11懐疑心
当の本人は両肘を付いて顔の前で手を組み
その上で顎を乗せてこちらを見ているだけ。
そこに微笑みさえ浮かべて……
その眼差しをどう受け止めて良いのか。
実は会議中から思っていた事だけど
時々視線を向けるとクリスも又
こちらを見ていた。
それも気の所為とは思えないほどの回数で。
そして、今この台詞だ。
「その容姿と物腰じゃ女性が放って
おかないでしょう。それで営業担当に?」
「え?いや……」
なに?こんな雰囲気の人だったっけ?
「――まさか枕営業とか?」
「なっ!」
これはセクハラ発言だ。
いくらクライアントと言えど、
言っていいことと悪いことくらい
子供だって分かるはずだ。
「そこまでしなくても充分、
口が上手い方なので
男女関わらず商談に持ち込める
自信ありますよ」
取引相手、しかも子供相手に何も
喧嘩腰になる等の愚行に走る程
俺も馬鹿じゃない。
「クククッ……」
だけど、更にクリスは
さも可笑し気に笑う。
「ああ、そうでしたね。
口だけじゃないんでしたっけ?
何なら試してみせて下さいよ」
(…………なんだ?)
そんなクリスに石川君が怒った顔で
制してきた。
「もうそれくらいでいいだろ、
いくらなんでもやり過ぎだ。
お前が言わないなら俺が言うぞ?」
(今……何か引っかかった……ような)
「ダメ。レイ、それは俺の特権。
邪魔するなって」
「ハァ。勝手にしろ」
石川君はガタッと徐に立ち上がった。
「スミマセン、俺試験に備えて
早く帰りたいのでこの辺で失礼致します。
仕事の件は一段落ついていますが、
もし何かご質問があればそこの男に
お聞き下さい」
「そ、そっかまだ高校生だもんね。
試験頑張ってね。って君なら
問題ないと思うけど」
「失礼します」
俺にまた深々と頭を下げたかと
思うと、クリスに振り向き直して
キッと睨み店を出て行こうと
するのを、クリスが腕を取って止めた。
「まぁ怒るなよ、座れって。
今日は祭日、明日は創立記念日だった筈。
見え透いた嘘がこの俺に通るとでも?」
余程強い力で握られているのか
振りほどけないと諦めたようで
再びしぶしぶと石川君は椅子に
座りなおした。
そのやり取りは多少子供じみていて
会社の同僚というよりやはり
気心の知れた友人同士といった感じに見える。
学生カンパニーらしいと言ったら
語弊を生じるだろうがそう思わずには
いられなかった。
決して悪い意味ではなく
俺は楽しそうで良い雰囲気の
会社なんだろうなと想像しながら。
「――余程仲が良いんですね。
どういう経緯で知り合ったんですか?」
その言葉にクリスは再び笑い出した。
「そろそろ気が付いて頂けませんか?」
「……え?」
「レイが登場した辺りで
俺が出てくるんじゃないかって
薄々思っていたんじゃないですか?」
「――!!」
ああ……その通りだ。
実際、
何度も疑ったよ、君じゃないかって。
アメリカ、頭脳明晰であろう十代の代表、
極めつけに小学生の時の同級生の石川君。
全てが君の存在を彷彿させていた。
――だけど、外見があまりに違っていて
ずっと否定し続けていたというのに。
五年?六年だっけ?
一番変化が著しい時期だけど
いくら何でも変わりすぎだ。
気が付く訳がない。
……君だとね。




