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理由がいるなら、いくらでも  作者: 采且ウサギ
王子、大人になる
30/79

9遅刻魔

「石川は……あ、兄の方ね、この事

知ってるの?」


「概ね存じております」


だと思った。


ここの兄弟仲良いもの。

弟クン昔っからどうしてだか

あのお兄ちゃんを大尊敬していたからな。



しかし――あの男、この間会った時

何故黙ってた?


絶対今日の事、俺の反応を

後で弟に聞いて楽しむつもりだ。


全くいい性格してるよ。



というか、あの喫茶店で会ったのも

今となっては偶然がどうか

怪しいものだ。



ヤレヤレ……



「じゃ、少し聞いてもいいかな?

社員の人はどういう構成?」


若干崩した言い方で

石川君に尋ねた。


「殆どはボスの学生の友人繋がりとか

あと公募とかですね」


君は?と聞こうとして、



「同じ日本の方で桐江とも知り合いとは

心強いです。それで代表はもう日本に?」


千葉さんの笑顔の切り出しに

かき消されてしまった。



「スミマセン。

少し遅れるみたいですが

じき来ると思います」


「いえいえ」



そう言われてから既に三十分経過。


……遅くない?


てか遅すぎるでしょ。


アメリカ人といえどビジネスなんだし

時間に多少寛大な民族といえど

打ち合わせにこうも遅れてくるだろうか?


事故か?それとも本当にルーズなだけ?


どっち!?ね?どっちなの?石川弟君!


今、滅茶苦茶顔に出して訴えてるんだけど

少しは気がついて貰えないかな?



一緒にきていた千葉さんがニッコリ

笑顔を崩さずに器用に

時々チラチラ時計を見てる。


一方、石川君は慣れているのか

連絡を取ろうという様子も一切見せず、

というか特に気にもしていようで

資料に目を通したり、質問してきたりと

とっても時間を有効に活用している。


俺はそんな対極の二人を見ながら

紅茶を嗜むといった具合の三者三様。



最初は店の扉が開く度にそっちへ視線を

向けていたけど、次第にそれさえ

しなくなった頃になって漸く

一人の人物がまっすぐこちらに歩いて

来るのに気が付いた。



見れば金髪で長身の青年。


その姿からして間違いなく

俺達が待っていた人物その人のようだ。


足取りから事故でないことは分かった。


あーもー単にルーズなんだね!?!?



大遅刻なんだから

せめて走って来ようよ、ボス!



「………………」



大事なクライアント様に

それは言えないけれど。


苦笑いしながら立ち上がって

俺はその目を間近で見た瞬間驚いた。


それは眼鏡をかけていても分かるくらい

吸い込まれそうな強烈な印象を

受ける瞳はダークグリーン。


男のこの俺ですら少し見入ってしまう位

物凄い美形だったからだ。

男に対して、興味ないこともあるけど

綺麗だとか思ったことは一度だって無い。


初めて“息を飲む程の”って形容詞を

体感してしまった。


「桐江」


「お……おはようございます」


だから、この言葉を発するのに

大袈裟じゃなく数十秒は要したと思う。


握手を求められる手を差し出されて

漸く自分失態に気が付いた。


代表といってもこの青年だって未だ十代の筈。

のまれちゃいけない、

握手を交わす手に若干力をこめて握り返した。


「お噂は予々お聞きしております。

本日お会い出来て光栄です。

私、担当させて頂いてる桐江直継と申します。

この度は弊社を選択頂き

誠にありがとうございます」


代表は俺の渡した名刺を見てニッコリ

微笑むと、


「『トリガーK』及び『Updraft=Faust』

代表クリスです。

大変真摯にやって頂けてるとうちの者から

報告を受けています。

生憎、名刺は持ち合わせておりませんが

クリスと呼んで頂ければ結構ですよ、

今後も宜しくお願いします。」


流暢な日本語で全く淀みもクセも無い。


「了解したしました、Mr.クリス。

必ずご満足して頂けるよう尽くしますので

宜しくお願い致します」



「ええ、期待してます」


そう言いながら握手を解いて

お互い席に着いた。


実に堂々としてる。

とても未成年には思えない。

俺が学生の頃なんて……

やっぱ向こうで勝ち残っていくには

こうでなければつとまらないんだろうな。


飛びぬけた容姿と立ち振る舞い

全てが凄い存在感。


俺達の話を一通り聞き終えると

石川君と英語で何かやり取りをしている。

やっぱ英語くらい覚えておかないと

こういう時何を話してるか全然分からないとか

情けない。


頃合を見て千葉さんが、


「良いお店があるのですが

お昼ご一緒致しませんか?」


と誘いをかけるも、


「そうしたいのは山々ですが、日本で

やるべきことが未だ山積してますので

又、次の機会にでも行きましょう」


日本人特有の回りくどい言い方はせず

実にアッサリと断られてしまった。


「取りあえずは明日」



「ええ。では明日、

弊社でお待ちしています」


二人が出ていく姿を見送り

時間が空いた俺達はその店で

そのまま少し早いお昼を取ることにした。


「CEOも若いな~いくつだ?

あ、聞き損なったなぁ。

しかも顔もスタイルもモデル級だぞ、アレ」


「ですね……」


千葉さんが話している間

俺はずっと上の空だった。






本当は―――



本当は、石川弟の登場で

内心もしかしたら今日来る

もうひとりの人物は

四堂君じゃないかと思っていた。


それは期待だったのか或いはその反対だったのか

俺には判断がつかないけど……

そんな気がしていたんだ。


しかし現れた青年は金髪の緑の目をした

全くの別人。



石川君がいたことで動揺してしまったのかな。

そんな事そうそうあるわけないのに……



本当――どうかしてる。



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