17幻覚じゃありません
昨日のアレは何だったんだろう?
気になって仕方がないけど
何か良い意味で言われたんじゃないって
のが分かるだけに本人に聞きづらい。
でも……初めて見た。
四堂君があんな風に感情的になってる所。
普段、蔑まれてるか、呆れたような
感じで見られてるのに少し慣れ気味
だったことにも、ちょっとどうかと
自分にツッコミたくなるけど。
折角仲良くなれてきたって思って
いた矢先だったのにな。
あんな風になるなんて……。
同世代の友達も出来たんだし
そろそろ潮時かもしれない。
もう会うのはやめた方がいい……のかな。
そう決め朝のお迎えを自粛し始めて
二週間位過ぎた頃だった。
「うーぃ。皆、席付け」
担任の阿部の号令が何故か暗い。
「あ゛―皆に知らせがある。ハァ」
いつもより格段に覇気が無い様子が
逆に注目を集めるという怪現象が
起こり始めていた。
裏を返せば、
それだけ普段が小煩いって話。
(なになに?阿部セン、アレか?)
(男にアレねーし)
至極どうでもいい話があちらこちらで
咲き乱れる。
「黙れ……面倒くせーから、端的に言う。
新しい講師の先生がいらっしゃった。
見て驚きやがれ」
「なんだよー……講師かよ。ダセー」
「どーせ又、男だろ!もういらねーよ」
「阿部セン、カーチャンでもいいから
連れてきてよぉ、遊んであげるしぃ。
何なら、桐江が口説くって言ってるよー」
「うわ!マジか、節操ねー!
さっすが、桐ちゃーん!!」
クラスが笑いでどよめいた。
言ってないから。
いい加減、女=俺って公式やめて欲しい。
皆の興味が一気に阿部から離れようとした
その時、ゆっくり入って来た講師に
俺を除いた全員が悲鳴というか
阿鼻叫喚というか、さっきとは
比べ物にならないくらいのどよめきが起こった。
何で俺以外かというと
その時、俺はちょうど消しゴムを落として
拾っていたからだ。
「き、き、き」
前の席の鈴木が油を差し忘れた
機械のような声を出している。
「鈴木?知らなかった、
……お前ロボットだったのか?
何?油か?油、欲しいのか?」
「き、桐江!前!前!前見ろ!!」
後、小さい声でお前、後でコロスと
聞こえた気がした。
は?前?男みても……。
「えええええええええええええ!!!!??」
講師と紹介されたそこには
あの、あの四堂君が立っていた。
「し、四堂君!!??」
半目で四堂先生、ご自分でご紹介
どうぞとトーンダウンしてる
阿倍の言動の意味をこの時点でやっと
理解した。
「こんにちは、皆さん。
四堂覚士と言います、臨時で物理と英語を
担当することになりました、宜しくお願いします。
余興程度にお付き合い頂ければ幸いです」
こう見えて結構年食ってるんですよ、
主に精神年齢がと満面の笑みで付け加えて。
皆、頭の中はきっと「?」状態のまま
斬新な講師君に釘付けだ。
「まーなんだ。ハァ……臨時講師と
いってもだな、一週間だけだ、ハァ。
英語はさっき聞かせてもらったが
外人かと思った。
んで、物理に関しては来年博士号を
取られる予定だそうだ……ハァ。
こんな子供が」
台詞の間の溜息が深いこと深いこと。
しかも今チラリと心の声漏れてた様な……。
不本意なのが阿倍の一言一言から
ヒシヒシと伝わってくる。




