も。
俺を見ていたのは多分観察だ。
そして変わっていない俺を見て
心の中で笑っていたのかもしれない。
なんか嫌われたものだな、俺も。
悲しいというよりもここまで来ると
苦笑いになってしまう。
あの時、俺に言った事を後悔してるなら
俺は全然気にしてないのに。
でもそれを口にすると折角
忘れようとしてるかもしれない彼に
嫌味と捉えかねられない。
その証拠に彼もその事には一切
触れてこないし。
だから俺も……
敢えて触れないようにしよう。
過去は過去、今は今だから。
それで良いんだよね?四堂君。
多分俺がこの会社にいると知ってれば
四堂君はうちを選ばなかったろう。
俺がいると分かった時さぞや
驚いたろうね。
それでも引き返せないくらい
契約を進めた後だったか……
もしかしたらそれで最初正体を
隠していたとかないよね?
果たしてどの時点で知ったんだろうか?




